コロナ禍でさらに加速したネット販売への需要は、コロナが収束しつつある今も変わりません。そのため、新たに「ネット販売」を行う企業が増える可能性も。しかし、ノウハウもないから不安…と感じることもあるはずです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、未経験のネット販売について、ChatGPTの意見を聞けば大丈夫と話します。
ネット販売への移行ステップ
こんにちは。
激動の時代です。既存のものがいろいろと壊れます。ですから、新しいことをしなければならない。
でも、新しいことは未経験のことであり、できればやりたくない。そうなると、新人に大仕事が振られることもあります。例えば、ネット販売を立ち上げるプロジェクト。
でも、新人でも大丈夫。ChatGPTに聞けばいいんです。
ということで、やってみました。それだけではまとまらないので、ベテランコンサルの私も手伝いましたぞ。
1.ネット販売に移行しないと生き残れない
アパレル製品販売のネット販売の比率が増えています。多くのアパレル企業は店舗流通により成長してきました。店舗デザインやVMDにより、ブランドを視覚的に表現することで人気を集めたのです。しかし、その店舗流通での成功体験がネット販売への移行を妨げています。ネット販売を行うと、既存の店舗の売上が落ちます。小売店に卸売をしているアパレル企業は、自社でネット販売を行うと、既存の小売店から猛烈な抗議を受けることになります。
しかし、そんなことを言っている余裕はありません。アマゾンに出店しているのは9割が中国メーカーであり、アマゾンの売上は伸びています。これは中国メーカーと日本の顧客が直接結びつき、日本のアパレル企業、アパレル小売店が中抜きされているということです。このままでは、更に日本のアパレルビジネスは衰退していくでしょう。
また、日本企業が中国生産することも次第に困難になっています。国内生産に回帰しようとしても、価格が合いません。いずれにしても、既存のビジネスモデルを維持できない状況です。
国内生産を生かすには、ダイレクトに消費者に商品を届ける利益率の高いビジネスが望ましく、そう考えるとネット販売を外すことはできません。ネット販売への移行は、今後の生き残りの重要なポイントなのです。
しかし、社内の誰も経験したことがありません。そんな場合、どのようにネット販売への移行を考えれば良いのでしょうか。
2.ネット販売移行までの流れ
そこで、最初にネット販売に移行する際の大まかな流れを整理しましょう。これらの条件をクリアしないとネット販売には至りません。
(1)オンラインストアの作成
ネット販売を行うためには、オンラインストアを作成する必要があります。自社で作成するか、ECプラットフォームを利用するかを選択することができます。
(2)商品の撮影・登録
商品をネット販売するためには、商品の写真を撮影し、商品ページに登録する必要があります。商品ページに、商品名・説明・価格などの情報を掲載することができます。
(3)在庫管理
ネット販売では、在庫管理が非常に重要です。商品が在庫切れにならないよう、適切な在庫管理を行う必要があります。
(4)発送・配送
ネット販売では、発送や配送の方法も考える必要があります。適切な発送方法や配送業者を選択し、顧客に商品を届ける必要があります。
(5)マーケティング
オンラインストアを作成しただけでは、商品が売れるわけではありません。適切なマーケティング戦略を立て、顧客を獲得することが必要です。例えば、SNS広告やメールマガジンなどを活用することができます。
以上が、ネット販売に移行する際に考えるべき大まかな流れとなります。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
3.ECプラットフォームについて
まず、オンラインストアの作成ですが、最小限度の人数と予算でスタートする場合、ECプラットフォームを利用する方がコストや時間の面で有利でしょう。
自社でオンラインストアを作成する場合、ウェブサイトのデザインやシステム開発など、多くの作業を行う必要があります。また、SEO対策やサイト運用なども必要です。これらの作業には専門的な知識や技術が必要であり、それに応じた人員の確保やコストが必要になるからです。
ECプラットフォームを利用する場合、ECプラットフォームが用意しているテンプレートや機能を利用することで、簡単にオンラインストアを作成することができます。ECプラットフォーム側でSEO対策やサイト運用なども行うため、自社で行う必要がありません。また、ECプラットフォーム側で発生する手数料や月額費用はかかりますが、自社開発のコストと比較するとを安価に済みます。
ただし、ECプラットフォームを利用する場合には、プラットフォーム側で定められたルールや条件に従う必要があります。自社で制作する場合には、自由度が高く、独自のオンラインストアを作成することができます。そのため、自社で制作したいという場合や、ECプラットフォームを利用しても限界を感じる場合には、自社で制作することも検討するべきでしょう。
具体的なECプラットフォームとして、以下のいくつかのサービスを紹介します。
(1)Shopify(ショッピファイ)
世界中で利用されている大手ECプラットフォームの一つで、初心者でも簡単にオンラインストアを作成できる点が特徴です。豊富なテーマやアプリも用意されており、カスタマイズ性が高いのも魅力です。
(2)BASE(ベイス)
国内で利用されているECプラットフォームの一つで、利用者数も多く、初心者でも扱いやすい点が特徴です。月額費用が安価で、売上に応じて手数料がかかるタイプのプランも用意されています。
(3)WooCommerce(ウーディズ)
WordPressと連携して利用できるECプラットフォームで、WordPressを利用している場合には手軽にオンラインストアを作成することができます。WordPressのプラグインとして提供されており、カスタマイズ性が高い点が魅力です。
(4)Amazon Pay(アマゾン ペイ)
Amazonが提供するオンライン決済サービスで、Amazonのアカウント情報を利用して決済ができる点が特徴です。Amazon Payを利用することで、Amazonの顧客基盤を活用することができます。
とりあえず、ネット販売を体験するには、上記のWEBサイトを比較検討して、試験的にスタートすることが重要だと思います。それと並行して、上記以外にも様々なECプラットフォームについても検討を進めましょう。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
4.全社的なネット販売への理解
会社としてネット販売に移行するには、経営陣を含めた全ての部署の責任者にネット販売への理解や知識の共有が必要になります。担当者だけで進行するにしても、必ず組織や予算の問題にぶつかります。ネット販売とは一つの部署だけで完結するものではなく、全社的な取り組みです。全社的なECビジネスに必要な知識や情報を共有するためには、以下のような方法で勉強してもらいましょう。
(1)ECに関する書籍やWeb記事の読み込み
ECに関する書籍やWeb記事を読み込むことで、ECビジネスに必要な知識や情報を習得できます。特に、成功事例や失敗事例を学ぶことは、ビジネスの戦略を考える上で大変役立ちます。有効な記事のファイルを回覧したり、共有する仕組みをつくりましょう。
(2)ECに関するセミナーや勉強会の参加
ECに関するセミナーや勉強会に参加することで、最新のトレンドやノウハウを学ぶことができます。また、他社の経験を聞くことで、自社のECビジネスの改善点やアイデアを得ることができます。
会社がセミナーや勉強会を主催することは、講師の専門家とのコミュニケーションや社員間の情報の共有にも役立ちます。また、会社の業務の一環として、外部のセミナーを受講させることも効果的です。これにより、社外の人的ネットワークを構築することができます。
(3)ECプラットフォームの利用
実際にECプラットフォームを利用し、ECビジネスの仕組みや手続きを学ぶことができます。
最初の段階では商品を絞り、小さな規模で試験的な運営を行いましょう。
(4)社内勉強会の開催
社内勉強会を開催し、各部署の担当者が自分たちの業務に関するECビジネスの知識を共有することで、全体最適化を図ることができます。
この勉強会では、社内の実践的な情報共有、知識の共有が主な目的となります。必要ならば外部の専門家にファシリテーターをお願いしても良いと思います。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
5.ネット販売を成功させる組織と役割
店舗流通のビジネスが主体で、ネット販売未経験の会社は、ネット販売のノウハウが理解できていないので、軽く考えている場合があります。極端な場合、「担当者を一人専任すれば、何とかなるのではないか」と考えます。そして、担当者だけが悩み、周囲から責任を追求されるのです。
最初に、ネット販売にはどのような組織と人材が必要なのかを理解する必要があります。
以下は、一般的なEC事業の社内組織と人員配置の例です。
(1)経営陣
経営戦略の立案や予算管理、事業成果の評価などを担当します。
(2)EC事業責任者
EC事業全体を統括し、各部署の調整・指揮を行います。EC事業に関する方針・戦略の立案や実行にも関与します。
(3)WEBサイト企画・設計チーム
WEBサイトの企画・設計・構築を行います。WEBデザイナー、WEBディレクター、HTMLコーダー、システムエンジニアなどが所属します。
(4)オンラインマーケティングチーム
オンライン広告、メールマーケティング、SNSマーケティング、SEOなどを担当します。デジタルマーケティングに精通したスタッフが所属します。
(5)カスタマーサポートチーム
問い合わせ対応や注文確認、配送など、お客様とのやりとりを行います。電話・メールなどのコミュニケーションスキルが求められます。
(6)物流・在庫管理チーム
商品の仕入れ、在庫管理、配送業務を担当します。物流・在庫管理に関する知識や経験が必要です。
(7)商品企画チーム
EC事業において提供する商品の企画・開発を行います。トレンド分析や市場調査、競合調査などが必要です。
以上のように、EC事業においては、ウェブサイトの構築やオンラインマーケティング、カスタマーサポート、物流・在庫管理、商品企画などの専門的な業務が必要となります。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
6.小さなビジネスからスタートする
ネット販売の必要性を理解していても、実現が容易ではないことや、創造していた以上に経費が掛かりそうだと分かると、「ネット販売は時期尚早」として、プロジェクトを中止してしまうかもしれません。
また、万全の準備をしてからスタートしようとすると、いつまでたってもスタートできません。また、最初から十分な予算を確保するのも困難です。
そこで、小さいビジネスからスタートする場合の手順について整理してみました。
(1)プロトタイプの作成
最初から大規模なECサイトを作成するのではなく、プロトタイプとして少ない商品数での販売を行います。これにより、最小限の費用で市場の反応を見ることができます。
(2)テスト販売
プロトタイプの商品を、小規模な広告キャンペーンを行いながら販売します。その際、商品の販売数や反応、購入時の手続きの問題点などを把握し、改善に取り組みます。
(3)集客の強化
テスト販売が成功した場合、次は集客の強化を行います。SNSやSEO対策、メールマガジンなどを活用して、効果的な集客を行いましょう。
(4)販売商品数の拡大
プロトタイプの販売が順調であれば、商品数を拡大していきます。ただし、商品の品質や在庫管理、発送などの品質管理が大変になるため、事前に体制を整える必要があります。
(5)マーケティングの改善
EC事業においては、マーケティング戦略の改善が非常に重要です。競合分析や顧客分析を行い、顧客のニーズに合わせた商品やサービスを提供することで、顧客獲得率を高めることができます。
(6)拡大ステップ
以上のステップがうまく進んでいれば、次は商品数や取り扱いカテゴリーを拡大し、EC事業を拡大していくことができます。
以上のように、小さなステップでEC事業を始め、着実に改善しながら拡大していくことが成功へのステップとなります。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
7.ネット販売に必要な投資
企業が事業として取り組むのですから、小さな規模のままでは困ります。例えば、年商3億円程度のビジネスを行うには、どのような費用を予算計上することが必要でしょうか。
以下に必要な投資について考えてみました。それぞれの項目について、予算見積もりをしてみましょう。
(1)オンラインストアの構築費用
ECサイトの作成やカスタマイズ、システム開発や保守、デザインなどの費用が必要になります。自社で開発する場合は、エンジニアの雇用や設備投資が必要です。
(2)広告費用
広告費はECビジネスにおいて非常に重要な要素です。適切なターゲティングとクリエイティブな広告コピーを設計し、適切な広告媒体に投資する必要があります。広告費にはGoogle AdWords、Facebook広告、インフルエンサーマーケティング、リターゲティング広告などが含まれます。
(3)人件費
EC事業を展開するためには、ECサイトの運営に必要なスタッフが必要です。WEBデザイナーやエンジニア、コンテンツライター、カスタマーサポートスタッフ、デジタルマーケティングスタッフなどが含まれます。
(4)物流費用
ECビジネスでは、商品の保管、梱包、発送、配送追跡などの物流に関わるコストが必要になります。最適な物流会社との契約を行い、顧客への迅速で正確な配送を実現することが重要です。
(5)商品の仕入れ費用
ECビジネスでは、商品の購入や生産に必要なコストが発生します。安定した商品供給を確保するために、取引先との良好な関係を築くことが必要です。
以上は最低限必要とされる投資ですが、これ以外にも、顧客ニーズの分析や顧客体験の向上、新しい商品の開発や販売促進キャンペーンの実施なども重要になります。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
8.ネット販売で成功するポイント
結局、ネット販売においては、小さな規模であっても、ある意味でやることは同じです。小さな規模でも集客やマーケティングを考えなければなりません。
小さな規模でスタートすることは、小さな予算からスタートすることであり、試験的な運用を行いながら、ノウハウを蓄積することを意味します。
最後に、基本に戻って、ネット販売で成功するポイントについて整理してみましょう。
(1)魅力的な商品ラインナップ
EC事業において、魅力的な商品ラインナップを用意することが成功の鍵となります。
店舗販売では、ブランド訴求が主となりますが、ネット販売は商品訴求が主となります。デザイン、素材、付属、パターン、縫製等の細部に到るまでの商品ストーリーが重要です。
トレンドも重要ですが、むしろブランドアイデンティティがより重要です。平均的な商品よりも、好き嫌いがはっきりした個性的な商品の方がネット販売には適しています。
(2)顧客ニーズの把
顧客が何を求めているかを正確に把握し、それに合わせた商品やサービスを提供することが重要です。アパレルの場合、トレンドや季節によって需要が変わるため、常に市場動向をチェックし、顧客ニーズを把握することが必要です。
(3)商品情報の充実:ECサイトでは商品画像
や説明文が非常に重要です。商品の魅力を伝えるために、鮮明な画像や詳細な説明文を用意することが大切です。また、サイズや素材などの情報も明確に提示することで、顧客に安心感を与えることができます。
(4)使いやすいサイト設計
ECサイトの使いやすさは非常に重要です。ユーザーがストレスを感じることなく、簡単に商品を見つけ、購入できるサイト設計が必要です。また、スマートフォンに対応したレスポンシブデザインが必要不可欠です。
(5)効果的なマーケティング戦略
EC事業において、効果的なマーケティング戦略を展開することが重要です。SNSを活用したプロモーションやメールマガジンの配信など、多様な手段を用いて、ターゲット層にアプローチすることが必要です。
店舗販売では来店した顧客に対応するのが販売員の仕事でしたが、ネット販売では自らがインフルエンサーとなり、潜在的な顧客に訴求することが求められます。
店舗販売の販売員の新たなキャリアアップとしてこの仕事を定義するのも良いでしょう。
(6)スピーディーな物流体制
EC事業においては、スピーディーな物流体制が求められます。注文から配送までのスピードや追跡サービスの提供など、顧客にとって便利な配送体制を整えることが重要です。
様々な切り口で課題を整理しても、同じ要素が何度も出てきます。規模の大小に関わらず、必要な要素は変わりません。
店舗流通とは全く異なるノウハウが必要であり、異なるスキルを持った人材も必要です。それでも、ビジネスの変化に対応しなければならないということを理解して、新たな挑戦に挑んでいただきたいと思います。
編集後記「締めの都々逸」
「ChatGPT 正義の味方 人は悪役にもなれる」
ChatGPTに相談すれば、何でもできるのではないか、と考え、いろいろと試しています。やってみると、きれいにまとめるのは得意ですけど、どこか非現実的です。それは、アナログな現実をベースにしていないからです。
今回のネット販売への移行という課題も、必要十分条件を羅列するのは得意ですが、現実を理解して、優先順位をつけることは、人間が担当した方が早いでしょう。
ChatGPTは、偏った意見を言わないし、決めつけません。ですから、こちらが判断しなければならない。しかし、現実には、社内で判断できないから、外部に委託するわけです。外部のコンサルタントは場合によっては、悪者になったり、嫌われ役を担当しなければなりません。これはChatGPTにはできないでしょう。(坂口昌章)
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com