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「対話」の重要性。ChatGPTの誕生がプラトン哲学を復活させる

我々の生活のあらゆるものを変えるかもしれないAIという存在。中でも、ChatGPTに期待の声をあげる人はとても多いようです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんもその一人。対話形式のChatGPTがプラトン哲学を復活させるとしながら、様々な可能性に言及しています。

ChatGPTによるプラトン哲学の復活

こんにちは。

私は技術の進化によって人間がどのように変化するのかに興味があります。

例えば、デジタルなゲームの登場により、操作する人間の能力も進歩を続けました。これまで経験したことのない刺激に直面すると、人間は夢中になり、その刺激に対応しようとするものです。

活字印刷による書籍が生まれ、小説が進化し、それを読む人の想像力も進化しました。映画の誕生により、動画を見る経験をした我々は映画に夢中になりました。

そして、今我々はChatGTPに出会いました。チャットは対話です。人間の相手が不在でも、人は対話をすることが可能になったのです。これは、人間の知能に大きな影響を与えるのではないか。そんなことを考えています。

1.ChatGPTは知的労働の機械化を促す

ChatGPTの登場は、知的労働の機械化を意味しています。

しかし、対人的なコミュニケーションや創造的な仕事などは、人間の特性が必要であり、ChatGPTでは代替できないとされています。対人コミュニケーションとはどんな場合に生じるのでしょうか。

例えば、商談です。価格競争や条件交渉が行われ、最終的に納期、数量、価格が決定し、契約が結ばれます。これは、AI同士が直接つながるようになれば、人間は必要なくなるでしょう。

それでは社内の対人コミュニケーションはどうでしょうか。私は、最初に中間管理職の業務がAIに置き換わると考えています。

例えば、小売店で実際に接客販売する販売スタッフは必要です。しかし、予算を組み立てたり、売上を管理したり、値下げの指示や商品移動の指示はAIの方が的確ではないでしょうか。また、勤務ローテーションの調整もAIが行うでしょう。

これまでは都心の本社が司令塔であり、地方の工場や全国の店舗をコントロールしていました。しかし、本社機能はほとんどがAIに置き換わると思います。

もちろん、全ての人員が必要ないとは言いません。最初は、人間の補助をAIが行い、軌道に乗れば十分の一、百分の一の人員で回るようになるでしょう。

創造的な仕事についても、AIが補助するようになります。現在、人間が担当している画像作成、文章作成、音楽作成、音声合成、デザイン、編集等についても、様々なAI搭載のアプリケーションが誕生しており、かなりの部分がAIに置き換わるでしょう。

コンサルタントの業務もアシスタントレベルであれば、かなりの部分がAIに置き換わります。

現在はまだ発展途上ですが、今後、創造的な仕事と思われていた分野も、次々とAIに置き換わっていくと思います。

そう考えると、対人コミュニケーション、創造的分野もまた、人間が独占できる分野とはいえません。ということで、かなりの分野が自動化、無人化が進むと考えられるのです。

 

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2.大学入試と受験勉強が変わる

大学教育もChatGPTの登場により、変化していくはずです。最近のニュースでは、司法試験や医師国家試験の筆記試験も、ChatGPTの解答で合格レベルに達しているそうです。大学の学位論文でも、ChatGPTを禁止すべきか否かについて議論が進んでいます。

かつて、電卓が登場した時、算数の宿題に電卓を使ってはいけないとか、電卓を使って問題を解いてはいけないと言われました。しかし、電卓で簡単に解けるような単純な計算問題は次第に少なくなり、応用問題が増えてきたように感じます。

同様に、ChatGPTの登場により、暗記すれば解けるという問題は減って、自分の頭で考える問題が増えると考えられます。

また、ChatGPTを使うことにより、今まで不可能だった入学試験ができるようになるかもしれません。例えば、ChatGPTと対話しながら、様々な分野の知識や考え方が採点できるのであれば、暗記中心の受験勉強ではなく、幅広い知識、優れた人格形成、社会性の理解等が受験勉強になるかもしれません。

ChatGPTが進化した時代も、長文の読解力が求められるので、課題図書を数十冊指定し、その中から質疑応答を行うことも考えられるでしょう。

このようにChatGPTを活用することにより、受験が変われば、受験勉強も変わり、高校、中学の授業も変わるでしょう。

3.対話を主とした動的な知性

もちろん、大学の講義も変わらなければなりません。教授が一方的に自分の考えを押しつけるのではなく、学生の力を引き出すコーチングのようなスタイルも重要になります

また、教授自身がChatGPTを活用して、時代に対応した事例を交えた講義をすることもできるようになります。

大学での学びには、知的深化や批判的思考力、学問的アプローチなどの、独学だけでは得られにくい価値があるとされます。しかし、これらは講義型の授業で身につけるのは困難です。しかし、プラトンのように対話を軸とした授業にすることで解決できるかもしれません。

例えば、テーマを決めた上で、教授と学生、学生同士で対話を行います。それらの対話は全て記録され、ChatGPTがテキスト化します。そこから各自の問題意識や思考を分析し、採点できるでしょう。また、ChatGPTが編集して、一度の対話で一冊の書籍にまとめることも可能でしょう。

学生単位で発言内容をまとめることも可能です。それをフィードバックし、他の人々との対話と比較することで、更に思考は深まります。

こうなると、対話内容をChatGPTに論文として編集してもらえば良いのではないでしょうか。その代わり、全て自分で書いた論文1本と、対話の論文10本を同様に評価するというようなルールを定める必要が生じるかもしれません。

ChatGPTは長文の要約を作成することもできるので、批評や採点の案をChatGPTが作成し、それを教授が認めることもできます。

ChatGPT活用の対話型の授業を行うことで、大学の存在意義は高まることでしょう。

 

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4.ChatGPTがプラトン哲学を復活させる

ChatGPT以前の教育は、教える側から教えられる側への一方的な情報の流れが主でした。試験についても、質問が一方的に出され、それに一方的に解答するという形式です。これなら、論理は固定することができます。権威ある先生による論文や書籍が正しいというルールを作れるのです。

古代ギリシャのプラトンは、対話形式により、哲学を表現しました。対話形式は話し言葉で書かれることが多いため、記述が分かりやすく、思考の筋道を読者が追うことが可能です。対話形式は動的な論理を生みだします。何が正しいのかは対話の中で常に変化します。正邪に絶対はなく、常に相対なのです。

対話形式はChatGPTに共通しています。チャットという形式は対話形式であり、平易かつ論理的な記述がなされます。絶対的な正義の論理ではなく、膨大なデータから自在に論理を組み立てているのです。

更に、ChatGPTは音声入力も可能です。二人の人間が対話している様子を記録すれば、それをテキストに起こすことができます。更には、翻訳や読みやすい文章に校正することも可能です。対話を取り扱えるメディアでもあるのです。

ChatGPTはチャットの中で、次の会話がどのようなものかを予測しています。その繰り返しにより、優れた知性を獲得しました。

人間も対話の中にこそ、論理的思考、哲学的思考を深めることができるのではないでしょうか。

一方的なモノローグは、思想を統制したり、情報をコントロールするのに適しています。現代社会の教育がモノローグ形式に集約しているのも、情報統制が目的かもしれません。

対話形式は、議論の方向がずれたり、論理が飛躍することもありますが、反面、自由な発想の相乗効果が生まれます。新たな思想が育つ可能性が高いのは対話形式です。

ChatGPTの誕生は、プラトン以来の対話形式による哲学を復活させるかもしれません。人間とChatGPTの対話、そして、ChatGPTによる人間同士の対話の記録と編集が可能になります。

現在はChatGPTの弊害や人間の仕事を奪うことばかりが強調されていますが、実は、対話形式により人間の知性の進化を、一部の人間が恐れているのではないでしょうか。

そもそも絶対的な正義や絶対的な悪が成立しないのですから、人間とAIが対立して戦争になることなどありません。人間の中にいろいろな意見があるなら、AIにもいろいろな意見があります。ある意味で、日本的な八百万の神々の世界、多神教の世界が誕生しようとしているのかもしれません。

■編集後記「締めの都々逸」

「哲学生むのは 対話じゃないか チャットも対話だ哲学だ」

現段階のChatGTPは、まだ対話の相手としては不十分です。あまりにも優等生であり、偏った意見をいうことができないように設計されているからです。つまり、仮説を立てる能力が低い。低く設定されているということです。その反面、現実の事象を元に網羅的な意見をいうことはできます。

それと、問題解決のために、嘘をついてでも相手を説得するということはできません。ChatGTPの嘘は、単なる知識不足で適当なことを言ってしまうだけです。全てが分かった上で、一定の方向に導くような嘘をつくようになると、これは陰謀に使えます。

もしかすると、既にそういう研究はなされているでしょう。メディアをコントロールするように、AIをコントロールしたいと思っている人間が存在するからです。

考えてみれば、人間も洗脳されるわけですから、AIが洗脳されないわけがありません。いずれにしても、今後の進化が楽しみです。(坂口昌章)

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