広島で開催されたG7サミット。この本当の目的は「グローバルサウスを巻き込んだ結束強化」だったと、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは見ています。今回のメルマガでは、 グローバルサウスとは何か、日本が目指すべき支援の内容について語っています。
日本が目指すべきグローバルサウス支援
こんにちは。
広島で開催されたG7サミットは、各国首脳を広島の原爆資料館に案内するのが目的だと思っていましたが、実は、グローバルサウスを巻き込んだ結束強化が目的だったようです。日本のテレビを見る限り、岸田さんが世界の指導者を自分の選挙区に招待した意義ばかり強調されていたように思います。
そこで、グローバルサウスについて考えてみました。
1.G7とグローバルサウス
西側先進国と呼ばれるG7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)に将来性はあるのでしょうか。高齢化と人口減少。経済は成熟し、成長は鈍化しています。
一方で、グローバルサウスと呼ばれるアフリカ、中東、中央アジア、南アジア、東南アジア、中央アメリカ、カリブ海地域、南アメリカの一部などに位置する発展途上国は、人口は増加し、経済は成長しています。豊富な天然資源を持つ国も多く、資源国としても注目されています。
更に、国際的な政治課題である、「持続可能な開発と国際協力」の中心に位置しており、先進国も無視できない存在となっています。
G7諸国は中国、ロシアと対立し、様々な経済制裁を課しています。グローバルサウス諸国にも制裁を呼びかけていますが、反応は冷やかです。食糧や兵器をロシアに頼る国が多く、産油国の連帯もあります。
中国も一体一路でグローバルサウス諸国に対して積極的な支援を行っています。「債務の罠」があったとしても、何もしない西側先進国よりは頼りになると思われています。
2.中東で高まる中国の存在感
サウジアラビアは、長年、米国と有効な関係を築いてきましたが、現在は距離が拡大しています。
バイデン大統領は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対して、ジャマル・カショギ氏殺害の容疑があると非難していましたが、22年6月に原油価格が上がると、サウジに飛び、原油増産を依頼しました。しかし、サルマン皇太子は、原油価格上昇につながる原油減産を決定。バイデン大統領は、これをロシアに肩入れしていると非難しました。
22年12月、中国とサウジアラビアが人民元によるクロスボーダー取引を行ったことが発表されました。これまで原油取引は米ドルで行うことがルールであり、それがドルの基軸通貨として裏付けでした。
更に、23年3月、中国の仲介でサウジアラビアとイランが外交関係の正常化で合意しました。また、中国とサウジは初の人民元建て融資協力を実施しました。
明らかに世界に対する米国と米ドルの影響力は低下しているのです。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
3.相手の立場でインフラ開発支援を
日本の岸田首相は、全面的にバイデン政権を支持していますが、現在の世界情勢を見ると、少し不安になります。米国は次の大統領選挙で、共和党政権が誕生するかもしれません。もし、トランプ氏が再選した場合、日本の政策も転換を余儀なくされるでしょう。
また、中国とロシア、中東産油国が結束すれば、日本、台湾、米国への原油供給を制限することも可能です。米国が弱体化する状況では、資源国からG7の資源供給制裁もあり得るのです。
いずれにせよ、日本は世界情勢を視野に入れながら、グローバルサウス諸国とも良好を関係を構築し、バランスの取れた多面的な外交と国際協力を進めていくべきでしょう。
例えば、グローバルサウスに対して、様々なインフラ開発支援を行うことが可能です。
日本の特徴は、現地に利益を還元しながら、人材や技術を育成し、持続可能な開発ができることです。
地元の企業と連携して、道路整備や鉄道整備を行い、そのメンテナンスの方法も指導します。
エネルギー開発にしても、安全な小型原子力発電、バイオマス発電、アンモニア発電、水素発電など、様々な技術が存在するので、現地の状況に応じて適切な方法を選ぶことができます。
農業支援も日本の得意な分野です。気候や土壌にあった作物を選定し、その栽培技術を工場させることができます。
医療支援も、高度な専門医療から感染症予防対策、衛生管理まで、きめの細かい支援が可能です。
教育支援についても、幼児教育から高等教育、ビジネスや技術の専門教育まで、あらゆる分野のあらゆる段階の教育が可能です。
重要なことは、日本人が得意とする、相手の立場に立った支援です。礼儀正しく、相手を尊重する態度で支援することができれば、日本との関係も持続可能なものになるはずです。
■編集後記「締めの都々逸」
「ノース、サウスと 区分けをしても それで喜ぶ人もなし」
個人的に岸田首相がバイデン大統領を全面的に支持していることが不安でしかたありません。米国は弱体化し、世界の信用を失いつつあります。金融バブルも崩壊寸前です。
一方で、かつての発展途上国が存在感を強めています。彼らは米国のように、一方的にロシアや中国を悪者とは思っていません。今回のサミットでも、米国の思惑通りにはなりませんでした。
G7は成熟しています。成長の余地はあまりありません。対して、グローバルサウスは成長の可能性が大です。
そもそも日本は資源国と密接な関係を結ぶことが重要であり、米国の言いなりになって敵を作ることではない、と思うのです。
米国の弱体化は、日本への圧力が減少することを意味します。日本が自立するチャンスです。外交政策を根本的に変える時期に来ているのではないでしょうか。(坂口昌章)
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
image by: Poetra.RH / Shutterstock.com