成績が上がったら好きなゲームや洋服を買ってあげるなど、親が子どもに勉強させるために取りがちな作戦ですが、実はこれ、効果のほどは疑わしいようです。今回のメルマガ『東南アジアここだけのお話【まぐまぐ版】』では、米国の大学院で教育学を学びマレーシアに11年以上滞在する文筆家で編集者の、のもときょうこさんが、親など外から与えられたモチベーションは、長期的には有害ですらあるとする研究を紹介。東大生の多くが親に勉強しろと言われたことがないことなどをその証として伝えています。
なぜ勉強にご褒美をあげると成績が下がるのか
子どもが勉強しません。どうしたらいいでしょうか。本当によく聞く疑問です。親御さんに聞くと、褒めたり叱ったり、ご褒美を与えたり、罰を与えたりと試行錯誤しているようです。
一方で、東大生の友人には「親から勉強しろと言われたことが一度もない……」などと言っている人が多く、この差はなんなんだろう?と思っていました。
実は、この話は教育学でも話題になります。研究者の中には、「ご褒美や褒めで勉強させるのは問題である」という人がいます。「モチベーション」が成績と関連することは、よく知られていますが、問題は、その種類にあるようです。
内発的動機付けと外発的動機づけ
モチベーションには、外発的なものと内発的なものがあります。お菓子や小遣いのような「ご褒美」、または褒めたり叱ったり、大人が学習者に具体的な報酬を与えることを、外発的動機づけExtrinsic Motivationと呼びます。外側から与えた何かによって勉強のモチベーションとすることです。
長年、教育現場で使われてきましたが、これは近年、長期的に見ると有害であると言われています。以下はDevという人の1997年の論文の翻訳です。
外的報酬は、望ましい行動をもたらすために1世紀以上にわたって教室で使用されてきたが、その有効性は教育者や保護者の間でも疑問視されている。
研究者たちは、目に見える報酬やその他の外在的な動機付けが、学習者の内発的な動機付けに有害な影響を与えることを発見した(Beck, 1978; Deci, 1975; Deci fi Ryan, 1985; Greene fi Lepper, 1974; McC ullers et al, 1987; Rummel fi Feinberg, 1988; Zbrzezny, 1989)。ある課題に参加したり、成功裏に完了したりすると、希望する報酬が得られると告げられると、その生徒は、インセンティブが提供されない場合、同じ課題に取り組む可能性が低くなる。
Dev, P. (1997). Intrinsic motivation and academic achievement what does their relationship imply for the classroom teacher?. Remedial and special education, 18(1), 12-19.(引用、以下同)
この記事の著者・のもときょうこさんのメルマガ
一方の、内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)とは、何かを成し遂げようとする内なる意欲。純粋な好奇心や、完了したいという欲求によって学習することです。報酬を得るためにやるのではありません。
(a)純粋に好奇心から、つまり何かについてもっと知りたいという欲求から活動に参加すること、(b)課題に参加し完了するという目的のために純粋に活動に参加する欲求、(c)貢献したいという欲求
そんなわけで、教育学では「内発的な動機」をどうやって向上させるかが一つの課題となっています。
研究により、学業における内発的動機づけが高い子どもほど、学校での学習効果が高 いことが示唆されている(Adelman ‘St Taylor, 1990; Boggiano fi Barrett, 1992; Gottfried, 1990; Soto, 1988)。
私が知る限り、東大生の友人たちの多くが「内発的動機」で学習している人たちです。純粋に学びが好きな人々が多いようです。
これですね、大人も同じだと思うのです。私は英語学校のインタビューを続けていますが、「英語を勉強したらこんないいことがある」「数ヶ月でペラペラになったら自慢できる」「仕事に必要だから頑張る」と脳内で自分を説得して「頑張らせる」よりも、「英語学習楽しすぎる」「ドラマがみたい!」「好きな人ともっと話したい」みたいな、どちらかというと、本質的で内在的な動機の方が、学習効果が多分高いのだと思います。
この辺についてはまた機会をみてもう少し書きます。
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