昨年4月から75歳まで引き上げが可能となった年金受給開始年齢。しかしこれを「一律75歳開始」と勘違いする方が続出し、一部で混乱が引き起こる事態となってしまいました。そんな制度を分かりやすく解説しているのは、過去に配信した記事を2023年4月以降の法律に併せ内容を改訂した増補版を読者にお届けする、メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座【過去記事改訂版】』を新創刊した年金アドバイザーのhirokiさん。hirokiさんは今回、年金受給開始年齢の引き上げはあくまで任意であり、希望すればこれまで通り65歳から受給可能と明記するとともに、繰り下げ受給した際の「損益分岐点」を紹介しています。なお、新創刊メルマガは6月末まで初月無料で読めますので、この機会にぜひご登録ください。
支給開始年齢が75歳になるという誤解と実際
1.年金受給が65歳から75歳へ引き上がるのではない
令和4年4月1日の改正により、年金受給を65歳から75歳までの間で受給の選択ができるようになりました。
65歳から75歳までの間で自分の意思で受給を選択するだけなのですが…これからは75歳にならないと年金が貰えなくなるというおかしなウワサが広まっていました。
恐らく今も、そのように勘違いをされてる人も居らっしゃるかもしれませんね。
あれは65歳から貰う年金を「受給者本人の意思で75歳から年金支給を選択できるようにもしたいなぁ」ってだけの話です。
今現代は高齢者雇用で働く人がひと昔前とは比べようもない程に増加したので、「働いてるからまだ年金貰わないと生活できないわけじゃないから、年金は後で受給するか…」という選択がしやすくなったという事です。
なので、私は75歳まで働かないと年金もらえないのか…と絶望する必要はありません(笑)
しかしながら単に遅らせるだけではなく、遅らせると65歳時の年金が毎月0.7%ずつ増えていくという、なんとも実りある制度でもあります。本来は65歳から貰う老齢の年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)を75歳まで遅らせて受給できますよっていう制度を年金の繰下げと言います。
ちなみに絶対に75歳まで待て!というわけではなく、1ヶ月単位で自分で貰う時を選べるので65歳以降で例えば67歳4ヶ月で貰いたいなあという人は、そこで28ヶ月遅らせた年金を貰えばいいだけです。
28ヶ月遅らせたら28ヵ月×0.7%=19.6%増という事になるので、65歳時の年金が100万円だった人は67歳4ヶ月の翌月分から年額1,196,000円で貰えるようになるという事ですね。
まだ働いてるとか、資産に困ってないとか他に収入があるという人であれば、このように公的年金を65歳以降貰うのを遅らせて増加させるのを待つのは老後の生活をさらに豊かにする事に繋がります。
もし75歳まで待てるなら、120ヶ月遅らせられるので0.7%を掛けると84%増という事になり、65歳時の年金が100万円であれば75歳時に184万円になるという事です。
65歳以降1ヶ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金が増えていくという他の金融商品にはありえないほどの利率が付いていく非常におトクな制度です。
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※ 注意
年金を貰うのを遅らせたい人は、65歳誕生月に届くハガキタイプの年金請求書に繰下げの意思を表示して提出します。
65歳からは老齢厚生年金と老齢基礎年金を受給しますが、どちらの年金を遅らせるかを記入します。
両方遅らせる場合は請求書は提出しません。
なお、年金を遅らせて増加した年金を受け取る場合は、少なくとも66歳誕生日の前日までは最低でも待つ必要があります。
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この繰下げ制度は令和4年3月31日までは70歳までの60ヶ月間が最大でしたが、その繰下げ制度が令和4年4月1日改正で75歳までできるようになりました。
でもそんなに待つ余裕なんて無いよ…という人は普通に65歳から受給してくれればいいだけの話です。
しかし、この繰下げ制度を利用してる人はかなり少数です。70歳まで遅らせられる従来の時でさえ受給者全体の2%もいかないくらいでしたので、75歳まで待てる人はごく一部の人くらいだろうなと思っています(でも周知が進んでるのか、2014年に比べて現在は希望者が2.5倍くらい増加しているようです)。
利用者が少ないのはやはり早めに年金を貰いたいのでしょう。
それと、もう一つ大きな注意点なんですが、年金受給遅らせてる間に障害年金や遺族年金貰えるようになったら、繰下げはその時点で出来なくなります(障害基礎年金のみの人は例外的に老齢厚生年金の繰下げはできます)。
なぜかというと、遺族年金とか障害年金で生活を保障してる間に、老齢の年金を貰うのを待って増やすというのは年金を使って年金を増やすみたいな事になるからです。
よって、65歳以降に年金貰うのを待ってる人に遺族年金や障害年金が発生した(特に発生しやすいのは圧倒的に遺族厚生年金)場合は、そこで老齢の年金の増加は不可となります。
例えば65歳から72歳まで待って(84ヶ月×0.7%=58.8%)老齢の年金を増加させるぞー!と思ってた人に、68歳の時に夫が死亡して遺族厚生年金が発生した人は68歳までの増加率(36ヶ月×0.7%=25.2%)でしか計算しません。
なお、その68歳時にやっぱり65歳からの本来の額で貰いたいと選択すれば、今まで貰っていなかった3年分を遡って受給する事もできます。
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2.本来の65歳から年金貰う人と、例えば70歳から貰う人の損益分岐点は?という素朴な疑問
それにしても、この年金の繰下げをすると本来の65歳から貰い始めた人よりも年金の受給を遅らせる年金の繰下げをやった人の年金総額はいつ逆転するのか?って気にされる人も居ます。
とはいえ年金は予想外に長生きした場合でも年金を支給するよっていう保険であり、万が一長生きした場合でも国が終身で生活保障としての年金を払うように年金保険料を払っています。
民間の生命保険とか損害保険でも、今まで支払った保険料の元を取ろうなんて別に考えないですよね。
万が一、保険期間に何も事故が無くて保険金が貰えなかったとしても「損したー!」とは考えませんよね。
公的年金も保険なので、損得勘定は意味がありません。
まあ、受給者の人の寿命がいつまでなのかわかるのであれば損得勘定も参考になるんでしょうけど、誰も自分がいつまで生きるかわかんないですしね。
でも参考程度に損益分岐点を示しておきます。
これは11年10ヶ月を損益分岐点となり、それ以降は繰下げした人の年金総額が上回り続けます。
例えば65歳から100万円の年金を70歳まで繰り下げて、70歳からは42%増の142万円受け取るとします。
そうすると70歳+11年10ヶ月である81歳10ヶ月で本来の65歳から貰い始めた人の年金総額とほぼ同じになり、それ以降は70歳から貰ってる人のほうが総額は多くなります。
ちなみに75歳から貰うのであれば86歳10ヶ月まで生きたら65歳から貰う人と総額が同じになり、86歳11ヶ月以降は75歳から貰ってる人が総額が多くなるという事ですね。
ちなみに、どこから繰下げしても11年10ヶ月が損益分岐点(加給年金や振替加算などを貰ってる人は必ずしもそうならないので注意)。
ただ、今の平均寿命が男性81歳で、女性は87歳ですので考えてしまうとこかもしれませんが、実際は「平均寿命」では見ません。
「平均余命」を参考にする必要があります――(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座【過去記事改訂版】』2023年6月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)
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