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モディ首相の訪米で露呈。インドを甘やかす米国のダブスタ民主主義

6月22日、インドのモディ首相が国賓としてアメリカを訪問。ホワイトハウスでバイデン大統領と会談し、経済的、軍事的な連携を強化するさまざまな合意がなされました。過去にも例があるように陣営対立の寵児となったインドが大きな利益を得たと分析するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、ロシアへの制裁に加わらず、国内ではヒンズー至上主義を推進するモディ首相のインドを放任するのは、アメリカのダブルスタンダードであると指摘し、インドを“甘やかす”ことに懸念を示しています。

インドのモディ首相の訪米で露呈したアメリカ民主主義のダブルスタンダードと将来のインドへの不安

陣営対立の寵児となって利益を得る。そんな国がいつの時代にも存在する。例えば国際連盟が機能不全に陥っていった時代のイタリアだ。ドイツの台頭を警戒し、どうしてもイタリアを自陣営に引き込みたかった英仏がムッソリーニ政権のエチオピア侵攻に甘い対応をしたのはよく知られている。

拮抗する2つのパワーの間で漁夫の利を得る国はいつの時代にも様々な形で存在する。今日においてその幸運はどうやらインドの頭上に降り注いでいるようだ。

それを証明したのが6月22日、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談したナレンドラ・モディ首相の満足げな笑顔だ。国賓として盛大に歓迎されたモディは、米上下両院の合同会議の場で演説を行った。

モディ訪米前の21日夜にはホワイトハウスが会見で「現時点、および将来的にインド以上に重要なパートナーはいない。今回の訪米は前例がないほど幅広く深みのある成果を生み出すだろう」とモディを持ち上げた。

アメリカはモディ訪米を成功させるため、6月上旬にロイド・オースティン国防長官、直前にはジェイク・サリバン米大統領補佐官(安全保障担当)をインドに派遣している。結果、インドは他の同盟国のような条約の義務に縛られないまま、アメリカとの大規模な防衛協力を勝ち取った。

対中国という意味では、同じような「モテキ」が日本にも来ているはずなのだが、防衛予算の増額から韓国との関係改善まで、バイデン政権の要求を一方的に押し付けられる(日本側は否定)ばかりで、インドとは対照的だ。

ロシアによるウクライナ侵攻後、国際社会にはアメリカ中心に対ロ制裁の流れが出来上がったが、インドはそれに加わっていない。それどころかロシアから安い原油を買い漁った。また西側先進国グループがロシア非難を求めても、インドは言葉を濁し続けている。

もし同じことを中国がやればアメリカはあらゆる手段を講じてバッシングしたはずだ。もちろん習近平国家主席がワシントンに招かれることもなく、それどころか首脳会談の目処さえ立たなくなったはずだ。

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バイデン政権がこれほどインドを甘やかす目的は言うまでもなく中国の封じ込めだ。アメリカのテレビ番組に出演した専門家(アメリカ平和研究所のダニエル・マーキー氏)は、「中国と対抗するという意味においてインドはとても重要な役割が演じられる。なぜなら中国の海上交通路の多くが通るインド洋を独占する位置にあるからだ。アメリカが中国を封じ込める戦略をとる上で、これはとても有用」と指摘する。

インドには将来の市場としての期待があることやアメリカのIT産業を支える頭脳労働者の存在なども「モテキ」の理由として挙げられる。しかし何といっても「敵の敵は味方」理論が優先されているのだ。

そのことはモディ訪米を大きく伝えたアメリカのニュース番組(米テレビPBS『News hour』6月23日)のキャスターが、モディ政権を紹介したVTRを番組内で流した後に、「これがほかの国であれば民主主義の基準に達していないと批判されるところでしょう」とコメントしたことからも理解できる。

いま世界のメディアはインドを「最大の民主主義国」と表現する。しかしアメリカ国内にもこれを疑問視する声があり、なかで懸念されるのがモディ率いる与党・インド人民党(BJP)がヒンドゥー教の規範を統治原理とするヒンズー至上主義である点だ。

2014年にモディ政権が誕生した後ヒンドゥー教徒以外の宗教信者に厳しい政策を取ってきたことは周知の事実だ。実際にイスラム教徒に対する暴力やヘイトクライムが急増したという指摘は少なくない。前出・マーキーは、「モディ首相の下でインドは着実に民主主義ではなくなってきている」と断じた上で付言する。

「インドにはイスラム教徒が2億人以上もいてインド社会でも大きな存在です。その危険性についてオバマ元大統領もメディアのインタビューで言及し、『このまま分断が進みインドが統一性を失えば、アメリカのパートナーとしての影響力と能力も削がれてしまう』と指摘しています。インドは巨大な国ですから、そこが不安定だと世界の安定性にも影響します。だからインドを民主主義の視点から真剣に糺すことは重要なのです」

だが、アメリカはインドを糺すどころかむしろ甘やかしていて、この点では明らかにダブルスタンダードだ。「ご都合主義」とのそしりも免れまい。バイデン政権が重視する人権という点においてもインドには懸念材料が多い──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年6月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:YashSD/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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