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目的は別にある。NATO首脳会合に出席した岸田首相が“真に狙っている”もの

現地時間の7月12日、訪問先のリトアニアでNATO首脳会合に出席した岸田首相。演説の中ではウクライナへの支援継続を表明しましたが、会合出席にはある大きな目的があったようです。国際政治を熟知するアッズーリ氏は今回、岸田首相の「真の狙い」について考察。さらにNATOに接近する日本が最も注視すべき隣国の「とある動き」を紹介・解説しています。

岸田総理「NATO首脳会合」に出席した“真の狙い”はウクライナへの支援表明ではない

昨年のスペイン・マドリードで開催されたNATO首脳会合に続き、岸田総理がリトアニアで開催された同会合に再び出席した。今回の会合でも最大のテーマはウクライナで、ロシアが劣勢に立つ中でも粘りの“負けない戦争”を続けるなか、NATOがウクライナへ積極的な支援を継続していくことで一致した。

しかし、ここにきてNATOとウクライナの間には1つの摩擦が浮上している。それはウクライナのNATO加盟を巡る問題で、ゼレンスキー大統領は一刻も早くNATOが加盟への具体的なプロセスを提示するよう求めているが、東欧諸国はロシアを軍事的にけん制する意味でそれに同調する一方、米国やドイツなどはロシアと軍事的に衝突することになると消極的姿勢を崩していない。今後、この摩擦の隙を付くかのようにロシアの攻勢が激しくなることはないだろうが、対中国という最大の課題を抱える米国としては、ウクライナのNATO加盟に積極的になれない政治的、軍事的事情がある。

一方、NATO首脳会議に参加した岸田総理の真の狙いはそこにはない。当然ながら、岸田総理がウクライナへの積極的支援の継続を表明し、今後も対ロシアで欧米との結束を維持するが、それは対中国を念頭に置いた“おもてなし”とも表現できる。

世界の軍事バランスからも明らかだが、今日欧州においてNATOとロシアの軍事力の差は歴然としており、自由民主主義陣営が圧倒的に優勢な状況にある一方、日本が位置する東アジアにおいては、その自由民主主義陣営の優勢が脅かされ、専制主義的な中国の軍備拡張によってそのバランスが大きく変化しようとしている。要は、岸田総理が去年に続きNATO首脳会合に参加した背景には、いずれ変わる東アジアの軍事バランスに対応するため、価値観を同じくする欧米諸国と今のうちから連携を強化したい狙いがあるのだ。

韓国やオーストラリア、ニュージーランドの参加も日本の後押しに

今回の首脳会合には昨年同様、韓国やオーストラリア、ニュージーランドの首脳も参加したが、それは日本にとって大きな後押しとなった。韓国も昨年5月にユン政権になって以降、対北朝鮮で日本と米国との連携を強化し、NATOやクアッドへの接近に拍車を掛け、中国との関係が急速に冷え込んでいる。韓国にとっても台湾有事は自国の経済シーレーンが脅かされるため、中国への懸念を強めている。

オーストラリアやニュージーランドも、これまで南太平洋諸国に多額の支援を行ってきた中国が、軍事的影響力も強めようとしていることに懸念を抱いている。岸田総理としては、中国の海洋覇権に直面する国々と2年連続で共通の懸念をNATO諸国に示せたことは大きな意義となった。

日本の「狙い」と露骨なほど反対の行動を取るフランス

だが、日本にとって最大の問題は欧州諸国だろう。ロシアによるウクライナ侵攻以降、日本は対露制裁で欧米と足並みを揃え、ウクライナへは多額の援助を行い、多くのウクライナ市民を受け入れ、世界的にも日本の支援は評価されている。日本としてはそういった行動を示すことにより、NATO諸国がインド太平洋に関与し、今のうちから“拡大対中包囲網”のようなものを作りたいのだが、欧州諸国の間にはそれに懐疑的な国が少なくないのだ。

たとえば、その1つがフランスだ。フランスのマクロン大統領は今年春、中国を訪問した際、習国家主席から国賓級のおもてなしを受け、帰国直後のメディア取材で、“台湾有事で欧州は米中どちらにもつくべきではない”とインド太平洋での紛争に巻き込またくない本音を暴露した。また、G7広島サミットでは、議長声明を策定する際、中国を過剰に刺激するべきではないと対中非難でトーンを落とす文言に変えるよう要求し、NATOのインド太平洋への関与の象徴となるNATO東京事務所設置についても、それに反対する意思を最近示した。

フランスほど日本のやりたいことに反対の行動を露骨に示している国はないが、実際同じように思っている国は多いことだろう。人間の一般的な心理として、遠くで起こっている戦争に巻き込まれたくないという感情は当然のことで、西欧諸国は対ロシア、対中国どちらの紛争にも巻き込まれたくなく、ロシアの脅威に直面する東欧諸国はなおさらだろう。

日米と欧州のデカップリングを画策する中国

また、欧州諸国の多くは経済で中国に深く依存している。NATOがインド太平洋への関与を強く示すことにより、中国と経済で結び付くNATO諸国の中にはそれに消極的姿勢を求める声が拡大することだろう。

中国も十分にそれを分かっていて、最近でもスペインの首相が中国を訪問して習国家主席と会談し、中国の首相がドイツとフランスを訪問したように、中国は欧州と日米のデカップリングを狙っている。日本が最も注視すべきは中国のこの動きで、今日、日本のNATO接近とこれは今日激しい競争関係にある。

image by: 岸田文雄 - Home | Facebook

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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