発達障害の孫娘をお持ちの、メルマガ『富田隆のお気楽心理学』の著者で心理学者の富田隆さん。 年齢は4歳でありながら、コミュニケーション能力は2歳程度という彼女の普段の生活を紹介しながら、彼女が与えてくれる話題や幸福について語っています。
妊娠中?
先日、書斎で仕事をしておりましたところ、4歳になる孫娘が入って参りました。
彼女には軽度の発達障害があり、身体は4歳児ですが、コミュニケーション能力は2歳児といった感じです。
いつもは、ドタドタと家の中を走り回っていますが、書斎に入って来る時は、足音を忍ばせ、気配を消してやって参ります。
ですから、こちらにしてみれば、気がつくと突然、隣に小さな女の子が立っているわけで、これはちょっとしたSFホラーのような展開で、不意打ちをくらい、びっくりしてしまいます。
彼女にしてみれば、一人で入ってはいけないと親から言われている部屋へは、誰かに見つからないように、こっそり、忍者のように入って来るというわけです。
このような行動面の知能は普通に発達しているのですが、他人とのコミュニケーション能力の発達が年齢に追い付いておらず、言葉もまだ不自由で、何を言っているのか分からないことも多いのです。
意思疎通が上手く行かなくなるとフラストレーションから情動が暴走し、奇声を発することもしばしばです。
それに、テレビやネットなどで見た子供番組やアニメなどのセリフを丸暗記していて、現実の文脈とは無関係に、突然しゃべり出します。
事情を知らない第三者がそんな場面に遭遇すれば、かなり戸惑うはずです。
日常的には「スパゲッティ、食べる」「リンゴジュース、飲む」といった「2語文」がやっとで会話をしている幼児が、突然、「嘘じゃないもん。トトロいたんだもん」「お買い物楽しいね。お釣りをどうぞ」などと関係のないことを言い出すのです。
聴いている側の頭の中は「?」でいっぱいになってしまいます。
そんな孫娘が、例によって足音を忍ばせ、すぐ隣にやってきました。
そして、パソコンに向かってキーボードを打っている私の横から手を伸ばし、マウスを操作して画面をスクロールさせたのです。
猫じゃあるまいし。
さすがに無視もできないので、抱き上げて膝に乗せました。
すると、4歳の幼児は私の腹を撫でながら、はっきりこう言ったのです。
「おなか、大きいね。赤ちゃんがいるの?」
ジージ(爺)はショックでした。
この記事の著者・富田隆さんのメルマガ
確かに、大学を退職して4年が経ち、体型も変化しました。
運動量が減ったことから、毎年、少しずつズボンのウエストがきつくなってきたのは自覚しています。
まあ、はっきり言って、お腹は出ています。
それでも、女性の妊娠状態と見紛うほどにまでは、大きくなっていないはずです。
そこで、しばらくあれこれ考えた末、彼女が丸暗記したアニメのセリフを再生していたことに気付いたのです。
それは、『シルバニアファミリー』の動画の中で、ウサギの子供がお母さんのお腹を撫でながら言っていたセリフのバリエーションでした。
ですから、今回のドッキリ発言も、孫娘の「お気に入り丸暗記セリフライブラリー」の中から検索され引用されたもののひとつだったわけです。
ただ、これまで、「現実の文脈」とは無関係に、たまたま彼女が思い出したセリフを唐突に言っていたのが、次第に、「現実の文脈」にそって「連想」されたセリフを彼女のライブラリーから「引用」するように変わって来たのかもしれません。
そう言えば、一人で「おままごと」をしている時も、「お気に入り丸暗記セリフライブラリー」からの引用を駆使しています。
これは、彼女の脳が独特なやり方で成長し続けていることの証拠ではないでしょうか。
彼女が発達障害であるという専門家の診断は間違ってはいないと思います。
確かに、コミュニケーション能力の発達は遅れていますし、自閉症的傾向もあります。
それに、こらえ性がなく、奇声を発したり、情動のコントロールができなくなることもしばしばです。
まだ、トイレットトレーニングも完了していません。
しかし一方で、これはひいき目ではなく、よく見ると同世代の子供以上に発達した能力も彼女にはあるのです。
たとえば、音楽の音程などは、小学生の子供並みに正確に憶え、再生することができます。
ダンスの振り付けなども、簡単に覚えてしまいます。
ひらがななどの文字も(まだ全部ではありませんが)いつの間にか読めるようになっていました。
この記事の著者・富田隆さんのメルマガ
それに、動物が大好きで、近くの公園にヤギが来た時も、「ヤギさ~ん」と叫びながら猛烈ダッシュで走り寄り、自分よりも背の高いヤギを撫で回していました。
驚いていたのはヤギの方でした。
公園で散歩している犬の中にも、撫でさせてくれるボランティアがいるようです。
もっとも、遠足先の動物園で、ライオンの群に向かって、「ライオンさ~ん、こっちへおいで」と叫んでいたのには、さすがに幼稚園の先生方も引いていしまったようです。
庭にいるダンゴムシも大好きですし、動物を怖れません。
それに、気に入ったアニメなどを繰り返し観ることで、先程の「お気に入り丸暗記セリフライブラリー」を脳内に構築しています。
『隣のトトロ』や『耳をすませば』などの宮崎アニメは、彼女のお気に入りです。
先述の如く、そのライブラリーを「おままごと」にも活かし、オリジナルの物語を創作することもできるようになりました。
ですから、発達障害児を抱えた家族の方々の多くがおっしゃるように、発達障害もまた個人の「個性」なのだと思うのです。
彼女は彼女なりに、一般的な多数派の子供たちとは違うスタイルで、個性的な発達のプロセスを歩んでいるのです。
とは言っても、いくつかの精神機能の発達の遅れが「社会的不適応」につながるとすれば、それは確かに不幸なことです。
社会の一員としての能力を身に着ける「社会化」は誰にとっても必要な課題だからです。
遅れを克服するのに越したことはありません。
ただ、そうした能力を身に着けることは、「ゆっくり」でも良いと思うのです。
大人になるまでに何とか獲得できれば、それで充分です。
もちろん、大人になった後でも何とかなるでしょう。
私はと言えば、こうした「個性的」な孫娘が家族の一員になってくれたことに、とても感謝しています。
彼女のおかげで、我が家は楽しい「話題」に事欠きません。
たまには、皆で頭を抱えてしまうような困ったこともありますが、ほとんどは、明るく楽しい出来事ばかりで、笑い話のネタになっています。
それだけでも、彼女の存在意義は間違いなく有ります。
彼女は彼女のままで、既に、充分な親孝行、家族孝行をしてくれているのです。
今回もとりとめのない話にお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』より一部抜粋)
この記事の著者・富田隆さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com