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「医療的ケア児支援法」施行2年でも見えない、当事者たちの生活変化

“医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援する”という基本理念のもと制定された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)。施行から2年になろうとしていますが、理念実現の道はまだ半ばのようです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で、生きづらさを抱えた人たちの支援に取り組む引地達也さんは、東京都大田区での関係者会議を傍聴し、支援を受ける当事者たちの声がないことを疑問視。まずは、その声にたどり着く、聴く、工夫が必要だと訴えています。

医療的ケア児とその家族が安心する社会のためにすること

2021年9月に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)は、「医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援」することを基本理念として、国や自治体に具体的な措置を義務付けている。施行から2年が経過し、各自治体ではどのような取組をし、そして医療的ケア児とその家族は支援によりこれまでの苦労が軽減されたのであろうか。

東京都大田区での関係者会議を傍聴し、この道筋は未だ道半ばであるばかりではなく、対応する自治体からは尊重するべき「医療的ケア児」やその家族の声が聴けなかったのが気になった。これまで声が挙げにくかった彼・彼女らの声は「小さく」「少ない」のは当然だから、それに耳を澄ますことが必須である。政策を遂行するにはまずはその声にたどり着く、聴く、の工夫が求められる。

医療的ケア児法に定められた国や自治体の責務は「医療的ケア児が在籍する保育所、学校等に対する支援」「医療的ケア児及び家族の日常生活における支援」「相談体制の整備」「情報の共有の促進」「広報啓発」「支援を行う人材の確保」「研究開発等の推進」である。

大田区では同法施行以前の2018年から会議が設置され区役所が主導し関係機関の会議が行われてきた。傍聴した8月の会議では東京都が設置した「医療的ケア児支援センター」の現状の報告があった。

このセンターは区部として東京都立大塚病院内、多摩地区に東京都立小児総合医療センター内に設置されたうちの1つで、相談は専門の電話やウエブで行っているが、2か月間で個別支援が32件、地域支援で37件の相談があったという。この数字を多いのか、少ないのか、判断は置くとしても、当事者家族団体の見解では、周知活動が少ないとの指摘があった。

センターからの報告によると、東京都内では、医療的ケア児向けの情報を積極的にホームページで掲載している区は数か所で、地域によって情報提供に差があるという。情報共有の促進や広報啓発が区によって違いがあることは、すなわち基本理念の「居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられる施策」が履行されていないことにつながる。

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さらに地域で認定されたコーディネーターについても、存在が認知されていないとの指摘もあった。基本理念では「個々の医療的ケア児の状況に応じ、切れ目なく行われる支援」を明示しているが、この補足として「医療的ケア児が医療的ケア児でない児童等と共に教育を受けられるように最大限に配慮しつつ適切に行われる教育に係る支援等」としている。

2018年から医療的ケア者を含む重度障がい者の「学び」を実践してきた私としても、この点で連携できる可能性は高いのだが、その議論にたどり着くにはまだやることが多そうだ。

さらに大田区からは障がい者に関する実態調査を受けた課題として「専門的な相談対応の充実や療育機関の受け入れの充実が求められている」「医療的ケア児に対応できる人材を計画的に確保・育成していくことが求められている」を提示した。

委員からは人材の離職の多さの実態を示した上で、定着も重要な課題との指摘もあり、特に福祉サービスで看護師を機能させるためには医療機関とは別の支援が必要との認識も示された。

これらの議論の最後には、区内の取組として健康の面や保育、教育の面での対応も報告され、法の施行に伴う取り組みが披瀝されたが、それが実際にどんな支援につながり、当事者やその家族がどのような声を上げてきたのか、それにどのように対応したかには触れられず、肉声は伝わってこなかった。

医療的ケア児支援法は本人やその家族の声を尊重することを基本としているから、やはりその声から議論を始める、または確認しながら議論を深めたいところである。

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image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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