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“やぶ蛇”のトランプ。核兵器の開発意図なきイランを激怒させた代償

これまで繰り返し核兵器開発の意図を否定してきたイラン。しかし国際社会による度重なる「翻弄」が、中東の大国に核保有を決心させてしまった可能性が高いようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、IAEAの査察をイランが拒否したことを伝えるニュースを紹介。その上で、イランの核保有が招きかねない世界を揺るがすことになる事態を解説しています。

イランの核兵器保有と次の戦争が近づいている?

イランがIAEAの査察を拒否しました。「日経新聞」9月17日付。

国際原子力機関(IAEA)は16日の声明で、イランからIAEAの一部査察官の受け入れを拒否すると通告があったことを明らかにした。査察官はウラン濃縮などを検証している。グロッシ事務局長は「強く非難する」と述べ、査察に深刻な影響が出るとして再考を求めた。国際社会の懸念が一層強まるのは必至だ。

この問題、少し振り返ってみましょう。

アメリカは、ウソの理由でイラク戦争をはじめた2003年頃から、「イランは核兵器を開発している!」と非難していました。

ネオコン・ブッシュ政権のアメリカは当時、「2016年までにアメリカ国内の石油が枯渇する」と信じていた。それで、資源がたっぷりある中東支配に動いていたのです。「イラクの次は、イランだ!」と(しかしその後、「シェール革命」が起こり、アメリカは世界一の産油国、産ガス国に浮上。中東の資源を確保する必要はなくなり、この地域への熱意は減りました)。

はっきりいってネオコン・ブッシュ政権の主張は、イラク戦争の開戦理由同様「大ウソ」でした。証拠もあります。「毎日新聞」2007年12月4日付。

〈イラン核〉米が機密報告の一部公表 「脅威」を下方修正

 

[ワシントン笠原敏彦]マコネル米国家情報長官は3日、イラン核開発に関する最新の機密報告書「国家情報評価」(NIE)の一部を公表し、イランが03年秋に核兵器開発計画を停止させたとの分析結果を明らかにした。

さらに、「ロイター」2009年7月4日付。

イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長

 

[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。ロイターに対して述べた。天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。

ここからわかることは何でしょうか?

ブッシュ政権が2000年代、「イランは核兵器保有を目指している!」と非難していたのは、「ウソだった」ということです。

それで、リベラルなオバマが2015年7月、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国を巻き込んで「イラン核合意」を成立させました。これで、イランは制裁が解除され、石油が輸出できるようになった。イランは、そもそも核兵器を開発する気がなかったので、大いに喜びました。

ところが2018年5月、トランプが、イラン核合意から一方的に離脱。2018年8月、トランプ政権は、イラン制裁を復活させます。

これは、何でしょうか?

イスラエルは、「イランが核兵器開発を目指している」と確信している。トランプは、親イスラエルなので、核合意から離脱したのです。

再び苦しくなったイラン。そもそも核兵器を開発する気はなかったのですが、追い詰められ、ある時点で気がかわったようです。徐々にウラン濃縮度をあげていきました。

ここから、今年のお話。「時事」3月5日。

イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。

「核兵器開発には濃縮度90%以上が必要」とされている。

伊藤貫先生によると、イランは、年内に核兵器を保有する可能性が高い。そして、イスラエルは、「イランが核兵器保有する前に攻撃する」と公言している。イスラエルがイランと戦争を始めると、アメリカもイスラエルを助けざるを得ない。

冒頭の「イランIEAEの査察拒否」について、日経新聞9月17日付は、

核合意の当事国である英国、フランス、ドイツは14日、イランが合意を守っていないとして、10月中旬に緩和するはずだった制裁の一部を継続するとの共同声明を出した。イラン外務省は14日の声明で「挑発的で悪意がある。適切な反応をする」と反発していた。

つまり、制裁延長を決めた欧州への反発が原因だと。

しかし、「いよいよ核兵器保有が近づいている。そのことがバレないようにIAEAの査察を拒否している」とも考えられます。そうであれば、伊藤貫先生が予測されているとおりに、

といった事態に発展する可能性も出てきます。

そうなると、「二正面作戦」を嫌がるアメリカは、ゼレンスキーに「現状維持で停戦しろ!」という圧力をけてくる可能性が高まります。

どうなるか、注目していきましょう。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年9月19日号より一部抜粋)

image by: saeediex / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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