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習近平に味方する者なし。国内外で完全に“孤立”し始めた四面楚歌の独裁者

これまでに例のない3期目の国家主席として中国を率いる習近平氏。しかしその立ち位置は盤石どころかむしろその逆との見方もあるようです。そんな習氏の苦しい立場を取り上げているのは、安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさん。アッズーリさんは今回、国内外で習氏の孤立化が進みつつある原因を徹底解説しています。

国内外で孤立し始める習近平

最近、国内外での習近平の孤立化に拍車が掛かっている。中国は日本の6倍近くのトリチウムを放出し、福島第一原発の処理水放出を巡ってもIAEAや欧米など諸外国が問題ないとしている中、中国は日本産水産物の全面輸入停止という暴挙に出た。米国もこれは中国お得意の経済的威圧だと非難しているが、習政権がこれを撤回することはしばらくないだろう。その理由は、これは国内で嫌われる習近平が国民の不満を逸らすため、ガス抜きするために取った措置だからだ。

3年にわたるゼロコロナによって、中国国民の経済的不満が膨れ上がり、それによって経済格差や失業が今日大きな社会問題になっている。中国の経済成長率は以前のような10%からはほぼ遠く、今年は5%前後になるとも言われ、その鈍化傾向にブレーキが掛からない状況だ。若者の失業率も深刻化し、最近は3ヶ月連続で20%台を記録し、中国政府はとうとう失業率の公表をストップした。これ以上公表すると共産党政権の統治が危うくなるとの危機感からだろう。

習近平が日本産水産物の禁輸を解けない理由

そういった不満は監視社会の中国各地で確認されている。昨年秋の共産党大会の直前、北京市北西部にある四通橋では、「嘘ではなく尊厳を、ロックダウンではなく自由を、嘘ではなく尊厳を、PCR検査ではなく食糧を」などと赤い文字で書かれた“反習近平”の横断幕が掲げられる動画が一時ネット上に拡散した。また、上海でも若い女性2人が「習近平、不要」などと書かれた横断幕を持って行進したと台湾中央通信社などが伝え、チベット自治区の中心都市ラサでは新型コロナ政策に抗議する数百人レベルの大規模デモが発生し、同自治区に出稼ぎに来た漢民族と警官隊と衝突した。

日本産水産物の輸入を全面的に禁止することで、習近平としては嫌われる指導者の地位を脱却し、“国民の命と安全、衛生を守った”とアピールすることで信頼回復を狙ったことは間違いない。ここに来てやっぱり間違ってましたと全面輸入停止を撤回すれば、習近平は弱腰だと国民の怒りが再び噴出することは避けられず、3期目の政権運営は危機的状況に追いやられるだろう。

習近平のG20欠席と「新たな世界地図」が加速させる中国批判

一方、習近平が危機に直面するのは国内だけではない。外交の世界でも阻害され、これまで中国と仲が良かった国々から信頼を損ねている。たとえば、インドで9月上旬にG20サミットが開催されたなか、習近平はそれを欠席した。これについて中国政府も正式な理由を発表していない。習氏はこれまで中国の存在感を国際社会に強く示すため、このG20の場を重視してきた。これについて、ホスト国のインドは中国への不満を示した。インドは中国同様、ウクライナに侵攻したロシアを直接批判することは避け、侵攻後もエネルギー分野などでロシアとの関係を維持してきたが、中国にとって対欧米を進めるにあたりインドの立ち位置は重要だったはずだ、しかし、説明なく習氏がG20を欠席したことで、インドの対中不満は強まっている。

また、最近中国は新たな世界地図を公表したが、これが物議を醸し出している。その地図では南シナ海のほぼ全域が中国の領海として記され、中国が南シナ海の領有権問題に関して一方的に主張する九段線がそのまま描かれている。西沙諸島や南沙諸島で中国と領有権を争うフィリピンやベトナムなど東南アジアの国々は早速反発し、9月に開催されたASEANの会議でも中国への不快感を露にした。そして、これについては中国とインドが争うヒマラヤの係争地でもそれが中国領土として描かれ、インドも強く反発している。

習近平への不満を募らすプーチンと金正恩

そして、北朝鮮やロシアというこれまで中国との関係を重視してきた国々も習氏への不満を抱いているようだ。9月、北朝鮮の金正恩氏が鉄道でロシア極東を訪問し、プーチン大統領と会談した。この会談で、北朝鮮はロシアから食糧支援や宇宙開発で協力を得ること、ロシアは北朝鮮から軍事支援を受けることがそれぞれ合意された。

北朝鮮が食糧支援がほしいのも、ウクライナ戦争で疲弊するロシアが軍事支援がほしいのも当然のことだが、両国には中国への不満がある。ウクライナ戦争により、政治的にも経済的にも軍事的にも苦しむロシアとしては、中国から明確に支持するとの声、積極的な軍事支援がほしいはずだ。しかし、習政権はそれについては積極的に動かず、そこに中露間で距離感が生じている。

また、対北朝鮮で韓国が日米との関係を重視する中、金正恩氏としては中国の支持がほしいのが本音だが、ここでも中国は北朝鮮に積極的な支援を送っておらず、北朝鮮の対中不満も大きくなっている。両国の対中不満が積もる中、今回北朝鮮とロシアが接近し、9月の会談に至ったのである。

欧米や日本、韓国の経済安全保障上の対中警戒論が強まるなか、習氏は国内だけでなく、国際社会でむしろ味方にしたかった国々との関係が冷え込み、孤立し始めている。習氏は対欧米で、ロシアや北朝鮮、インドなどグローバルサウスとの関係を重視しなければならないのだが、今日の国際情勢はむしろ習近平の孤立化に向かっている。

image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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