大卒新入社員の入社3年以内の離職率は3割を超えていて、企業は離職率の抑え込みに頭を悩ませています。10月2日、内定式を開いた多くの企業が、内定辞退と入社間もない離職を防ぐためにあの手この手を繰り出したようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、健康社会学者の河合さんは、内定式の様子を伝えた朝日と日経の着眼点の違いを指摘。いずれにしても“新入社員様”扱いが滲む状況に、興味のないこと、苦手なことにも取り組むからこそ引き出される潜在能力があるはずなのに…と疑問を呈し、学生に対しては入社前の能動的な準備が違いを生むと伝えています。
“準備”なき先の悪循環
「新入社員かんたんに辞める問題」は、企業規模、業種、地域に関係なく、「人が働く」現場のいたるところで起きてる問題です。ある時は講演会で、ある時は取材で、ある時はインタビューで、経営者や役員、中間管理職、部下を持つ上司たちから、耳にタコがきるくらい相談を受けてきました。
「1週間前まで『がんばります!』って言ってたのに…」
「『なんか合わないから辞めます』とメール一本で…」
みな「突然&簡単」に辞める若者に頭を抱えていました。そんな中、おとといの月曜日(2日)、多くの企業が来春入社予定の大学生らを対象にした内定式を開き、「離職防止のプログラム」を実施したそうです。
興味深かったのが、朝日と日経新聞がその内容を詳細に伝えていたのですが、内容が全く違う、というか記者の着眼点に大きな違いがあったことです。
朝日新聞は「辞職防げ 交流重視の内定式」という見出しで、各社が行ったプログラムを紹介。内定者同士が協働作業をする研修を実施したり、チーム別に運動アプリを使って競い合ったり、中には大物スポーツ選手を呼んだりしたそうです。
一方、日経新聞は「内定式、離職防止にらむ」との見出しで、内定者と入社後のキャリア面談を実施した企業を掲載。配属や転勤先の希望、長期的なキャリア構想などなど、「部下オリエンテッドならぬ、内定者オリエンテッドに進化(?)したのね」と思わす内容でした。
いかなる事実も常に「記者のフィルター」を通じて伝えられます。人は見えるものでではなく、見たいものを見る。同じものを見ても、人によって切り取る部分が大きく変わります。朝日は「人」を日経は「キャリア」を選択してのは、たまたま、かもしれないし、社風の違いかもしれないし、記者の知覚の違いかもしれません。
いずれにせよ、会社も大変だよね~と思う一方で、“新入社員様”扱いするのもどうなん?と昭和おばさんは企業の姿勢にちょっとばかり呆れ、手取り足取り攻撃が余計に、若者の成長を阻んでいるように思えてなりませんでした。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
そもそも「働く」という行為は、人が成長し、成熟するきっかけを得る最高の手段です。「まさか」の出会いが、潜在能力の引き金を引くのです。
全く興味もない仕事を任され、ブーブー文句をいいながらもやっているうちに面白くなることは往々にあります。自分も知らなかった自分の潜在能力に気づくこともあるし、苦手な人と「仕事だから仕方がない」と関わっているうちに好きになることだってある。「私」は「私」が思うほど「私」のことを知りません。その「まさか」が、内定者オリエンテッド、によって消えてしまうのではないでしょうか。
私が新卒社会人を対象に、入社3ヶ月前から、入社後1年後まで行った縦断的調査では、入社後の適応にもっとも影響するのは、入社前のキャリア・レディネスだとわかりました。
どんな会社で、どういう人たちが働き、どのような方向を目指しているのか?自分がその会社のメンバーになるには、何が必要で、何が足らないのか?を現場=会社に行き、人=会社の人に会い、大学在学中からきちんと準備する。これが「キャリア・レディネス」です。
準備して挑むからこそ、モチベーションも上がるし、周りもサポートできる。そして、「妄想の世界」ではなく、実際の現場で学び、現場で悩み、現場で熱くなる経験をしてこそ、人は成長します。
「仕事っておもろい!もっともっと成長したい!」という感情は、協働作業が不可欠です。理屈じゃない、しんどい、でもがんばりたい!と、能動的に動く社員をつくるのは、失敗であり、励ましであり、「私」のあきらめない気持ちです。
元をただせば、すぐ辞める若者問題は大学のキャリア教育に大きな原因があるので、会社側が「手取り足取り攻撃」をせざるを得ないのは理解できます。育った時代が違えば、ライフスタイルや価値観は大きく変わるのもわかります。
それでもやはり、時代変われど、人の心の奥底は変わりません。フェイスtoフェイスで、若者の意見を聞くことは大事ですが、同時に自分の人生に責任を持つ覚悟を、大人たちには教えてあげてほしいと思います。みなさまのご意見、お聞かせください。
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