MAG2 NEWS MENU

中国「一帯一路」10周年で“つまみ食い報道”しかできない日本メディアの限界

10月17日から北京で開催される「『一帯一路』国際フォーラム」を前に、日本でも中国大使館が「一帯一路」に関するフォーラムを実施しました。この巨大な経済圏構想が10周年を迎えての動きですが、日本メディアはイタリアの離脱の可能性や「債務の罠」などネガティブな話題を伝えるだけ。こうした姿勢を“つまみ食い報道”と指摘するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、「罠」の例とされるスリランカの港のケースを紹介。当事国のスリランカの反応が抜け落ちた日本の報道に苦言を呈しています。

中国「一帯一路」10周年で見えてくる「つまみ食い報道」しかできない日本の残念な実態

まずは先週書いた中国の米中首脳会談に向けた動きだ。やはり中国が環境を整え始めたとの見立ては間違っていなかったようだ。ロイター通信は10月12日、「米、中国の安保会合に出席へ 軍・防衛対話回復の兆し」と報じた。さらに半導体の対中輸出規制をめぐっては、「TSMC、米が対中半導体規制の適用除外延長=台湾経済相」(ロイター=2023年10月13日)という動きを記事にしている。

韓国政府が数日前、「サムスン電子とSKハイニックスは今後も米政府への特別な許可申請なしで中国の半導体工場向けに米国製半導体製造装置を供給することが無期限に可能になった」と発表したことを受けた動きだ。

バイデン政権は高性能な半導体に関し、「さらに厳しい対中輸出制限を考えている」とも伝えられるが、米中会談を前に一息つける雰囲気を作ったことは間違いない。

そして、目下の話題は「一帯一路」だ。「一帯一路」とは習近平国家主席が2013年に打ち出した広域経済圏構想である。同年9月にカザフスタンで「シルクロード経済ベルト」構想を、続く10月にインドネシアで「21世紀海上シルクロード」構想を打ち出した。

今年は10周年にあたり、10月17日と18日の2日間、北京では「『一帯一路』国際フォーラム」が開催される。日本では駐日中国大使館などが主催するフォーラムが13日に行われた。

「一帯一路」は、日本の多くのメディアが「巨大」と表現しているように、中国からユーラシア大陸をまたぐ膨大な国と地域を中心にスタートした経済圏構想だ。いまでは中国から西ヨーロッパを越え、アフリカ大陸や中南米までを巻き込んで広がり続けている。一朝一夕で手に負える規模ではない。

本記事のタイトルでは「つまみ食い」が「残念」だと書いたが、そうならざるを得ないことも理解できる。ただ問題は、そうであればそのことを率直に認めた報道であるべきなのにそうはなっていないことだ。

メディアにありがちな話だが、批判すべき問題を摘出することで、「仕事をした」気持ちになる習性が頭をもたげてしまい、結果的に全体像を大きく歪めてしまっているのだ。巨大なプロジェクト群であれば問題はつきものだが、その一つが「一帯一路」全体の性格を決定してしまうことには慎重であるべきだ。

代表例は「債務の罠」というレッテルだ。いまや「一帯一路」を語るうえで欠かせないキーワードで、おそらく多くの日本人は「一帯一路」と聞いて最初に思い浮かべるワードだろう。「債務の罠」とは、中国が無理な貸し付けをして返済が滞れば対象国から建設したインフラを取上げてしまうことを指す。実例としてメディアで頻出するのがスリランカのハンバントタ港である。メディアは「借金の免除と引き換えに港の運営権を中国側に99年間譲渡した」と書く。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

確かにスリランカが2017年、ハンバントタ港の建設費の返済の目処が立たなくなり港の運営権を99年間リースせざるを得なくなった。ただし、これは多くの日本人が記事を読んでイメージするように中国政府が手に入れたのとは違う。リースの対象は中国とスリランカの合弁企業(中国側は招商局グループ)だからだ。

「罠」には最初から取り上げる目的で無謀な融資をしたという解釈も含まれるが、現状ではむしろ純粋に商業的価値が高まってきているという。東京で行われた「『一帯一路』イニシアティブ十周年国際シンポジウム」で講演した呉江浩大使は、ハンバントタ港について、「(港の)運営は良好で、バラ積み貨物の取扱量が120万5000トンに増え、今年1月から8月までの船舶給油量は52万8000トンに達し、昨年に比べて600%も増えました」とその成果を誇っている。

もちろん、スリランカはアジアとアフリカ・欧州を結ぶシーレーン(海上交通路)の要衝である。安全保障上も重要でアメリカやインドが中国のプレゼンスの拡大に神経を尖らせてきた。対する中国も自国に安心してエネルギーを輸送するルートとして、シーレーンの防衛を重視してきた。その意味では筆者も、単純に「商業的」な意味しかないなどとは考えていない。

ただ、かつて中国が潜水艦をスリランカに寄港させたケースでは、「中国側が手に入れた」ハンバントタ港ではなく、コロンボ港であった点はなぜか見落されている。つまり99年間のリースといっても、即座に軍事利用ができるという話でもなければ、逆に軍艦の寄港が必要ならばリースなど関係なく、重要なのはむしろスリランカ政府が「許可するか、しないか」なのである。

同じようにスリランカが「債務の罠」に陥ったのか否かを判断するのも当事者である。日本やアメリカがする話ではない。メディアは繰り返し「債務の罠」を強調するが、肝心なスリランカはハンバントタを引き合いに中国を批判したことはない。

かつてスリランカでマイトリーパーラ・シリセーナ大統領が誕生した2015年には、マヒンダ・ラージャパクサ前大統領と中国の癒着を俎上にのせ、中国が主導するインフラプロジェクトの再検証を命じ、中国側にも警戒感が広がったことはあつた。同じように2018年のマレーシアでも、マハティール・モハマド首相が「中国からの多額の投資で財政悪化を招いた」と現役のナジブ・ラザク首相を批判して選挙に勝利し、首相に返り咲いた。

当然、中国との離反が注目された。だが、スリランカもマレーシアも結果として中国との関係を大きく見直すことはなかった。それは、両国とも「一帯一路」のプロジェクトを継続する合理性を認めたからだと考えられている──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年10月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け