個人商店の閉店、その大きな原因に「店主の高齢化」、そして「後継者の不在」があります。しかし、そんな宿命ともいえる問題に対して、光明となるかもしれない「ひとつの取り組み」が話題となっています。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』の著者、佐藤きよあきさんが、老舗の事業継承の画期的な事例を紹介しています。
企業が個人商店の事業を継承した「片原饅頭志満屋本店」の事例は老舗復活の秘策となるか?
日本全国、いろんな地域に、いろんな名物があり、人びとに愛され続けているお店があります。
しかし、老舗と呼ばれるお店であっても、店主の高齢化や後継者不在の問題は避けることができず、惜しまれながらも閉店してしまうことはあります。
これは宿命とも言えることなので、どうすることもできません。
と、誰もが思っているのですが、いま、ひと筋の光が見えてきました。
「事業継承」への取り組みです。
支援団体が各地に設立され、意欲ある人と会社・お店の仲介を行っています。
非常に有意義な活動なのですが、ある程度の規模がある中小企業が中心であって、個人商店の参加は皆無だと言っても良いでしょう。
「閉店させるのは寂しいけど、わざわざ継いでもらうほどの店ではない」と考える店主が多いからです。
しかし、地域の人びとにとっては、財産と言っても良いお店であり、できることなら、存続して欲しいと願っています。
そんな寂しい状況を解決する手法の事例が現れました。
群馬県前橋市。1832年創業の和菓子店「片原饅頭志満屋本店」。
イースト菌を使わず、温度管理に手間が掛かる、生きた菌「米麹」を使った酒種饅頭「片原饅頭」を製造・販売していました。
しかし、長年地域の人に愛されてきましたが、1996年、164年続いた歴史に幕を下ろしました。
過酷な労働や職人の高齢化により、事業継承が困難となり、やむなく閉店することとなったのです。
ところが数年後、片原饅頭をぜひ復活させたいと名乗り出た人がおり、元職人頭の助けを借りて、饅頭の製造・販売を開始しました。
ただし、当初は片原饅頭を名乗らず、「ふくまんじゅう」という名で販売しました、
これは、誰もが知る昔の味になっていない、という思いがあったからです。
そこから研究を重ね、2010年、復活できたことを確信し、「片原饅頭復元」と名づけ、販売を開始しました。
地元の人も喜び、これからも食べられると安心しました。
しかし、またもや2020年、閉店を余儀なくされたのです。
またしても、店主の高齢化と後継者の不在です。
悲劇は繰り返されるものです。
2度目の閉店なので、もうこれで終わりかと思われたのですが、再度救いの手が。
事業継承を支援する団体が動き出したのです。
この団体が声を掛けたのが、就業支援を手掛ける会社だったのです。
個人のお店だからと、個人に継いでもらうのではなく、今後も事業を存続し続けることができるよう、経営体力のある企業に目をつけたのです。
職人の高齢化や後継者の問題にも、対処しやすいのではないかと考えたのです。
昔からのやり方をそのまま引き継ぐことは難しく、時代にも合っていません。
そこで、企業なら技術面でも経営面でも効率化が図れるのではないかと。
この話を引き受けた企業は、職人の熟練技を必要とする、米麹の温度管理や生地の発酵時の温度管理などを機械に置き換えることにしました。
しかし、それは簡単なことではなく、研究開発に約1年8ヵ月を要しました。
手づくり部分は残しながら、機械にできることは機械に任せることで、誰もが作れる片原饅頭を生み出したのです。
そして、2023年。2度目の復活を果たしました。
長年のファンは大喜びです。
「以前の店がなくなって残念だった。また食べられるようになって、嬉しい」
「この味は他にはないので、復活を感謝しています」
地元の名物が消えてしまうのは、寂しいことです。
後継者がいないのであれば、企業による事業継承で、名物を守ることを考えても良いのではないでしょうか。
個人が継承するには限界があるので、会社組織で安定的な事業として、継続させるのです。
名物が残れば、地域の人びとは喜びますし、また、地域経済を支えることにもなります。
これぞ、新しい事業継承のカタチだと言えます。
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