10月17日に開催され、大盛況のうちに幕を閉じたと伝えられる日本保守党の「結党の集い」。作家の百田尚樹氏が率いる同党に「安倍シンパ」と呼ばれた保守派が結集すると思われましたが、どうやら事はそこまで簡単な話ではなかったようです。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、ここに来て勃発した自称保守派による分裂劇を詳しく紹介しています。
ネトウヨ可視化の日本保守党と安倍真理教、飽きぬ自称保守の大分裂劇
共同通信が今月14、15日に電話で行った世論調査によれば、岸田内閣の支持率は32%で、発足以来最低を記録したらしい。内閣支持層の中で、積極的支持が弱まっている傾向が見え、自民党そのものの支持率も下がっていることから、「衆院解散どころではない」と嘆くベテラン議員もいるという。
そんななか、アンチ自民党の集結する日本保守党は、意気揚々。
ネット募集で4.5万人を超える「日本を愛する」党員が集まり、まもなく結党記念パーティーが開催されるようだ。初の「ネトウヨの可視化」である。
前回レポートした百田尚樹と有本香出演の「ABEMA Prime」は、本編が245万回再生、切り抜き動画が100万回再生されている。話の内容や正誤がどうであっても、再生数が稼げるという一点さえあれば、ABEMA、ニコニコなどの動画配信サイトは推したがるから、しばらくネット上での祭りは続くだろう。
月刊「Hanada」11月号では、「私たちは、日本保守党を応援します!」という特集が組まれ、自称保守界隈の著名人たちが党への期待を寄稿している。
幻冬舎の見城徹は「動かぬ霧の中を、出航の刻は来た」と詩人ランボーの一節を引用して賛美、作家の井沢元彦は日本保守党への「援護射撃」を宣言。
元海上保安官の一色正春は「あの花田さんが、こうも熱心に応援するというのはいままでにない」と、「Hanada」編集長への信頼を担保に政党への期待を寄せた。
私のなかでは「あの花田」と言えば、皇族方を病気に追い込んでもバッシングしまくるわ、自民党に大量購入してもらえるとなれば、嘘八百の安倍晋三擁護本をバカスカ出版するわ、統一協会と結託してでも雑誌の売上を確保しようとするわ、ただただ「銭になるか否か」だけが編集方針の国賊老人というイメージしかないが、ずいぶん解釈が違うらしい。
産経新聞に識者としてたびたび登場する島田洋一は、百田と有本をなぜかレーガンに例え、「両氏は偉大な発信力で知られたレーガン同様、歴史を作り得る明るい勝負師だ」と爆裂プッシュ。
さらに、界隈で“百田尚樹の妹分”と呼ばれているイスラム研究者の飯山陽は、8月末にタイのバンコクに1週間ほど滞在した際、「市内を歩いていただけで複数の日本人から『百田さんの政党、応援してますよ!』と声をかけられた」と書いている。
それ、どんなウソ?
一体どんなバンコクの歩き方をしたのだろう?
バンコクには、ネトウヨ日本人が密集して暮らすネトウヨタウンがあるのか?
そもそも飯山陽という女性は、道を歩いているだけで複数の他人から声をかけられるほどの著名人なのか?
以前からずっと思っていたことだが、自称保守の人々は、仲間を超絶誇大に持ち上げて、モーレツに賛美の限りを尽くす達人だ。
私だってサービス精神から話を盛る鉄人だし、知人の良い作品や活動は、うまく褒めたいと思いながら文章を考えるが、この寄稿文集を読んでいると、さすがに恥ずかしくなるというか、やりすぎて信憑性を低下させているだけというか、むしろ一周回って茶化しているのではないかとさえ思えてくる。
その界隈でのコネを最大限重要視して生きていたり、「自分も賛美されたい」という気持ちが強すぎたりすると、他人の持ち上げ方が過剰になってしまうように思う。人の振り見て我が振り直す機会にしたい、そう思った。
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日本保守党お祭りムードの「Hanada」で、ひとり気を吐く人物
さて、そんな日本保守党お祭りムードの「Hanada」で、ひとり気を吐く人物がいた。
文芸評論家の小川榮太郎だ。
小川は、かつて、安倍晋三擁護のために「Hanada」の版元である飛鳥新社から、「森友・加計学園事件は、朝日新聞による捏造。戦後最大級の報道犯罪だ」という内容のウソを書きまくった本を出版。
これを自民党が大量購入して議員に配布していたのは有名な話で、小川は、朝日から訴えられ、東京高裁が14カ所の名誉毀損を認定、朝日側の主張をほぼ認める形で判決が確定している。
その後も安倍擁護街道をひた走る小川は、安倍と統一協会に特別な関係があったという話を「フェイクニュース」「歴史の改竄」などと主張、「安倍の言動が中国を刺激したために暗殺につながった」というような陰謀論を「Hanada」誌上で展開した。
そんな小川が、現在なにを主張しているのかと言うと──。
「岸田叩きの先は小石河連合政権という悪夢」なる論考だ。
「小石河連合」とは、自民党内の非主流派で、反安倍路線だった小泉進次郎、石破茂、河野太郎の3人の頭文字をとったもの。
小川は、安倍亡き不安定な自民党において、岸田を叩いて退陣させれば政局が揺らいでしまい、安倍の力で党内野党として抑え込まれていた小石河の3人が政権に躍り出てしまう、だって彼らは国民に人気があるのだからと主張。
「安倍晋三は愛しているけど、岸田文雄なんて大嫌い」というアンチ自民党の日本保守党勢とは完全に袂を分かち、岸田叩きを批判している。
可笑しいのは、日本保守党勢は、「安倍さんを愛してる。安倍さんがいなくなってから、岸田が勝手に増税や移民政策を推し進め、LGBT法まで成立させやがって!」と主張しているのだが、それに反論する小川は、「安倍さんを愛してる。そして岸田さんは、安倍さんの政策を忠実に推し進めている素晴らしい首相だ!」とその業績を褒めちぎっていることである。
褒められたものかは別として、そもそも増税も外国人労働者の受け入れ緩和も、安倍がやったことなのだから、小川もまったくのデタラメではない。
「たくさん稼いだので小説家としては引退して政党やります」という百田尚樹とは少々事情が異なり、「安倍は素晴らしい」を力いっぱい喧伝する本を売って生きてきた小川榮太郎の場合、さすがにエキセントリックな手のひら返しには乗れないのかもしれない。
ただ、小川が、岸田の素晴らしさとして、いの一番に挙げたのが、「安倍の国葬儀の即決」だというから、ズッコケた。なんだそれは。
どちらも、「アベガ、スキダカラアァァァ!」という持ちでは一致していて、いつまでも未練タラタラ忘れられずにいるところは同じだが、こんな支離滅裂な分裂を迎えることになるとは……。
小川によれば、安倍は河野太郎を外務大臣、防衛大臣と要職に就けたものの、その仕事ぶりを見て「危険な政治家」と見なすようになり、「河野さんだけは総理にしてはならない」と話していたという。
たしかにコロナワクチン接種に対する強硬な姿勢、熟慮しない拙速さ、独善的で自分に対する異論を「デマ」と断言してシャットアウトする様子には、独裁者の片鱗を感じさせ、つくづく危険な政治家だと思った。
だが、小川の懸念は、河野が女系天皇を容認し、長子優先の皇位継承を提言していることと、脱原発を目指していることの2点だというので、まったく話にならない。
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小川氏の本棚の中央最上段に飾られている写真の異様
さらに、小川はこんなことを書いている。
私が厄介に感じているのは、彼ら(小石河連合)が政権に就けば、安倍的なるものの一切合切、なかんずく「戦後レジームからの脱却」と総称されるイデオロギー、国家観を切り捨てる可能性が高いという点である。
はぁ?
自称保守の言うことは、いちいち首をかしげることばかりだ。安倍が「戦後レジームからの脱却」を成し遂げた、あるいは真剣に目指した人物だとでも思っているのだろうか。
しかも、安倍的なるイデオロギーとは、「男系の血統」「Y染色体」「原発推進」という単語に集約された、カチカチに固定化してしまった政治観念のことだ。
カチカチの政治観念を盲目的に信奉して、現実を受け入れず、事実も捻じ曲げて解釈し、自分の頭で考え、深く思索するという行為を放棄する。それがイデオロギーに染まるということだ。政局以前に、そんなもの、とっとと切り捨てたほうが良いに決まっている。
ところが、そのイデオロギーを切り捨ててしまったら困るというのが、小川の言い分なのだから、小川は「私は安倍晋三イデオロギーに染まって、思索を捨てています。安倍真理教の信者です。みんなそうあるべきです」と自白しているわけだ。
本人は、高尚なことを書いていると思い込んでいるのかもしれないが、あほらしすぎる!
小川のYouTubeを見ると、書斎の本棚の中央最上段に、額装された安倍晋三の顔写真がドンと飾られていた。まるで金正恩の写真を掲げる北朝鮮の民のようだった。
ほかにも、岸田叩きを巡っては、さまざま分裂が起きているようだ。
自称保守、いよいよ面白く分裂がはじまった。
(『小林よしのりライジング』2023年10月9日号より一部抜粋・文中敬称略)
2023年10月9日号の小林よしのりさんコラムは「パレスチナよりウクライナだ」。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。
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image by: X(@日本保守党(公式)Conservative Party of Japan)