公共施設の運用管理を自治体が民間に委託する指定管理者制度が導入されて今年で20年。日経新聞は、この制度により生じているひずみなど、現状の課題を連載記事で伝えました。さまざまな困難があることを認めながらも、民間のノウハウによって誰もが「普通に」文化施設にアクセスできるようになることを期待するのは、生きづらさを抱えた人たちの支援に取り組む引地達也さんです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、古い文化施設のバリアフリー化には限界があり、サービス提供側に想像力と行動力が必要になると説明。11月30日にそうしたテーマも含むシンポジウムが開催されると伝えています。
民間指定管理者からはじまる文化施設と障がい者の良好な関係
文部科学省の委託研究事業である障がい者の生涯学習を推進する中で、公共施設における「場づくり」研究を、サントリーパブリシティサービス社(SPS)と行い、そこから派生する形で「インクルーシブ&ダイバーシティな場づくりを考える 民間指定管理者による公共文化施設のサービスからの学び」(11月30日、東京都中野区)を企画した。
民間指定管理者とは、公共施設の管理・運営を自治体などの公共団体から委託された民間の企業・団体のこと。この指定管理制度が導入されて今年で20年に合わせ日本経済新聞では文化面で「指定管理者制度20年の功罪」(10月23日─25日朝刊)との連載記事で制度の実態を検証している。
民間の考えを公共施設に取り込む「功」にはまだまだ地域を活性し、これまで硬直してきた「ケア」に関する場づくりにも新しい風を起こす可能性が高い。
日本経済新聞の記事(10月23日)は、20年経たこの制度について「経営効率化による専門人材の大量離職などひずみも生じ、地域の文化芸術を振興する施設の使命が揺らいでいる」との問題意識を前提としている。
記事では「集客やサービスに民間のノウハウを生かせる一方で、働く人の待遇悪化や不安定化、定期的に事業者を選定し直すことによる長期的視点の欠如といった点はかねて問題視されてきた」のが現状と伝えた。
文化施設が持つ役割全般に対応するこの管理事業は確かに高難度な仕事で、そのノウハウを持ち、かつマネジメントを的確に行うのは至難である。それでも民間のサービスの概念は、自治体が直営する公共施設では新鮮かつ、今後必須であろう。さらに障がい者が「普通に」文化施設を利用できる場所にする契機にもなると考えている。
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重度障がい者が使用するリクライニング型の車いすは大型で、しかも人工呼吸器の充電器なども搭載しているから重量もある。みんなの大学校の学生であるそのリクライニング型車いすユーザーと社会見学をしようと出かけようとなると場所は限られる。親御さんは最初からあきらめるケースも多い。
確かに最新鋭の文化施設はバリアフリー化が進んでいるが、重要文化財を改装し文化施設にしているケースは難しい。SPS社が指定管理する施設にも、文化財を利用している施設があり、その場合への対応をサービスで乗り越えられるかも課題という。
最近、私が訪問したSPS社が管理する京都市京セラ美術館は1933年開館の歴史ある建物で、見て回るには多くの障害がある。先日訪問した東京の国立科学博物館も建物は古く、そこでバリアフリーの工夫はされているが完全ではない。その不完全を補うのがサービスであり、管理する側の想像力と行動力になってくる。
日経新聞の記事では、SPS社が鎌倉芸術センターの指定管理から撤退したことも取り上げられていた。当然ながら運営にはお金がかかる。費用対効果を考えるのは当然であるが、民間事業者の方が費用面で効率化できると考えているのであれば、それは間違いだろう。「誰一人取り残さず」文化芸術に触れるために、必要な費用はかかる。
SPS社との研究は、公共施設の使命を深く自覚し、そこには障がいへのまなざしも必須であることを普通にとらえ、そのスタンスを全国に波及させていくのも目的だ。それは地域の文化振興・芸術振興の核となる公共施設の価値を上げることにつながるはず。今回のシンポジウムでは、そんな考えを共有したい。
シンポジウムは「障がいのある人を取り巻く社会の障壁“バリア”について、企業としてどのような合理的配慮の提供ができるのか、ただの『義務化対策』に終わらない向き合い方について理解を深める」と趣旨を説明する。詳細はこちらからご覧ください。
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