富山県立山町に「伝説」と言われている珍しいコンビニがあります。思わず笑ってしまう「トンデモ商品」の売れる仕掛けは一体どこで生み出されているのでしょうか。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』の著者、佐藤きよあきさんが詳しく紹介しています。
売れる仕掛けが連なる!コンビニ「立山サンダーバード」のお笑い戦略
勇壮な立山連峰を望む麓の町、富山県立山町。
立山を目指す登山客、スキー客、観光客がたくさん訪れます。
ここに、「伝説のコンビニ」とまで言われる、有名なお店があります。
老夫婦と息子さんの3人で営む、個人経営のコンビニです。
外観は多少古ぼけていますが、ごく普通にある田舎の商店。
このお店のどこに“伝説”が潜んでいるのでしょうか。
お店に向かうと、まずは自販機が目に入ります。えっ? と驚き、笑ってしまいます。
1台は「何の飲み物が出るかな?」と書かれた、シークレット自販機。
もう1台は、ほぼ1種類か2種類だけがずらりと並んでいます。
しかも、見たことのないようなジュース類です。
「それが推しなのね!」と納得してしまいます。
中に入ると、コンビニというより、田舎の何でも屋さんの風情。
正面奥に見えるのが、このお店を伝説化するキッカケとなった、サンドイッチの棚。
商品のひとつひとつを見る度に、笑ってしまいます。
「冷やし中華」「天ぷら丼」「カツ丼」「たこ焼き」
「きつねたぬきそば」「富山風お好み焼き」「おでん」
「タルタルカキフライ」「あん肝と菜の花とチーズ」
「チャーハンとギョウザBセット」「ほたるいか」
「みたらし団子とウインナー」「きのこたけのこチョコ」
「月へ行こう!(アポロチョコ)」など。
とんでもない具材を挟んでいるので、味は全く想像できません。
食べなければ、わからないのです。
気をてらっているだけのようにも感じますが、ちゃんと試作・味見を繰り返し、美味しいものだけを販売しています。
お客さまの反応としても、「意外とイケる!」と、概ね好評です。
お笑いの演出も気が利いていてユニークです。
「冷やし中華」サンドイッチの季節になると、「冷やし中華、始めました。サンドイッチですが。」のPOPが掲げられます。
素晴らしいお笑いセンスだと思います。
その隣の棚には、大きなおにぎりが並びます。
こちらも人気があり、1日に何度も追加しているほどです。
具材は、「くま」「いのしし」「うさぎ」「しか」
「かも」「ワニ」「カンガルー」「ブラックラーメン」
「シロエビコロッケ」「しいたけハンバーグ」
「わらび」「うど味噌」など。
ジビエや地元の食材を使った、珍しいものばかりです。
サンドイッチとおにぎりの面白さが注目されるようになり、たくさんの人が訪れるようになったのです。
では、なぜこんな変わったものを売るようになったのか。
元々は、普通のコンビニとして営業していましたが、近くに大手のコンビニチェーンができたことで、客足が落ち込みました。
そこで、店主であるお父さんは、「独自の路線を極めなければ」と考え、家族会議を開きました。
まずは、息子さんが調理士免許を取得し、オリジナルの弁当などを作り始めました。
その延長で、変わったサンドイッチを作り、SNSで紹介してみたところ、瞬く間に拡散し、遠くからでもお客さまがやって来るように。
いまでは、日本だけではなく、海外からも来るようになりました。
サンドイッチやおにぎりを買う人が増えたので、イートインコーナーも設けました。
いろんな場所からかき集めたような、統一感のまったくない椅子やテーブルが置かれていますが、その雑多な感じが、気取らない味わいになっています。
他にも、「昆布じめコーナー」という、コンビニでは珍しい商品も揃えています。
富山県は昆布の産地で、家庭でもよく食べられています。
その昆布を使い、息子さんが、さまざまな自家製の昆布じめを作っています。
魚、エビ、イカなどの海鮮をはじめ、「くま」「いのしし」「馬刺し」「自家製チーズ」
「フォアグラ」「原木しいたけ」「焼きアユ」など。
珍しさから、お土産として買って行くお客さまも多くいます。
大手コンビニチェーンでは、絶対に扱っていない商品を揃えているということです。
店内のPOPやポスターも、息子さんが年賀状用のパソコンソフトを使って作り、オリジナリティをアピールしています。
さらに、息子さんの趣味でもあるイラストを使った、オリジナルグッズも販売しています。
缶バッジやポストカード、ステッカー、マグネット、キーホルダー、トートバッグなど。
ほのぼのとした、味わいのあるイラストがウケているようです。
それだけではなく、息子さんのイラストそのものも額装して、サイン入りで販売されています。
面白い遊び心です。
店内すべてで笑いがあり、驚きがあり。
隅から隅まで見てまわりたくなる、不思議な空間になっています。
見事な販売戦略です。
個人商店の進むべき道を示してくれているようです。
image by: Shutterstock.com