トランプ米大統領の言動が、誇大妄想を通り越して狂乱夢幻の域を彷徨い始めたかのような異常事態が続いています。教皇を罵倒し、自らをキリストになぞらえるAI生成画像を投稿するなど、もはやニクソン時代の「狂人理論」すら超えてしまったトランプ。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、ジャーナリストの高野孟さんが、幼児退行すら疑わせるトランプの精神状態と、その背後で米国を自在に操るネタニヤフ・イスラエル首相の異常な執念、そして独りトランプに抱きつこうとする日本の致命的錯覚について鋭く分析します。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
狂人理論をも超えたトランプの異常
2月28日にイランに対する一方的な軍事侵略を始めて以降、トランプ米大統領のTACO(Trump Always Chickens Out=朝令暮改癖)は酷くなってきたが、4月に入ってローマ教皇レオ14世との直接の応酬になってからは、幼児性への退行とも疑わせる心の病の新次元に突入してしまったかのようである。とりわけ彼が4月13日に、SNSで教皇を「犯罪に対して弱腰で、外交政策上で酷い」などと罵倒した挙句に投稿したAI生成画像は、自身をキリストになぞらえて掌から発する神秘の光で病人を癒している姿を描いたもの。まるで「教皇なんかよりボクのほうがずっと神に近いんだぞ、どうだ参ったか」と言い張っているかの如くで、誇大妄想を通り越して狂乱夢幻の域を彷徨い始めたことを示している。
米外交政策史には「狂人理論(Madman Theory)」という1ページ──というよりも一滴の染みのような汚点があり、それはベトナム戦争がいよいよ行き詰まって米国の国家・社会の崩壊と言われる状態に至ったことに悩み切ったニクソン政権の安保担当補佐官ヘンリー・キッシンジャーが用いたことで知られるようになった戦術である。中身は単純で「こうなったらウチの指導者は何をするか分からない。重度のアルコール中毒患者だということもあり(と言ったかどうかは記録にないが)、いきなり核兵器のボタンを押すかもしれない。そうなる前に、なんとか和平交渉に応じてくれないか」という、言ってみれば敗者の開き直りで何とか収拾を図ろうとした。
しかしこれは、大統領が狂人のふりをするか、あるいはアル中なのでいつ本当に狂人になってしまうか分からないと示唆することで相手を脅すことで成り立つかもしれない話であって、目的を達した暁には平然として正気に戻って来なければならない。トランプの場合はもはや本当のマッドマンになりかかっているので、「寸止め」で引き返してこれるかどうかは、本人はもちろん、取り巻きの誰もそれを保証することは出来ない。この極めてあやふやな理論が通用する限界も、トランプはすでに超えてしまったということである。
米憲法修正第25条は適用できないのか?
本誌は以前から、トランプの認知機能に問題があることを指摘し、例えば2024年12月9日付No.1289では、第1期政権の時からすでに現れていた統合失調症傾向に加えて、「妄想性障害」と呼ばれるような極端な頭脳混濁までも引き起こすようになっているのではないかという専門家の指摘を紹介した。
野党=民主党からは、米憲法修正第25条を発動して大統領を罷免し副大統領に職務を代行させるべきだとの声がすでに何度も上がってきている。しかし同条では、
(1)そもそも大統領が職務不能であると上下両院議長に対し申し立てるのは行政府であり、その場合に職務を取って代わる予定の副大統領自身に加えて全閣僚の過半数の賛成を得て文書で申し立てなければならず、それが出来たとしても、
(2)議会の現状は上下両院とも共和党が過半数を占めており(上院100=共和53+民主45+無所属2/下院435=共和220+民主215)、仮に共和党の一部を切り崩すことが出来たとしても、さらに、
(3)大統領が「職務不能ではない」との逆申し立てを行った場合は、両院の3分の2以上の賛成でそれを退けなければならない。
ーーとされていて、現実には発動はほぼ不可能だし、実際に上記(3)の3分の2規定が発動されたことは、これまでに一度もない。
とはいえ、今回の事態で共和党の内部にもトランプの精神的健康状態への懸念はかなり広がりつつあり、さらにトランプ支持層の中核を支えてきたMAGA派の代表的な煽動者や陰謀理論家、草の根の活動の指導者などの間でさえも「さすがに愛想が尽きた」と陣営を離れる者が後を絶たなくなってきた。象徴的なのは、トランプ陣営のアイドルのようになってきたマージョリー・テイラー・グリーン下院議員が、エプスタイン文書の公開をめぐる意見の相違からトランプと仲違いして去る1月に議員を辞職(従って上記の下院バランスは現在219:215に)、「彼のイラン文明を破壊するとの脅迫は、強硬な言質などというものではなく、もはや病気。憲法修正25条を適用すべきだ」と公言していることである(NYタイムズ4月16日付)。
中間選挙を半年後に控えて、このようにMAGA陣営そのものに大きなヒビ割れが生じつつあるのは深刻で、このままではトランプ政権は歴史的な大敗、以後2年間は泥沼のようなレイムダック化に向かい、事実上の修正25条適用となる公算が大きい。
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トランプを自在に操るネタニヤフ
それがなおさらまずいのは、トランプが出口を見失って焦れば焦るほど、周りから人が去り、ごく少数のイスラエル人脈のみに囲まれて「毒を喰らわば皿までも」という破れかぶれに突き進んで行きかねないことである。
日本経済新聞4月16日付の河浪武史=ワシントン支局長の「トランプ氏、虚栄心の誤算」という記事は、WSジャーナル4月7日付に載ったリンゼイ・グラム上院議員の自慢話満載のインタビュー記事を土台にしたものと推測されるが、それによると、もともと中東への軍事介入を嫌っていたトランプを説得して変身させたのはグラム議員を中心とする外交タカ派グループだった。
グラムはトランプの長年にわたるゴルフ仲間で、2人でいる間中、「イランの崩壊はソ連崩壊と同じ重みがある。中東に1000年に一度の変化を起こすのだ。そうすれば君は〔冷戦を終わらせた〕レーガン(元大統領)を超越できる」と囁き続けた。今年1月にイランで反政府デモが起きると、ここで米軍が一撃を加えればたちまち「体制転換」が起きるかの幻覚にトランプを誘い込み、SNSに「抗議を続けろ。必ず助けが来る」と激励する投稿を行わせたのもグラムだった。
このグラムを中心とするタカ派グループには、FOXニュースのアナリストのジャック・キーン元陸軍大将、ブッシュ子政権でスピーチライターを務めたネオコン系の評論家でワシントン・ポストのコラムニストのマーク・ティーセンが含まれていた。彼らの背後にいるのは、もちろんイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相である。
こうして見ると、今の政権の有り様は、ブッシュ子政権の中枢にネオコンと(一部重なりながら)ユダヤ人タカ派が入り込んで米国をアフガニスタンとイラクに対する戦争に引き摺り込んだのと、全くと言っていいほど同じ構図となっていることが分かる。ご記憶と思うが、とりわけ理不尽極まりないイラクへの侵略とサダム・フセインのなぶり殺し、結果としてのイラクの国家破壊、副産物としてのISテロ集団の発生へと米国を迷路に導いた最初の一石は、イスラエル諜報機関が用意した「イラク亡命者」による「サダム政権は大量破壊兵器を隠し持っている」という嘘の”証言”だった。
それと同じパターンが、今回の「イラン神権政権は今にも核弾頭とそれを米国にまで打ち込める長距離ミサイルを完成させようとしている」という与太話として繰り返されているのである。
「憎悪の塊」というネタニヤフの異常性格
ネタニヤフは、米国留学中の1976年にイスラエル軍の将校だった兄のヨナタンをアラブ過激派によるハイジャック事件で失っている。やがて学業を中断して帰国し、テロリストへの憎悪に燃えて政治家への道を歩み始め、1996年の総選挙でリクードを第一党に導き、初めて首相となる。以後今日までの30年間の3分の2近くに渡り第1次から第6次までの内閣を率い、その総力を挙げてイスラエルの存続を脅かしかねない「敵」ーーまずはイラク、シリア、そして最後にイランの殲滅を目指してきた。
《図 https://bit.ly/4theg93 》は、ネタニヤフが導火線に点火された爆弾の絵を示して「イランの核開発がもはや完成目前に達しようとしている」として国際社会の共同行動決起を煽動している場面だが、これをいつのことだと思うだろうか。2012年9月27日の国連総会のことで、実はこの時、彼の目の前の席はほとんどガラガラで、誰も聴いていない。テレビ映りだけを目的としたパフォーマンスで、専ら米国政府に対してこれを訴え、そのあとニューヨークからワシントンに移動して米と首脳会談を行う段取りが進められていた。しかし時のホワイトハウスの主はオバマ大統領で、彼は「こんな奴とは会いたくない」と拒絶してネタニヤフに恥をかかせたのだった。
この《図》を見ると分かるように、ネタニヤフにとっては今から14年前にもイランの核は「90%」の完成度だったが、今もそうである。同じ偽情報を与え続けて、バイデンのボケ程度ではまだ乗せきれず、ようやく第2期トランプ政権に至ってまんまと米国を引き摺り込むことに成功した。このネタニヤフの執念こそ凄まじい。
このようにして米国はネタニヤフの手玉にとられ破滅の道を突き進んだ。世界のほとんどの国はこの構図を理解し、さあて、それでは「米国抜きでどうやって生きていくか」を考え合おうとしている。その時に独り高市の日本はトランプに抱きつくことで生きられると錯覚している。真の意味のインテリジェンスを欠いた国の運命がこれである。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年4月20日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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