160円台を巡る攻防が続き、先行きへの不安が高まるドル円相場。その影響は物価高や企業収益だけでなく、日本社会そのものの構造変化にまで及ぶ可能性があるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、このまま円安が続いた場合に我が国が直面する「2つの崖」を挙げ、各々について詳細に検証。その上で、日本社会が進むべき方向性について検討しています。
※冷泉彰彦さんが登壇する「まぐまぐ主催ウェビナー」が6/13(土)に緊急開催されます。詳しくは、本記事の最終ページをご覧ください。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:進む円安、この先に待っている2つの崖とは
「1ドル200円」で何が起きるか。進む円安の先に待つ「2つの崖」
円安が止まりません。5月初旬の連休の際には、160円ラインを超えたところで政府日銀による強烈な介入があり、一旦は円安が沈静化したように見えました。介入はその後も続き、5月の一ヶ月では11兆円が投入されたという発表もあります。その後は、ジリジリと後退が続いて、6月初旬の現時点では160円のラインを境に売買が交錯しているか、あるいは介入と円売りが交錯していると考えられます。
では、この状態がこのまま継続するのかというと、そこには限度があると考えたほうが良いでしょう。まず、政府日銀の介入資金ですが、その資金は外為特会という特別会計で、125兆円ぐらいの規模があるとされています。これは円建ての会計ですから、5月に仮に11兆円かけて「円買い」をしたとして、残るのは円なので、別に125兆円の規模が大きく減ったわけではありません。
では実際は何を売ったのかというと、ドルですが、その中の相当部分は米国債であると考えられます。政府日銀の外貨準備というのは、そのまま受け取るとドル紙幣のようにも見えますが、それでは金利を生まないので、その多くは米国債という形になっているはずです。であれば、5月に売った11兆円の中身にも相当程度は米国債が入っている、そう考えるのが自然です。
このような「ドル売り、円買い」の介入は、現時点ではかなり強力な「円売り圧力」に対抗して継続しないといけないようなムードです。つまり円売りが国際的な為替市場には圧力としてあるので、介入して辛うじて160円のレベルでの均衡が保てている、そう考えられるからです。では、無制限に続けることが可能かと言うと、それは難しいと思われます。
どんなに隠密でやっていても、巨額の米国債の売りを続けていれば、必ず露見します。そして、米国債の急落の犯人にされてしまいます。そうなれば、日本としては全くもって立場がなくなる、つまり米国から名指しで非難されてしまいます。ですから、そこには限度があると考えるのが自然です。
仮にドル売り円買いのオペレーションに限度があるとしたら、これを見抜いた国際市場は、更なる円安に賭けて来るでしょう。勿論、日本経済そして日本円、あるいは日本の国債残高というのは、巨大です。ですから、仮に潰れたとして、IMF(国際通貨基金)のパワーを全部使っても救済できません。
ですから、日本円というのは大きすぎて潰せないし、事実潰れないのだと思います。ただ、潰れないということは限度がないので、ズルズルと円安が加速した場合には歯止めをかけるのは難しいことになります。村上ファンドで有名になった、村上世彰さんなどは「日本の破綻は為替レート破綻」という形を取るという言い方をしていますが、言い換えれば、目に見える破綻はないままに、円だけがどんどん安くなる可能性はあります。
◆トークイベント緊急開催のお知らせ◆
冷泉彰彦さんトークイベント『国債暴落、円防衛に必死の財務日銀に勝機はあるのか?&AI革命で大混乱のアメリカ、日本への影響は?』Zoomウェビナーで緊急開催決定!
日本国内では国債利回りの上昇と急激な円安に対し、財務省・日銀が必死の防衛戦を続けています。一方、太平洋を挟んだアメリカでは、生成AIの爆発的進化が労働市場・産業構造・社会のあり方を根底から揺さぶる「AI革命」が進行中──。日米それぞれで起きている激動は、決して別々の出来事ではありま
プログラム(予定)
■第一部 国債暴落、円防衛に必死の財務日銀に勝機はあるのか? 今後の展開
日本の財政・金融が直面する正念場を、最新データと国際的視点か
■第二部 AI革命で大混乱のアメリカ、日本への影響は?そして5年後の世
現地在住者の感覚で、アメリカで起きている変化と、日本に押し寄
■第三部 冷泉さんへのQ&Aコーナー
参加者からのご質問に、冷泉さんが直接お答えします。 ※リアルタイムでチャット欄からご質問いただけます。
開催概要
日時:2026年6月13日(土)10:00~11:30(90
形式:Zoomウェビナー
受講方法:お申込み後、視聴用URLをメールにてお送りします
お申込みは、今すぐ下記URLへ
https://peatix.com/event/50264
参加チケット:5,500円(税込)
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一番警戒しなくてはいけない「不連続な崖」の可能性
その場合ですが、仮にドル円で200円だとか230円だという話になっていった場合に、何が起こるのかというと、常識的には次のような現象がより顕著になるということです。
「輸出産業は潤う」
「日本発の多国籍企業が外国で稼いだ売上と利益を円に倒すと膨張する」
「従って、多国籍企業の株価は上がる」
「インバウンド観光客は、より安くなった日本の物価を満喫するようになる」
「反面、エネルギーと食糧、資材などは値上がりして物価高になる」
これが今でもかなり顕著となっているわけですが、こうした傾向がさらに激しくなっていくことは十分に考えられます。ですが、こうした変化はいつまでもリニア(直線的)に進んでいくのかというと、何もかもがそうではありません。ある時点で、「もう限界だ」という崖がやってくるのです。もうこの先には進めないし、一歩でも先に進んだら奈落の底へ落ちるしかない、そんな崖がある、そのように想定することができます。
と言いますか、そのような崖を意識してみてゆくことは必要だと考えるのです。色々あるとは思います。一番警戒しなくてはいけないのは、次のような「不連続な崖」の可能性です。
「日本の格差がある臨界点を超えていくと、急速に治安が悪化する」
「治安の悪化や排外感情の存在がバレてしまい、インバウンドが止まって観光業が壊滅する」
「国内資産の海外流出(キャピタル・フライト)が一気に加速する」
「そこで資産の海外持ち出し規制が強化され、より一層に途上国のような格差とコネによる社会不安が出てくる」
というような可能性です。ですが、私はこの種の暗黒の崖については、そこまで悲観的ではありません。なぜならば、この2つの問題、格差拡大と資産の流出については、「良性から悪性への臨界点」は「とっくに過ぎている」と見ているからです。
特殊詐欺からトクリュウへの悪化、NISAやGPIF(国家の年金基金)における海外投資などは、とっくの昔から加速しており、どちらもズルズルと進んでいます。それでも、治安に関しては何とか警察が踏ん張っている状態ですし、海外への資産流出も拡大しつつあるものの、雪崩にはなっていません。
どちらも日本の国民性と言いますか、懐の深さや人と社会の基礎体力のようなところで「既に悪化の臨界点を過ぎながらも、とにかく持ちこたえている」という状態だと考えられます。この先、これが一気に崩壊するような崖というのは、当面は想定する必要を感じません。
というわけで、今回はもっと別の崖、2つの崖について考えてみたいと思います。1つはエネルギー、もう1つはデジタル赤字の問題ですが、その前に簡単に「不動産の崖」について考えてみましょう。
大都市、特に東京23区内には巨大な国際マネーが不動産買いを繰り広げてきました。こちらは、円安になればなるほど割安感が拡大して、投資が激増してくるというサイクルがありました。ですが、円安のデメリットである建設資材の高騰、これにイラン情勢が乗っかり、さらに人手不足がコストをプッシュするという中では、これ以上の開発については限界に来ています。
これに、どう考えても賃貸ビジネスとしてはリターンが取れないレベルまで、タワマンが買い上げられたということを加えますと、既に崖は通り過ぎていると判断できます。この先は、国際不動産市場の崩壊に伴って、日本の不動産市場も崩壊する可能性が濃厚で、日本の業界としては、できれば発火点にだけは「ならない」ように留意しながら、スマートな資金の逃避を計画する段階となっていると思います。
不動産については、そんなわけで、これ以上円安になっても開発は進まない中で、新規開発に関しては行くも戻るも地獄の停滞状態に陥っています。崖という名の不連続な変化ということでは、既にその臨界点を過ぎたところだと言えるでしょう。
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「日本のデジタルは日本国内で作っていく」という転換
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本論です。日本経済がさらにこの先、円安に進む場合に2つの大きな崖に直面すると考えられます。エネルギーとデジタルの崖です。それぞれについて見てゆきます。
まず、デジタルですが、この先にドル円で200円、230円という水準になっていった場合ですが、円建ての日本経済が「デジタル赤字に耐えられない」という臨界点が来ることが考えられます。例えばですが、AWS(アマゾンのクラウド)などは、料金的にペイできないので、クラウドの領域は民族資本のものしか買えないという時期は意外に早く来そうです。
動画配信とかSNSも同じで、向こうさんから見れば「ドル建てでは極小の広告収入しか生まない割にリソースを食う市場」ということになれば、どんどんサービスは切られることになると思います。スマホのハードもOSも然りということになります。AIなども最新バージョンは法人需要であっても、なかなかコスト的に手が出せないということになります。
問題は、この「手が出せない」ということです。これは大きな崖になります。ヘタをすると、日本国内の官公庁にしても、内需産業にしても「デジタル赤字」はもう払えないということになります。大変な問題です。そして、不連続な変化が日本の社会に生じていくことになるでしょう。
では、そこで日本社会はある種の極端に走っていくのか、つまり「デジタルは高くて払えない」ので、デジタルより安い「人力で」という状況に陥っていくのか、論点はそこになります。結論から言えば、「そうはならない」という方向性に賭けたい、そう思います。人口が減り、労働力もどんどん減っていく社会です。流石にデジタルでサクサクできることを、紙と手書きと人力に戻すということは物理的に不可能です。
ということであれば、この崖、つまり不連続な変化というのは、「デジタル赤字の垂れ流し」から、「本当の民族資本、民族技術によるデジタルへ」という変化になっていくべきです。いや、それしか取るべき道はないとも言えるでしょう。相変わらず、一部のプラットフォームはシリコンバレーのものを使うかもしれないし、例えば廉価でセキュリティ上の問題がないのなら、中国勢のものを採用するかもしれません。
それはそれとして、その一方で、とにかく日本国内のニーズを満たす日本のデジタルは、日本国内で作っていく、そのような転換が起きるのではないかと思うのです。デジタルを担っていくだけの言語と数学の最低リテラシーについては、平均値としてはまだまだ日本人は高いレベルにあります。これまでは、マネジメントが政財界も官界もダメだったので、マトモな生産性向上ができなかったのです。
ですが、ある臨界点を越えて円が安くなり、もうデジタル赤字は払えない、となった際に、まだ言語と数学のリテラシーのある人口が残っていたのなら、日の丸デジタルを本当の意味で立ち上げていく流れになるはずです。そして、その場合には、仮に相当の人口が本気になったのなら、それこそ戦後の闇市から本田やソニーが生まれたように、マジックの再現も可能になるかもしれません。
私は冗談で言っているのではありません。これだけ高いリテラシー、文字通りのリテラシーを誇る人口が、デジタル赤字にあえぐということ自体がおかしいのです。いくら、デジタル嫌いの団塊世代がアンシャン・レジームを死守していたからといって、とにかく全くの不自然が半世紀続いたわけです。その潜在力を解き放つのであれば、今のような生産性の低迷からは脱することができるはずです。
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期待される「ガラガラポン神話」という日本の歴史の発動
日本の歴史には、ある神話があります。それは「ガラガラポン」神話といって、日本の社会というのは長期の低迷期に入ると、なかなか脱せなくなるが、ある限界まで行って覚醒すると(ガラガラポン)、一気に不連続な変化をする。そして、一気に猛烈な馬力を発揮する、そんな神話です。黒船から維新の激動、そして敗戦から高度成長という大転換、この2つが実例として伝わっています。
ならば、第三のガラガラポンとして、デジタル赤字から脱する中での日の丸デジタルの真の覚醒を期待したいと思います。過去30年以上にわたって、団塊などの戦犯世代がデジタルの潜在力を抑圧してきたわけですが、これを解き放ちつつ、一気に社会を改革する、そんな不連続な変化を実現するのです。
この「崖」、ですが、もしかすると既に始まっているのかもしれません。アンソロピックやオープンAIの最新型のAIに対して、ひたすら恐れている世代が政財界を担っているわけですが、そうした惨めな現象自体が既に「詰んでいる」わけです。
円安に伴う崖、もう一つはエネルギーの崖です。勿論、円安の進行とは別に、イランとウクライナの情勢が好転すれば、とりあえずエネルギーコストで「詰む」という状況は回避できます。それはそうなのですが、中期的に円安トレンドが進むのであれば、やがて臨界点が来ると思います。
それは、輸入エネルギーでは冷暖房と輸送インフラ、製造業のインフラが支えられないという臨界点です。言い方を変えるのであれば、円安の中で日本国内の経済では「国際市場価格で化石エネルギーを買えない」という状況に接近するということです。
その場合には、石炭を掘って煙モクモクということになるのでしょうか。団塊世代など、311以降の国論分裂の悪夢を経験した世代は、それでも良いと思うかもしれませんが、もっと若い世代はずっと賢いのではないかと思うのです。それは、世界的に常識的な安全基準で大規模に既存の原子炉を安全に稼働するということです。
まず、「お釜」つまり原子炉格納容器が100%健全であること、これは絶対です。そこさえクリアしたら、付属機器はとにかく更新しつつ、現在の国際的な安全基準に照らして異常時の冷温停止が可能かを審査するのです。そしてパスしたのなら、稼働して冷暖房と産業用に電力を潤沢に供給するのです。
無駄なテロ対策、無駄に頻繁な検査サイクルなど、物理化学のリテラシーのない世論に迎合もしくは利用して「原子力ムラ」利権になっている部分は、この際切り捨てるべきです。その上で、日立と旧東芝に残っているノウハウに加えて、必要なら英仏の支援を受けつつ、とにかく回すのです。
そのような現実的な判断へのターニングポイントになるのであれば、エネルギーの崖というのもプラスに受け止めることができるのではないでしょうか。とにかく、このままでは日本経済が原油高を受け止められない、だから外為特会の隠し利益でバラマキを、といった末期的、刹那的なことをやっていても、全く展望は開けません。
この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ
大きすぎる311以降に団塊世代らが起こした国論分裂騒動の余波
そもそも、原発大国化した中国のすぐ東に位置している日本は、万が一の場合は中国の事故原発からの西風が直撃するわけです。これは逃げようのないリスクであり、そのリスクを低減するには、イザというときには迅速に救援に行けるだけの技術力を維持するしかありません。現状は、そうした技術力すら怪しいわけで、とにかく311以降に団塊世代などの起こした国論分裂騒動の余波は大きいわけです。
そこを乗り越えて、成熟技術である第5世代加圧水炉の技術をしっかり活用して、国内に潤沢なエネルギーを供給できるようにするのです。それができれば日本経済の、そして日本社会の将来はかなり見通しがつくようになります。
勿論、理想を言うのであれば、デジタルの崖もエネルギーの崖も経験する前に、日本の国内経済が生産性を回復することがベストです。その結果として国力の低迷が克服されて、以上な円安トレンドも収束する、このシナリオが描けるのであれば、今すぐにでも着手すべきです。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年6月9日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「皇室典範改正論議、もっと大事なこととは」「潤日(ルンリィー)」への『反発』に対する違和感」「ここが変だよ台風報道」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。
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◆トークイベントのお知らせ◆
冷泉彰彦さんトークイベント『国債暴落、円防衛に必死の財務日銀に勝機はあるのか?&AI革命で大混乱のアメリカ、日本への影響は?』Zoomウェビナーで開催決定!
日本国内では国債利回りの上昇と急激な円安に対し、財務省・日銀が必死の防衛戦を続けています。一方、太平洋を挟んだアメリカでは、生成AIの爆発的進化が労働市場・産業構造・社会のあり方を根底から揺さぶる「AI革命」が進行中──。
日米それぞれで起きている激動は、決して別々の出来事ではありま
米国プリンストンに長年暮らし、日米双方の現場感覚を併せ持つ作
プログラム(予定)
■第一部 国債暴落、円防衛に必死の財務日銀に勝機はあるのか? 今後の展開
日本の財政・金融が直面する正念場を、最新データと国際的視点か
■第二部 AI革命で大混乱のアメリカ、日本への影響は?そして5年後の世
現地在住者の感覚で、アメリカで起きている変化と、日本に押し寄
■第三部 冷泉さんへのQ&Aコーナー
参加者からのご質問に、冷泉さんが直接お答えします。 ※リアルタイムでチャット欄からご質問いただけます。
開催概要
日時:2026年6月13日(土)10:00~11:30(90
形式:Zoomウェビナー
受講方法:お申込み後、視聴用URLをメールにてお送りします
お申込みは、今すぐ下記URLへ
https://peatix.com/event/50264
参加チケット:5,500円(税込)
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- 【Vol.642】冷泉彰彦のプリンストン通信 『進む円安の先に待つ2つの崖とは』(6/9)
- 【オンライン開催】2026年6月13日開催|冷泉彰彦さんトークイベント『国債暴落、円防衛に必死の財務日銀に勝機はあるのか』ウェビナーのご案内(6/5)
- 【Vol.641】冷泉彰彦のプリンストン通信 『高市減税案で円暴落は回避可能?』(6/2)
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