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麻生か、茂木か、萩生田か…岸田「年内解散なし」をリークした“真犯人”

これまで何度も永田町に吹きすさび、そのたび議員たちが右往左往させられてきた解散風。しかし今月9日、首相が年内の解散を見送ったとの新聞報道がなされました。いったい誰が、どのような狙いを持ってこの情報をリークしたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その出所を考察。さらに窮地に立たされた岸田首相の今後の行く末を推測しています。

官邸発の情報ではない。誰が衆院「年内解散なし」をリークしたのか

内閣支持率が危険水域に入り、自民党内ではポスト岸田をにらんだ動きがはじまったようだ。

11月9日早朝、朝日新聞、読売新聞の報じたニュースが、それを感じさせる。岸田首相が年内の衆院解散を見送るという内容。むろん、岸田首相がそのように表明したのではない。誰かがリークしたのだ。

その「誰か」だが、両社の記者とも同じ人物から聞いたと考えるのが自然だ。朝日は「政権幹部が明らかにした」と書いた。読売は「与党幹部」である。

これでわかるのは、官邸から出た情報ではないということだ。官房長官や官房副長官なら「政府高官」、岸田首相の秘書官なら「首相周辺」などとするだろう。

読売は、「与党幹部」が岸田首相から聞いた内容について、次のように書いている。

首相は、複数の与党幹部に対し、経済対策の裏付けとなる2023年度補正予算案の早期成立や経済対策の実施に「集中したい」との考えを伝えた。

与党といっても、公明党ではなく、自民党幹部ということだろう。首相が直接会ってそんな話をする相手といえば、ごく限られてくる。麻生副総裁、茂木幹事長、森山総務会長、萩生田政調会長…。彼らなら朝日のように「政権幹部」と言っておかしくない。そのうちの誰かが、自民党を担当する平河クラブの記者にリークしたと考えられる。

ここからは、筆者の“勘”になるが、ずばり言って茂木幹事長ではないだろうか。衆院解散のタイミングは彼の利害にかかわると思うからである。

岸田首相を支え続けると相変わらず茂木氏は言う。幹事長としての表向きはそうせざるを得ない。だが、年齢も岸田首相より上の68歳に達し、岸田政権がレームダック化したといわれる今が、総理をめざすラストチャンスかもしれないのだ。来年の総裁選への出馬を問われると決まって茂木氏の口から飛び出す「令和の明智光秀にはならない」という言葉じたいが、じつにキナ臭い。

ともあれ、自民党幹事長がオフレコで「年内の解散はない」という趣旨の話をしたとすれば、それを聞いた記者が記事にしない手はない。9日の朝日、読売の朝刊に掲載されるや、その日のうちに主要メディアがこぞって後追いしたことからも、情報源の“重量感”が伝わってくる。

実際には、予算案の成立や経済対策に集中したいとだけ岸田首相は語ったのだろう。それを聞いた自民党幹部が「年内解散はない」と解釈するのは当然のことといえる。しかし、岸田首相も、さっそくメディアに漏れるとは想像していなかったにちがいない。

記事を読んで、岸田首相はリークした人物を想像し、してやられたと歯がみしたのではないだろうか。年内の解散はないからゆっくりしてくださいとなったとたん、首相の求心力はゆるむ。解散する気はなくとも、反乱を抑え込む「解散権」は持っておきたい。伝家の宝刀を奪い取られたようなものである。

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政権支持率の低下に色めき立つ「ポスト岸田」を狙う面々

記事の出た10月9日の午前9時40分、公邸から官邸に到着した岸田首相は、待ち受けていた内閣記者会のメンバーに取り囲まれ、衆院解散に関する質問にこう
答えた。

「まずは経済対策、先送りできない課題一つ一つに一意専心取り組む。それ以外のことは考えていない」

報道を肯定することもできないし、否定したらしたで、またぞろ首相自ら「解散風」を煽っているなどと批判されかねない。とどのつまり「経済対策に集中」と言うほかなく、それを「年内解散はない」という記事に仕立て上げられて、既成事実化する。

岸田首相は記者の取材に応じた後、自民党本部に向かい、午前11時から約50分間、麻生副総裁、茂木幹事長、森山総務会長、萩生田政調会長、小渕選対委員長が居並ぶ会議に出席した。

そのさい、岸田首相はこう話したという。「解散するなど、ひと言も言っていない」

つい、口からこぼれ出た愚痴だったのか、“犯人捜し”のため探りを入れる目的があったのか。これに対する一座の反応は伝えられていないが、さぞかし気まずい空気が漂っていたことだろう。

岸田首相は来年秋の総裁選で再選されることを念願としている。そのためには、内閣支持率が高くなったタイミングで衆院を解散し、総選挙で圧勝して「岸田降ろし」を封じるのが近道であり、事実、岸田首相はその好機をうかがってきた。

今年5月のG7広島サミットは政権浮上のきっかけとなるはずだったが、案に相違して、それから支持率は低下の一途をたどり、いまやメディア各社の調査で軒並み30%を割っている。

こうした状況に、「ポスト岸田」を狙う面々が色めき立つのは当然のことである。だが如何せん、強力な候補者が見あたらないのも事実だ。「次の首相」世論調査で人気の高い河野太郎デジタル相はマイナ問題で失速ぎみだし、石破茂氏は党内基盤が弱すぎる。萩生田政調会長は所属する安倍派がまとまらず、統一教会問題がらみの悪イメージも払しょくできていない。

茂木幹事長も頭脳明晰のわりに、国民的人気はさっぱりで、党内の人望もパッとしない。とはいえ、麻生副総裁の後ろ盾があり、党内基盤という点では他のライバルをしのぐ。今度こそ自分が、と思っているはずだ。8月の党役員人事で幹事長に留任、総裁選への出馬意欲をいったん封印したものの、岸田首相とともに泥船で沈むのは御免だろう。いずれかの時点で、岸田首相に反旗を翻し、総裁選に打って出るチャンスを狙うのではないか。

そんな茂木氏にとって最悪のシナリオは、悪材料が積み重なって追い込まれた岸田首相が、一か八かの勝負に出て解散・総選挙を決行するケースだ。

いくら支持率が低下したといっても、対する野党は相変わらず弱いままである。大きく議席を減らすにせよ、自公で過半数の233議席(現有294)を超える可能性は十分ある。そうなると、岸田首相は国民の信任を得たと強引な解釈で党の重鎮らを説得し、総裁選を切り抜けるかもしれないのだ。

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自分が置かれた状況を誰よりもよくわかっているはずの首相

今回、「年内の解散」を封じ込まれて、岸田首相の自由度はかなり狭まった。もちろん、来年1月召集の通常国会冒頭での解散もありうるが、それだと3月末までに来年度予算を成立させるためには、窮屈な国会日程となってしまう。4月以降では、通常国会会期末の6月解散が視野に入るが、これを逃せば総裁選前の解散はきわめて難しい。

支持率の急回復も考えにくい。なにしろ政権のイメージはいまや最悪だ。所得減税をするという甘い政策さえ、国民にそっぽを向かれる始末だし、政務三役の辞任ドミノ症候群も再発した。

税理士でありながら固定資産税を滞納して4回も差し押さえを食らった神田憲次衆院議員を、こともあろうに徴税の大元締めである財務省の副大臣に起用したというのは、タチの悪いブラックジョークとしか思えない。官邸の“身体検査”に問題はあるのだろうが、つまるところ任命権者である岸田首相の目が節穴だということになる。

岸田首相は先の内閣改造・党役員人事で、各派閥から出てくる要望を最大限受け入れて、党内の足場を固めたつもりだった。これにより、解散を見送っても総裁選を乗り切れると踏んでいたのではないか。

しかし、このままズルズルいけば、「選挙の顔」として不適格の烙印を押され、岸田首相を引きずり降ろす動きが出てくるのは避けられそうもない。前の総理、菅義偉氏の場合も、総裁選間近のタイミングで衆院解散をもくろんだが、党内からの圧力で阻止され、急速に求心力を失って退陣した。

岸田首相は党人事の刷新を旗印に「菅降ろし」の先頭に立ち、政権を奪った当人である。それだけに、いま自分が置かれた状況を誰よりもよくわかっているはずだ。うすら笑いを浮かべ落ち着き払っているように見せているのは、内心の乱れを覆い隠すためなのかもしれない。

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image by: 首相官邸

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