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President Xi Jinping of China during a state visit on August 22, 2023 in Pretoria, South Africa.

日中首脳会談で少し緩んだ習近平の口元。そこから日本が読み取るべき“サイン”は

アメリカで現地時間の11月16日、1年ぶりとなる岸田文雄首相と習近平国家主席の日中首脳会談が実現。「笑顔なき会談」と報じる日本メディアもありましたが、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、習氏の少し緩んだ表情に注目しています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で富坂教授は、ここ数年の両国の関係を考えれば、少しの口元の緩みであっても中国側の歩み寄りのサインと受け取るべきと解説。両国の関係を大きく好転させる好機が来ていると伝えています。

会談の「可否」だけに拘泥して好機を逃し続ける日本の対中外交

アジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のため米カリフォルニアを訪れていた岸田文雄首相は、現地時間16日午後、中国の習近平国家主席と会談した。会談を終えた首相は、「(双方が)理解を深める上で、大変有意義なやり取りだった」と記者団に語った。

しかし、1年ぶりにやっと実現した首脳同士の対話が、今後の日中関係の「大きな前進」を予感させたのか、といえばそうではない。この少し前、カリフォルニア郊外で行われた米中首脳会談で発せられた雰囲気と比較しても、その差は歴然だった。

米中関係の今後は、来年アメリカが大統領選挙を控えていることもあり、決して楽観できる状況にはない。だが、そんななかでも両首脳は少なくとも「競争」をきちんと「管理」するという意思を世界に向けて発信した。そして瞬間風速であっても追い風を吹かせた。

日米では役割が違うとの見方はある。しかし、それにしても見劣りは否めなかった。日本にとって今回の会談の実現は、今年5月のG7サミット(主要7カ国首脳会議)で、中国を露骨にターゲットにしたことなどで冷え込んだ関係を、米中首脳会談に合わせて少しでも改善するためにも不可欠であった。

そのことは会談を実現するために日本側が水面下で奔走していたことからも伝わってくる。秋葉剛男国家安全保障局長を中国に派遣するだけでなく、谷野作太郎元中国大使にも声がかかったというから、大変なものだ。

中国との窓口になるはずの北京の日本大使館がほとんど機能していなかったことも響いたのかもしれない。まさに、かつての流行語でいう「水鳥外交」によってこぎつけた会談だったのだ。

当日も、本当に会談が実現できるか否か、ギリギリまで定まらず、関係者をやきもきさせた。最終的にメディアに情報が伝わったのは会談までわずか5時間余というタイミングだった。中国側に主導権を握られて振り回されていたことがよく伝わってくるエピソードだ。

もっとも日中の行方に注目していた海外のメディアの多くは、そもそもこの会談で大きな進展があるとは考えていなかったようだ。だからたいていのメディアは、福島第一原子力発電所から放出される処理水の問題をめぐる日中の攻防にフォーカスして双方の主張の違いを伝える報道が目立った。

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習近平国家主席が「(核汚染水問題は)すべての人々の健康と地球規模の海の環境に影響する問題。日本は責任をもってこの問題を扱うべき」と指摘したのに対し岸田文雄首相が「アルプス処理水の海洋放出については、私から科学的な根拠に基づく冷静な対応と中国による日本産食品輸入停止措置の即時撤廃を強く求めた」と記者会見で述べたやり取りだ。

処理水の問題を含めて、尖閣諸島など東シナ海問題やスパイ容疑をかけられ中国で拘束されている邦人の解放問題。また南シナ海や台湾をめぐる問題も平行線を前提にお互いがアリバイ的に主張し合う「いつかどこかで見た」場面もあった。それでもこの会談は、全体として日中関係が底を打ったという印象を世界に与えることには成功したようである。

シンガポールのテレビ『CNA』のニュース番組「アジア・トゥナイト」は、「政治問題での具体的な進展はありませんでしたが、日中間で徐々に雪解けが進んでいる気配はうかがえました」と印象を伝えている。日本の報道では「笑顔なき会談」という表現も目についたが、岸田首相を迎えた習近平の表情は、笑顔とまではいかないまでも明らかに緩んでいた。

考えてみれば日本はここ数年、アメリカが中国包囲網を築くためのサポートとして、世界各地で中国の問題を積極的に取り上げてきた。今年の例を挙げれば、5月には主要先進国7カ国(G7)広島サミットで、「東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明」という文言を日本が主導して首脳宣言に入れた。中国はこれに反発し、「中国を中傷し攻撃するもので、強烈な不満を表明するとともに断固反対する」と外交部報道官がかみついた。

また9月にはワシントン郊外のキャンプ・デービッド山荘での日米韓首脳会談を受け、新華社が「故意に『中国脅威論』というデマを拡散させた」と激しく紙面で反論した。同9月には中国中央テレビ(CCTV)の報道番組で「日本の軍拡」と題した30分番組も流された。

本来なら日本のトップと握手などしたくはないだろう。そんななかで行われた会談で、習近平の口元が少しでも緩んでいれば、まずは上出来と言わざるを得ない。そして、この対応は中国側が歩み寄っているとも受け取れるサインなのだ。

これは過去にこのメルマガで何度も書いてきたように日本が米中対立の中で未曽有の「モテ期」にあることを証明している──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月19日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Muhammad Aamir Sumsum / shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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