11月にサンフランシスコで実現した米中首脳会談以降、落ち着いていた米中関係が、またも騒がしくなってきたようです。大統領選を控え、「荒れる2024年」を予感させる両国の動きを伝えるのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、結果的に米国企業が顧客を失う事態となった半導体規制を例に挙げ、規制の応酬のリスクを解説。両国から感情的な発言が出始めていることを注視しています。
半導体からニンニクまで安全保障の脅威 中国バッシングが次々と降り注ぐ米中関係の「新常態」
中国の人民元が11月の世界決済シェアで円を抜き、4位となった。外国メディアがこぞって報じた人民元の躍進は国際銀行間通信協会(SWIFT)の公表したデータだ。これに中国の国内メディアが快哉を叫んだことは言うまでもない。
世界の経済成長への貢献度が3割を超え、2022年の統計まで中国が6年連続で世界一の物品貿易国の地位を維持(中国税関総署の発表)していること、また新興国・発展途上国で人民元決済が広がっていることを考えれば当然の帰結だろう。ただこうした現象がアメリカをさらに刺激すれば、そのリアクトは決して中国に有利なものにはならない。
米中はいま「相互依存のなかの競争」という現実への対応に苦慮している。アメリカの未来を考えるとき、地政学的競争において優位を維持することはマストだ。中国がもしこの点でアメリカを刺激すれば、米中関係から「協力」という要素が大きく後退することは間違いなく、それは相互依存の世界において、経済に少なからぬ逆風を吹かせることにもなる。
大統領選挙を控える2024年は、ただでさえ中国バッシングに拍車がかかると予測されてきた。懸念されるのは非理性的な応酬で高まる感情的対立だ。カリフォルニアの首脳会談から一応の落ち着きを取り戻したかに見える米中関係だが、この1週間前後の動きには、議会を中心に「荒れる2024年」を予感させる動きも目立っている。
まず半導体規制の問題だ。ジーナ・レモンド米商務長官は12月11日、米エヌビディアが中国向けに開発している新たな人工知能(AI)アクセラレーター3種について、「政府が詳細を精査している」と明らかにしていたが、ここにきて徹底的にエヌビディアからの流れを断とうとする動きも見られる。
中国はこれを警戒。レアアースの高性能磁石の製造技術の輸出を禁じると発表し、けん制している。レアアースは電気自動車や風力発電のタービン、電子機器において電力を駆動力に変える磁石などに使われる17の金属のことだ。中国はレアアースの生産及び精錬技術において世界一で、その強みを活かした対抗策だ。
問題はアメリカの半導体技術にせよ中国のレアアースにせよ、自国の優位を背景にした対立の余波が世界を巻き込んで混乱をまき散らすことだ。
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制裁などで追い詰められた国は突破口を求めて奮闘し、その結果として自国技術を発展させたり、別の調達ルートを開拓して制裁の痛みを解消してしまうケースがほとんどだ。そして、その過程ではサプライチェーンの再構築というコストを世界は強いられてきた。
中国の通信大手・華為科技(ファーウェイ)はアメリカの半導体技術から排除され、3年の雌伏を経て自ら7ナノの半導体を開発してしまった。米半導体メーカーはファーウェイという顧客を失い、世界も混乱のコストに見舞われた。
インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)やエヌビディアのジェンスン・フアンCEO、クアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOは今夏、ワシントンで開かれた会合で、輸出規制はむしろ半導体産業における米国のリーダーシップを損ねる恐れがあると警鐘を鳴らしたのは有名な話だ。だが、こうした政治が絡んだ応酬では、感情が理性に勝るのが常だ。それは半導体分野に限った話ではない。
今週、アメリカのニコラス・バーンズ駐中国大使が発した「中国は、アメリカと協力して月面探査をするつもりはない」との発言をめぐる米中の応酬も典型的だ。
国家宇宙局の報道官は「中国は宇宙分野の国際協力を重視しており、アメリカとの協力にも一貫してオープンで包摂的な態度をとっている。アメリカとの協力を制限する規定など設けていない。協力が進まない理由はむしろアメリカにある」と即座に反論した。
1998年のコックスレポート以降、宇宙技術から徹底して排除された経験から、中国には被害者意識が強い。それだけにバーンズ発言には敏感に応じたのだろう。
また農産品でもアメリカの嫌がらせに中国がいきり立つ場面が見られた。きっかけは共和党のリック・スコット上院議員が米商務省に書簡を送り、中国産ニンニクに対する調査を要求したことだ。スコット曰く、「中国から輸入しているニンニクは非衛生的な環境で栽培されている」ため「中国産ニンニクは国家安全保障を脅かしている」というのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年12月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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