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「羽田の奇跡」に世界が注目。全日空の元CAが解説、JAL機事故が証明した炭素複合材の実力

炎上する機体の映像が日本中にショックを与えた、日航機と海上保安庁の航空機との衝突事故。国内メディアは日航機の乗客乗員379人全員の無事脱出を「奇跡的」として大きく報じていますが、海外では日航のエアバスA350に注目が集まっていると言います。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では全日空の元CAという経歴を持つ健康社会学者の河合さんが、その理由を詳細に解説。さらに航空業界の安全基準や安全対策は多くの命により作られてきたとした上で、この事故についても徹底的な調査を強く求めています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

元CAが考える「航空機の未来」

年明けから胸が痛む事件が相次いでしまいました。北陸では今、この時間も必死の救出作業が続いていますし、震災関連死をなんとか食い止めようと、医師や看護師のみなさんが現地に入っています。私に今できるのは金銭的なことしかないのですが、1日でも早く穏やかな日々が戻ることを心から祈っております。

一方で、羽田空港の事故には本当に驚きました。炎が巻き上がる状況は想像を絶する恐怖だったと思います。全員脱出という偉業を成し遂げたJALのCAたちは本当に頭が下がるし、素晴らしいです。想像するだけで涙が出ます。大切な任務に疲れていた海上保安庁の職員たちが亡くなってしまったことは、本当に残念でなりません。事故の経緯などから、御家族の方々も悲しみの声をあげずらいかもしれないですし…心が痛みます。

明日公開の日経ビジネス、明後日公開のITmediaに、それぞれ事故については書いていますので、ぜひお読みください。

本メルマガでは、今回の事故で明らかになった「飛行機の機能」について取り上げます。

日本のメディアはほとんど注目していまえせんが、海外では日本航空の旅客機だったエアバスA350に注目が集まっています。

現在世界の空を飛ぶ飛行機の多くは、炭素繊維を強化した複合材を使用した新世代旅客機。JAL機もその一つです。

2000年代初頭にボーイング787や、エアバスA350が燃費を抑えるために使い、広がりました。炭素素材は軽量なことに加え、劣化しずらいので保守点検のコストを削減できます。機内も乾燥しずらいとされ、私自身海外に行く時に乗った飛行機がエアバス350で、その“威力”に驚きました。なにせそれまでは何度も顔にシュッと化粧水を吹きかけ、マスクをし、目薬を頻繁にささないとカラっカラになっていたのに、目的地のロス到着まで一度も「乾く」ことがなかったのです。

しかしながら、2013年にボーイング787で、発煙・出火トラブルが相次ぎ、安全性が懸念されました。調査の結果、初めて使われたリチウムイオン電池が出火の原因になっていることがわかり、改善を迫られました。

そして今回。皮肉にも羽田空港の大惨事が、炭素繊維の安全性を検証する初めての機会になるかもしれないと、航空機メーカーが期待を寄せているというのです。

専門家の多くは「機体構造が維持されていた間に、乗員乗客全員が安全に脱出したという事実は、この複合材に対する信頼性を物語っている」とし、エンブリーリドル航空大学のアンソニー・ブリックハウス教授によると、火災だけでなく、衝突時の生存可能性という観点からも、炭素繊維強化複合材の強度を検証できるとのこと。

また、13年7月にアシアナ航空のボーイング777が着陸に失敗し、火災となり乗客3人が死亡した事故と比較することで、炭素繊維強化複合材とアルミニウム素材の火災における推移の違いに関する有効な知見が得られるのではないか、と指摘されています。

すでに米国などから専門家が来日し検証を進めてますが、乗客が全員脱出するまで機体の形状が保たれた一方で、6時間余りも燃え続けて、ようやく完全に火を消し止められた理由の検証も行われているようです。

ちなみに今回話題になった「90秒ルール」は、アメリカ連邦航空局(FAA)が定めた商用機の安全基準のひとつです。「機内の全非常用脱出口の半分以下を使って、事故発生から90秒以内に乗客・乗員全員が脱出できるような構造にすること」が、製造・販売する航空機メーカーには義務付けられているのです。各航空会社で乗員に課される避難誘導の訓練も、この機体の設計基準に基づいています。

航空業界の安全基準や安全対策は、これまで失われた、あるいは失われそうになった大切な命によって作られてきました。想定外の出来事が起こるたびに使われる「教訓」という簡素な2文字は、何百、何千人のかけがえのない「命」に支えられているといっても過言ではありません。

今回の事故の原因究明にあたる職員の方たちには、年末年始の増便、コロナ禍の閑散期を経た急速な需要の増加、コロナ禍で減らしていた人員の急激な増員体制、コロナ禍での現場での経験不足、さらには北陸の被災地に一刻も早く物資をとどけなけばという任務と使命感…。「世界一忙しい」と言われる羽田空港の管制官の勤務体制なども含め、徹底的な調査を行なってほしいです。

みなさまのご意見、お聞かせください。

【関連】全員避難まで焼け落ちず。JAL機炎上から乗客の命を守った「日本企業」の功績

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image by : KITTIKUN YOKSAP / Shutterstock.com

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