全員避難まで焼け落ちず。JAL機炎上から乗客の命を守った「日本企業」の功績

Singapore,,Singapore,-,August,16,,2018,:,Inside,The,Economy
 

1月2日、羽田空港で起きた日本航空516便と海上保安庁の航空機との衝突炎上事故。この事故の避難誘導でにわかに注目を浴びることとなった「90秒ルール」ですが、その「本来の意味」をご存知でしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、航空保安における「90秒ルール」について詳しく解説。さらに今回の「全員生還」が、日本人乗客の民度の高さが可能にしたという巷で語られている言説を否定し、そう判断する理由を記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年1月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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90秒は乗客を保護する。JAL機全員脱出で注目の「90秒ルール」

1月2日に発生した羽田空港における着陸機JL516便(エアバスA350/900型)と、海保機の衝突事故は世界に衝撃を与えました。また、その直後と言える1月5日には米国オレゴン州のポートランド空港を離陸したアラスカ航空1282便(ボーイング737MAX9型)が、離陸直後に機体の一部に穴が開くという重大な事故を起こしています。

この2つの事故を考える上で、重要なのは航空機の保安基準における「90秒ルール」という問題です。例えば、日本の場合、この羽田の事故を契機として、少なくともこの「90秒ルール」という用語は有名になっています。その一方で、日本の報道ではかなり深刻な誤解が見られます。また、アラスカ航空の事故に関しても、この「90秒ルール」が絡んでいます。この機会に、この問題について、少し詳しく議論しておきたいと思います。

まず大切なのは、この90秒ルールというのが、客室乗務員による乗客の避難誘導におけるタイムリミットというよりも、その前に機材の側の強度要件だということです。つまり、航空機火災など、重大な事故の場合に、最低でも90秒の間は機材の構造物が持ちこたえる、つまり構造が崩壊せず、また危険な温度まで上昇せず、有毒な煙やガスの発生も抑制し、乗客を保護するだけの強度を確保するというルールです。

全ての航空機と部品はこの機材としての90秒ルールを満たすように設計、製造されています。新しい機種の開発には、この基準が厳しく審査されます。そして、基準を満たす、つまり「最低でも90秒は持ちこたえる」ことが証明されて、はじめて「型式認定」つまり機種としての認可が出ます。

いいニュースではありませんが、例えば、既にほぼ過去の存在となった三菱航空機が開発していたスペースジェット(旧称MRJ)プロジェクトは、その開発自体が各国、特に米英両国における型式認定を獲得できるかが勝負となっていました。最終的に開発が中止された具体的な要因は特定できませんが、主翼の強度とワイヤリング(電気系統の配線)に関して、技術陣は大変な苦闘をしていたようです。

では、90秒を満たせば型式認定が出るのかというと、そんな単純な話ではなく、この90秒というのはあくまで審査項目の一つに過ぎません。その他にも膨大なチェック項目があって、それをクリアして初めて型式認定がされるわけです。

メーカーとして、例えば新型機の型式認定が取れれば、そして新しい機種が売れれば、それで開発は終わりかというと、決してそうではありません。機種が就役した後も、様々なアフターサービスがあり、また改良への不断の努力が続きます。

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