全員避難まで焼け落ちず。JAL機炎上から乗客の命を守った「日本企業」の功績

 

「全員生還」の背景にあった国交省と業界全体の努力

このJTSBの指摘は非常に重たいもので、特に新千歳での事故で重傷者が出たこと、また、モスクワ空港の事故に関しては海外の事例ながら非常に深刻なものだったことを強くアピールする内容となっています。

この公表と前後して、国交省は各航空会社に指導を行ったことが推測され、各航空会社は特に「非常時のシューター脱出」について、保安ビデオ等で従来とは全く異なる詳しい説明をするようになっています。具体的には、

「(緊急避難時には)手荷物の持ち出し禁止」

「(同じく)撮影禁止」

「(同じく)ハイヒール禁止」

「シューターの下では乗客同士の介助を要請(乗務員は最後に脱出するため)」

「脱出後は各自が事故現場から離れる(同じ理由)」

という内容です。この国交省と業界全体の努力、それも2017年12月という比較的近年の努力が、今回の「全員生還」の背景にはあったと思います。上記の中では、モスクワの事故への厳しい反省がやはり主要な認識であったようで、その目配りと真剣な姿勢は称賛されて良いと思います。

最後に、1月5日に発生した米国での事故についても、「90秒ルール」そして「複合材」の問題が関連していると思われますので、検討してみたいと思います。

この事故ですが、米国オレゴン州ポートランドを離陸した、アラスカ航空のボーイング737マックス9型機が、離陸直後に機体に穴が空き、加圧を失うという重大な事故を起こしたものです。

穴の空いた箇所は、設計上の非常口箇所を塞いだキャップ(ドアの代わりに設置された外壁)が欠落したものとされています。どうして非常口箇所を作ったのか、にもかかわらず塞ぐ仕様となっているのかというと、当にこれが「90秒ルール」に関係しています。この737M9は、機体サイズこそ1つですが、客室内の座席配置(コンフィギュレーション)は複数あります。

その中で、LCC向けのシートピッチの狭い仕様の場合は、最大定員を多くすることができるのですが、そうなると乗客を「90秒で逃がす」ためには非常口の増設が必要になります。一方で、今回のアラスカ機のような「フルサービスキャリア」の場合は、定員がそこまで多くないので非常口が多すぎると無駄な空間ができるために、非常口箇所を塞いでそこに座席を設置しています。

このドアを塞ぐ「キャップ」に脆弱性があったというのが、現時点での専門家の見立てですし、米国の連邦航空局(FAA)や事故調が注目している部分でもあります。ただ、その後に判明したのは、単にドアを塞いだ工事に欠陥があったのだけでなく、機内の気圧が高すぎた、つまり与圧の異常があったことで、そのために脆弱なキャップが外れたという可能性が出てきました。

ここからは推測ですが、膨張に強くキャビンの気圧を高めることができる複合材機の登場により、金属製胴体の機材と、複合材の機材との間で、高度によるキャビン気圧の調整が違ってきているわけです。もしかしたら、こうした状況を背景に、誤ったキャビン内気圧調整がされるような設計ミスもしくは製造ミスがあったのかもしれません。調査結果を待ちたいと思いますが、そのようなミスの可能性は排除できないと思います。

いずれにしても、FAAは即座に同種機材の飛行停止と緊急点検を実施しています。今後の調査の進展に注目したいと思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年1月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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