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あきれるほどの“守銭奴”ぶり。パー券ウラ金疑惑で特捜部が狙う「自民大物議員」の名前

東京地検特捜部による捜査が続く、自民党のパー券裏金疑惑事件。すでに池田佳隆衆院議員が逮捕され、大野泰正参院議員と谷川弥一衆院議員の立件が確実視されていますが、「大物議員」が罪に問われる可能性はあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、特捜の足音が安倍派5人衆の一人である西村康稔前経産相に迫りつつある現状と彼の行状、さらに周囲の「西村評」を紹介。その上で、検察が西村氏を立件するために必要となってくる条件について考察しています。

重度の「総理病」罹患者に迫る特捜の足音。西村前経産相が裏金キックバック継続を主導か

一昨年4月、自民党安倍派は、安倍元首相の指示で、パーティー券収入のキックバックをとりやめる方針を決めた。当時の事務総長、西村康稔前経産相はその旨を通知したが、議員たちの反発で方針は宙に浮いた。その後、安倍元首相が7月に銃撃事件で死亡し、事務総長は高木毅氏に交代、最終的に方針は撤回され、従来通り裏金としての還流が9月にかけて実施された。

ここまでは、朝日新聞のスクープでわかっていた。だが一番肝心な点が不明だった。すなわち、キックバックのとりやめ方針を撤回し、継続を決めた中心人物は誰かということである。その答えとなるような記事が出た。産経新聞が1月6日付で、<独自>と銘打って以下のように報じている。

自民党の派閥のパーティー収入不記載事件で、安倍派(清和政策研究会)が一昨年夏にパーティー収入の一部を所属議員にキックバック(還流)する慣例の方針継続を決めた際、当時の派閥事務総長だった西村康稔前経済産業相が主導した可能性があることが5日、関係者への取材で分かった。西村氏は還流分の政治資金収支報告書への記載方法も提案しており、東京地検特捜部は西村氏の認識について慎重に調べているもようだ。

これによると、西村氏はノルマを超えたパーティー券売り上げのキックバックを継続することと、その分を派閥側、議員側の収支報告書に不記載とする方針を主導したということになる。2021年10月から22年8月まで安倍派の事務総長をつとめた西村氏が、あきらかに、パーティー収入の裏金化を意図した判断を行い、会計責任者に続行を指示したといえるだろう。

であるならば、5億円超といわれる裏金キックバック事件で、最も罪が重いのはまさに西村氏である。むろん、特捜が問題視している直近5年間(2018年~22年)でいえば、西村氏のほか、下村博文氏、松野博一氏、高木毅氏ら事務総長経験者のいずれにも責任があるのは間違いない。

東京地検特捜部は、安倍派所属の池田佳隆衆院議員と政策秘書を政治資金規正法違反容疑で逮捕したが、万が一、“トカゲのしっぽ切り”ですませ、西村氏らを無罪放免にしようとしているのだとしたら、特捜検察の存在価値はない。

ところで、西村氏はなぜ、キックバックの取りやめ方針を撤回する決断をしたのだろうか。安倍元首相に忠実ならば、その死後に、安倍氏の指示した方針を反故にすることなどありえないはずだ。

そこで思い出したいのは、西村氏自身のパーティー依存体質だ。週刊文春23年12月21日号に、昨年10月以降も3回にわたり「架空パーティー」によるカネ集めをしていたと報じられている。

西村氏が代表をつとめる政治団体「総合政策研究会」の主催による「西村やすとし茶話会」なる会合だ。いずれも国会議事堂近くのホテルのこじんまりとした会議室を使い、平日の昼の休憩時間を利用している。

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泉房穂氏と和田秀樹氏が語る「西村評」

そのうち1回が開催されたのは12月8日だ。茶話会の案内状には「政治資金パーティー」とあり、会費は2万円。パー券の購入者は西村氏と懇意の大口のスポンサー企業だという。「カーボン・クレジット取引の未来と可能性」と題し、講師を招いていたが、不思議なことにチケットを買った企業の社員は参加していない。集まったのは西村氏が動員したと思われる経産省の官僚10人足らずだった。

会場費や講師への謝礼、ランチとして出される高級サンドイッチなど飲食費用を差し引いても1回あたり数百万円の儲けがあるという西村事務所関係者の声を紹介し、「いわばサクラを使った架空パーティー」と記事は断じている。

ちなみに、総合政策研究会の2022年分の収支報告書をみると、「西村やすとし君を囲む会」「西村会セミナー」「特別セミナー」「飛躍の集い」「出版記念講演会」といった名称の政治資金パーティーを計18回にわたって開催し、1憶2,138万円を稼ぎ出している。これでもまだ足りずに、派閥のパーティー券収入を裏金化したりしているのだから、あきれるほどの守銭奴ぶりである。

西村氏は兵庫県明石市出身。実家は時計店、父親はサラリーマンというから、世襲議員ではない。灘高から現役で東大に合格して、法学部を卒業、1985年に旧通産省入省という絵に描いたような秀才だ。

だから、若いころから「総理大臣になりたい」と夢をふくらませるのは決しておかしなことではない。世のため人のため、と大志を抱く青年は頼もしい。ただし、その目的が「利他」ではなく、地位に就くことそのものであるなら、勝手にするがいい。

ここで、いま最も期待されている政治家、前明石市長、泉房穂氏に登場いただくのは本意ではないが、ジャーナリスト、鮫島浩氏とのネット対談で漏らした証言があまりに西村氏の“人となり”を示していると思われるので以下に再現した。泉氏は同じ明石市出身で、東大生のころからの知り合いである。ただし、親しい仲ではない。

「西村氏は当時、通産省の官僚でしたが、東京都のクルーズ船を借り切ったというので行ったら、愕然としたのは、通産官僚でありながら殿様気分で女の子侍らせて『お前ら俺が総理になったら官邸へ呼んだるからな』と言うたのが忘れもしませんわ」

泉氏は「政治にお金がかかるというのはウソだ」と主張し、実際に自らの応援演説の力によって、昨年の立川市長選、所沢市長選、三田市長選、岩手県知事選を、「非自民」候補の当選に導いた。

12年間にわたる明石市政で、子育て関連予算を倍増させ、18歳までの医療費や第2子以降の保育料、中学の給食費など「5つの無料化」を実施、10年連続で人口増加を実現し、地域経済を活性化したのは周知の通りだ。

「政治とカネ」の面で、泉氏の対極にあるのが西村氏だといえる。週刊文春の記事に、西村氏の支援者の次のようなコメントが載っている。

「西村氏は『僕は総理になるために生まれてきた』と公言しており、総理になるにはカネが必要と考えている。初当選した頃に会いに行くと、開口一番『月10万円以上献金してくれる企業を10社探してほしい』と言われ、閉口しました」

野望というのは、隠すのが普通だが、西村氏は若いころから、それを剥き出しにしていたようだ。

灘校・東大の同窓である精神科医の和田秀樹氏は「頭はすごくいいけれど、人の気持ちへの共感能力が極めて低い」と西村評を述べているが、「僕は総理になるためにカネが必要」という類の話を聞いて他人がどう思うかについては驚くほど鈍感なようだ。“上から目線”で物を言う西村氏のパワハラ体質は有名で、秘書たちが次々と辞めていく異常な実態も報じられている。

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西村前経産相の「生殺与奪権」を握る人物

そんな人物であるから、経産相だった昨秋、西村氏らの一行がサンフランシスコに外遊したさい、大臣秘書官の女性をホテルの隣室のコネクティングルームに泊まらせたという週刊文春報道も、辞めた元秘書が提供したネタなのではと、妙に納得させられるのだ。

政治資金規正法は報告書への不記載や虚偽記載の罪を会計責任者に負わせる“たてつけ”になっており、検察が議員を立件するには、指示や相談をしたという共謀を立証しなければならない。先述したように、西村氏は事務総長として、パーティー券売上のキックバックを取りやめる方針を撤回したさい、会計責任者に報告書への記載方法などを指示したと考えられるのだが、問題は、それをどう立証するかだ。

かつて、自民党「平成研究会」(旧橋本派)が日本歯科医師連盟(日歯連)から受け取った1億円を政治資金収支報告書に記載しなかった事件があった。

2001年7月、当時の臼田貞夫・日歯連会長と橋本龍太郎、青木幹雄、野中広務といった平成研の重鎮が同席した会合で、橋本元首相が1億円の小切手を受け取った。このカネを裏金として処理したが、それが発覚すると、臼田会長と平成研の会計責任者が逮捕され、政治家のなかではなぜか宴席の場にいなかった村岡兼造元官房長官だけが在宅起訴された。

会計責任者の「1億円を裏金として扱うことを会長代理の村岡が決めた」という証言のみが根拠になったが、村岡氏がスケープゴートにされた可能性が高い。

今回のパーティー券裏金事件についても、メールや文書などの物証だけではなく、会計責任者の供述も重要なポイントとなる。つまり西村氏を生かすも殺すも会計責任者しだいなのだ。

総理大臣への飽くなき夢がはかなく砕け散るのかどうか。西村氏は薄氷を踏む思いで検察の動向をうかがっているにちがいない。

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image by: 西村 康稔 - Home | Facebook

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