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「岸田のまま6月解散」に現実味。自民派閥潰しの結果がこれなのか…嘆く有権者が誤解した「日本の仕組み」

自民党パーティー券問題で、あらためてクローズアップされた「党内派閥」という存在。今回は自民3派閥が解消される一方、渦中の安倍派幹部らは不起訴という結果になり、有権者からは失望の声も聞こえてきます。これに関して「そもそも派閥は怪しい仲良しグループではないし、解体すれば良いという話でもない」とするのはメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』著者で、米国在住作家の冷泉彰彦さん。間接民主制の日本において有権者が熟考すべき本質は「派閥なき後、総理総裁をどのように選出するのか」にあると指摘します。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年1月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

派閥の本質は「仲良しグループ」でも「悪の存在」でもない

日本では、自民党の各派閥の政治資金報告書に金額の不一致があるということを、共産党系の学者(専門は政治資金の研究)がコツコツと調べ上げて告発したところ、なぜか検察庁が全面的に動きました。

その結果として、清和会安倍派、志帥会二階派が厳しい取り調べを受けて会計責任者と一部の政治家が起訴、宏池会岸田派も会計責任者が起訴されました。

これを受けて、この3派はいずれも「派閥解散」を宣言しています。

実に込み入った話である一方で、ともすれば本質から外れた議論ばかりがされているのですが、この派閥解消という問題を今回は議論してみたいと思います。

まず、自民党の派閥の問題ですが、これは「自民党内の仲良しグループ」があって、それが勝手にカネを集めておいて、それを違法に隠しているというような問題ではありません。

また、そのような「怪しい仲良しグループ」は悪い存在だから、解体するなり罰するなりすれば良いという話でもありません。

問題は、総理総裁をどのように選出するのかというプロセスであり、これに個々の国会議員にとってはどのように自分の議席を守るのか、つまり次回の選挙で当選するのかという問題が関わってきます。さらに、これに各地方における利権の交通整理という機能が重なります。

つまり、派閥というのは、総理候補を担いだ応援団であり、また総裁選の票の集合体であり、同時に選挙へ向けた互助組織、そして利権分配のマシンという性格を持ったものです。

そこまでは多くの有権者は理解しています。例えばですが、その派閥の争いが極端なものとなった昭和の時代には、自民党の派閥には現在以上に強い社会的批判が浴びせられました。

まず70年代のロッキード事件があり、これに80年代にはリクルート事件が重なることで、世論のアンチ派閥という感情は最高潮に達しました。

この感情論の落とし所として、小選挙区比例代表並立制という妥協的な制度が実施され、これによって細川政権の誕生という形で、政権政党が交代することにより、有権者が政権を選択できるということになったのでした。

なぜ民主党政権と2大政党の試みは失敗したのか

ところが、この2大政党の交代による有権者の政権選択という制度は、その後崩壊していきました。

2009年に成立した鳩山政権にはじまる民主党政権は、「左派ポピュリズムによる無関係な政策の羅列」「左派なのに金融はタカ派で理想主義から来る財政規律へのこだわり」「ハコモノ批判を続けながら震災復興ではモノへのバラマキに走る」など具体的な問題を多く抱えており、その結果として崩壊していきました。

問題は、民主党政権が崩壊したことではなく、民主党が下野後に問題点を修正して政権復帰を狙うことを諦めて専業野党に転じたことでした。

エネルギー政策のバランスを取るのは面倒なので反原発に流れ、沖縄問題では普天間返還に努力するのは面倒なので辺野古反対で済ませるという、実に安易で、しかしながらそれなりに議席を維持することはできる戦術へと退廃していったのでした。

これによって、少なくとも中道左派の政権選択肢は消滅しました。これに代わる存在として、今度は都市型の納税者の反乱による「小さな政府論」を掲げた中道右派の動きが活発化しました。

しかし、これも「希望の党」改め「都民ファ」がコロナ禍におけるバラマキで東京都の財務状況を一気に悪化させ、「維新」が万博実施に失敗しつつある中では、急速に影響力を弱めています。

ですから、とにかく代替する存在がないわけです。自民一強という言い方は当にその通りであって、いくら自民党の支持率が下がっても、それを受け止める政治勢力はありません。

派閥潰しで「岸田のままで6月解散」に現実味

ここでやや観点を絞って、直近の政局ということで考えてみますと、現在の情勢の中では次のようなことが言えると思います。

「とりあえず、今、すぐに総選挙をやれば、自民批判票は出るが、それは限定的。しかも、野党と言っても各グループに分散するので集まって対抗勢力にはならない」

「ある時点から宏池会岸田派は、清和会安倍派の解体を目論んだが、この目的は完全に達成された」

「そんな中で、岸田派・二階派も解散しており、とりあえず政治勢力としては、派閥解消を宣言した3グループの方が、解消できない平成研茂木派や為公会麻生派などより、微妙にイメージが良いことに」

「派閥解消は世論にウケたようで、震災に対して用意ができるまで被災地訪問を待ったことと併せて、岸田の支持率は微増」

という不思議な状況になっています。良く分からないのですが、現在のこの「微増」というのは2%程度ですが、仮にこのまま岸田が安全運転で進んで、派閥解消がポーズにしても何らかの格好を伴って見えるようになると、5%程度アップする可能性もあります。

その延長上には、「岸田のままで6月解散」という昨年まで誰も考えなかったような作戦が見えてくるのかもしれません。

その場合は、岸田の勝利ラインは限りなく下がります。公明と組んで与党で過半数維持ということで御の字みたいな話になり、そうした「期待しない感じ」が先行する中で、「3大派閥は、裏金問題で申し訳ない」という「お詫び選挙」に徹することでダメージを最小化するかもしれません。

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既定シナリオではなく「掴んだ藁」

そうなると、例えばですが、茂木も石破グループも対抗できずに、9月の総裁選は無風で岸田ということもないわけではないのだと考えられます。

仮に、その「お詫び選挙」において、安倍派の7人衆は苦戦するかもしれませんが、スキャンダルで名前の出ていない人は選挙に通るかもしれず、そうなれば岸田は恩人ということになるかもしれません。

そこで岸田が「挙党態勢」なる言葉を持ち出して、何となく人気者を配した内閣を作ればそれなりの支持率にカムバックすることはあり得ます。

また、3月の決算が終わり、4月の賃上げも「ある程度に抑制」できれば、その後は円高政策に転換して、物価を抑制するなどという冒険も可能になってきます。

しかしながら、話がこのように進むかどうか、具体的な可能性は不明です。

岸田氏にしても、昨年暮れから現在に至るドタバタ劇というのは、特に仕掛けた展開というよりも、状況に応じて受け身的に漂ってきた中で「掴んだ藁」というような話だと思います。

それでも残る最大の問題

問題は、3つ残ります。

1つは、こうしたドラマは一過性のものだということです。特殊な状況(裏金疑惑、震災)という偶然を受けて、とにかく誰もが予見していなかった奇手(派閥解消と、もしかしたら解散)を使って、政治的に延命を図っているというのは、とにかく一過性の問題であって、それで政治が回っていく保証はないと言えます。

9月の総裁選は乗り切っても、25年7月の参院選まで持つのかは全く不明だからです。

もう1つは、結局はこの間のドタバタを通じて、政策論議は何もされなかったということです。

震災を受けて再びエネルギー多様化論議は押し戻されそうになっています。自衛隊は感謝されているにしても、それで防衛費増額に世論の理解が深まったわけではありません。円高シフトもまだまだタイミングの難しさがあります。

何よりも、震災で明らかになった地方の経済疲弊と過度の過疎高齢化に対して、この国をどのように持っていくのかという議論は極めて限定的です。

例えばですが、このような状況で総選挙をやれば、被災地ではフル復興のパッケージが公約されて、民意のオーソライズを経てきてしまいます。また政治資金規正法に関しては、やや強化というだけの案で押し切られそうでもあります。

1番の問題は、仮に派閥解消をやって、岸田氏が「挙党態勢」なるものの構築に成功したとして、自民党内での「総理総裁の選出」をどうするのかという問題は全く解決しないということです。

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一体どう「総理総裁を選出」するのか

仮に、無派閥グループ(旧、安倍、岸田、二階の残党)が1つのグループになってきた場合にはどうか、などという集合離散が問題なのではありません。

そうではなくて、例えばですが、今回の裏金問題の本丸というのは、「裏金を私的な飲食に流用」したとか「賄賂性のあるカネが動き利権が動いた」というような話ではないのかもしれません。

その本丸というのは、例えば衆院選において、あるいは参院選において、更には総裁選挙において、地方の票をどうやって引っ張ってくるか、その場合に地方政治家をどう組織化するのかという問題に関わってくるのだと思います。

この点においては、河井事件というのが一つの好例です。

清和会安倍派は、広島における宏池会岸田派の勢力を削ぎたい、そこで河井夫(安倍派)と妻(二階派)の集票マシーンにカネを投下して、岸田派の溝手(故人)が落ちても良いぐらいの姿勢で参院広島選挙区(定員2)に2名を擁立したのでした。

その際に動いたカネというのは、裁判でかなり明らかとなっていますが、広島県の地方政治家に薄く広くバラまかれていたわけです。

この河井事件の場合は、とにかく総額1億5千万円というカネが党本部から出て、そのカネが、広島選挙区における有権者である広島の地方政治家(県議、市議など)に行ったので、「買収」ということになり、河井夫妻は政治的に破滅しました。

ですが、この事件が示しているのは、結局のところ中央政界に行きたい、従って国会議員になりたいという場合に、選挙区での集票には地元の集票マシーンがフル稼働する必要があり、そこでは結局カネが物を言うということです。

ということは、今回の裏金事件の本丸というのは、地方への、つまり選挙区へのバラマキということを考えるのが常識的ということになります。

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「党議拘束」が日本の民主主義を無力化している

仮に実弾と言われる現金が動くのではなくても、地縁血縁社縁などの人的ネットワークが稼働する、更にドブ板選挙といって冠婚葬祭などのチャンスに候補を売り込むといった、前近代的な行動は今でも残っています。

この点に関しては、アメリカと比較しますと、アメリカの場合は地方選から大統領選に至るまで、候補には支持者という形で有権者が集まってきます。そして、政治資金規制の範囲内で、有権者が献金し、また利権とは切り離された大口の献金者なども登場することで、違法性のない金が集まり選挙が回るシステムになっています。

こうした制度や慣行と比較しますと、日本の民主主義は実に惨めな印象を与えます。まるで有権者の民度が低いかのような印象も与えます。

ですが、それは違うと思います。日本の有権者が、自分から進んで選挙に参加し個人献金をしたり、集会への参加をしたりしないのは具体的な、そして制度的な理由があるからです。

「選挙区が政策上の民意を示しても、自民党にも野党にも党議拘束があるので、民意がダイレクトに反映することは決してない」

「終身雇用に守られた賃金労働者は、企業内での自分の地位に関する変動が最大の関心事であり、政策が自分の生活に影響する範囲は限定的。年末調整をされるので、納税感も薄い」

「厳しい環境に置かれた都市の下層労働者を代表する政治勢力はないので、彼らの要求が組織化されることはないなど、政治に影響力を与える利害団体を持たない人口が多い」

といった問題があります。この問題を解決しなければ、日本の民主主義を改善してゆくことはできないと思います。

本来であれば、格差是正に具体的な政策提言をしても良い最左派の政党が党首公選を拒否して、今回も独裁支持者が新しい党首になるなど、与野党を通じて民意を汲み取る仕組みが弱いということもあります。

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有権者が参加するオープンな党首選挙を

まず制度ということでは、首班指名以外の党議拘束の解除と、党首公選制度の整備、この2点が喫緊の課題であると思います。

若者の投票率が低いのは、若者の意見や利害を代表する政治家がいないからではありません。そうではなくて、そもそも若い人の代表は当選回数が少ない中では与野党を問わず、政策決定に関与する党内の権力が持てないからです。

党議拘束の解除は非常に大きな問題だと思います。

そう考えると、自民党の岸田総理が派閥解消という「奥の手」に出て支持率の微増を勝ち取りつつ、6月解散の可能性を虎視眈々と狙っていることと、共産党の党首交代が密室で行われたことは、偶然の一致ではないと思います。

公明正大な政策論議と代表選出のプロセスを、この両党は全く同じように持ち合わせていないわけで、勿論、他の政党も同じようにダメダメであるわけです。

この2点、何度でも言いますが、党議拘束の解除と透明で有権者が参加する党首選挙、つまり首班候補をオープンに選ぶシステムということが、日本の民主主義には必要だと思うのです。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年1月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今回の内容に続くアメリカ政治や大統領選挙の話題もすぐ読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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