夫と2人の息子を持つ50代の母親が手術で入院することになったときに、家族から出てきた言葉が自分たちの心配ばかり。大病ではなくても、家族のために頑張ってきた母親は「心の糸がプツンと切れ」気力がなくなったと言います。メルマガ『公認心理師永藤かおるの「勇気の処方箋」―それってアドラー的にどうなのよ―』に寄せられた相談に、公認心理師の永藤さんは「全部ボイコットでいい」と助言。ただしその際、家族が壊れてしまわないため、一つの共同体として立て直すために、必ずすべき大事なことがあるとして、具体的な方法をアドバイスをしています。
ちょっと御相談がありまして:糸が切れてしまった
皆様からお寄せいただいたご相談や質問にお答えしたり、一緒に考えたりしていきます。
Question
50代女性。夫と、大学生と中学生の息子がいます。大学生の息子は家を出ていて、中学生の息子は反抗期で口もききません。夫とのコミュニケーションも、ほぼ事務連絡のみです。
先日、検診を受けたところ、婦人科系の腫瘍が見つかり、摘出することになりました。腫瘍自体は大きなものではなく、手術もそれほど大がかりではないようなのですが、そのことを夫と子どもたちに言ったら…。
「ふーん」
「何日くらいいないの?」
「その間、ごはんとかどうするの?」
と、私の心配をするのではなく、自分たちの生活の不便さの心配をする有様で、なんだか張りつめていた心の糸がプツンと切れてしまったのです。
私は今までずっと「家族のために」「夫のために」「子どもたちのために」と、自分の心を尽くしてきました。子どもが大きくなってからは、パートですが仕事に復帰もし、贅沢もせず、何もしない夫に代わって義理の両親にも気を遣い、頑張ってきました。
夫は仕事が忙しく、煩わせてはいけないと思い、反抗期の子どもに暴言を吐かれ傷ついたときも、黙ってずっと耐えてきました。でも、なんだかそんなことのすべてがバカバカしくなってしまったのです。
夫のためにも、子どものためにも、ご飯を作ったり洗濯をしたり掃除をしたりするのがバカバカしいと思いながら、入院するまではやりますが、もう本当に気力がなくなってしまったのです。この気持ちをどうすればいいのでしょうか?
【永藤より愛をこめて】
もういい、もういい!全部ボイコットしちゃいましょう!あなたは自分のためだけにご飯を作り(あるいは作らないで、外食したっていい!)、自分のための家事だけすればいいです!冗談じゃない!
あなたが50代ということは、夫も50代前後でしょうか。そして家にいる息子さんだって中学生。ほっといたって腹が減ったらごはんの一つや二つ、作れます!「なんだよ、急に!」と相手が怒ってきたら、あなたの思いをきちんと伝えるのです。「悲しすぎる」と。「糸が切れてしまった」と。
彼らは自分たちがあなたを傷つけたとも、ひどい仕打ちをしたとも、まったく思っていないでしょう。「暴力は振るっていない」「思春期の暴言くらいどこにでもある」そんなことを言うでしょう。でも、あなたが心に張っていた糸を、ずっとナイフで薄く薄くそぎ続けていたのです。それがどれだけあなたの気力を失わせることか。エネルギーを消耗させることか。
この記事の著者・永藤かおるさんのメルマガ
今あなたがしなくてはいけないことは、自分の身体を大切にすること。そしてもう一つ、必ずすべき大事なことは自分の思いを言語化して伝えることです。それをきちんと伝えずに、ただボイコットやストライキをするのでは、単なる「察してちゃん」「かまってちゃん」。
今まで「私のこの頑張りをわかって!」と思いながら10年も20年もやってきたことがわかってもらえない、という現実は、あなたが今一番よくわかっているでしょう。「ママは好きでやってたんでしょ」くらいに思っていたかもしれません。当然ですが、「伝えなければ伝わらない」「言わなきゃわからない」のです。
話し合いだと売り言葉に買い言葉でヒートアップしてしまって、言いたいことが言えなくなったり、言わなくてもいい余計な言葉を吐いてしまう可能性が大です。
だから、思いのたけを文章化して、文字に残すことをお勧めします。その時、きちんと時間をかけて推敲すること。相手を責める言葉を書き連ねるのではなく、あくまでも「ご自身の思い」を伝える文章にすること。夜中に書いたものを朝叩きつけるのはお勧めしません。夜中っておかしなテンションになっていますから。
家族は一つの共同体で、そこにいる全員が同じ方向を向いて船をこがないと、目的地にはたどり着きません。あなただけが無言で汗だくでオールをこぐ時間は終わったのです。「わかってくれるだろう」は幻想です。「思いを伝える」「話しをする」を面倒くさがっておろそかにしてはいけません。
家族という共同体を立て直し、新規まき直しをする大きなチャンスかもしれません。あなたが健康で幸せであること、我慢しない人生を送れることを、心から祈っています。
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