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Democratic candidate Joe Biden is sharp in the foreground, while Republican candidate Donald Trump is blurred in the background, USA, December 16, 2024

米大統領選“恒例”の「中国叩き」競争で自国の首を締める米国指導者たち

バイデン大統領が遊説先で中国製鉄鋼とアルミへの関税を3倍以上に引き上げると宣言。自身の「対中強硬」路線を強調しました。この発言について、世界のメディアは大統領選イヤーの「中国叩き」と嘲笑気味に伝えたようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、トランプ時代の対中制裁関税を負担したのは米国民だとする指摘や、米国も重要産業の多くの項目に大規模な補助金を出している指摘を紹介。選挙に勝つための政策が自国の首を締めている可能性を伝えています。

大統領選挙の本格化で「対中強硬」を競う政界こそが経済の最大のリスクという皮肉

4月17日、大統領選の激戦地と予測されるペンシルベニア州ピッツバーグの労働組合で演説したジョー・バイデン大統領は、中国製鉄鋼とアルミの関税を従来の「3倍以上に引き上げる」と気勢を上げた。理由は、中国が「自分たちが必要とする以上の鉄をつくり、ダンピングしている」ことだという。そのバイデンの発言を少し詳しく以下に引用しよう。

「アメリカの鉄鋼労働者は、公正な競争がある限り、競争に打ち勝つことができる。しかし、あまりにも長い間、中国政府は中国の鉄鋼会社に国費を投入し、補助金を注ぎながら、できるだけ多くの鉄鋼を製造するよう押し付けてきた。中国の鉄鋼会社は中国が必要とする以上の鉄鋼を生産し、不当に安い価格で世界市場に流してきた。彼らは競争しているのではなく、不正をしているのだ。そして私たちは、ここアメリカでその被害を目の当たりにしている。(中略)

 

私は中国との公正な競争を望んでいるのであって、対立を望んでいるのではない。そして、私たちは中国や他の誰に対しても、21世紀の経済競争に勝つためのより強い立場にある」

つまりダンピングへの報復だという。だが、世界の多くのメディアはこれを、大統領選挙を見据えた「中国叩き」だととらえたようだ。例えば、韓国KBSテレビ(4月18日)の朝のニュース番組は、冒頭「再選を目指すバイデン大統領が『中国叩き』を強めています」と紹介。香港のテレビTVBも「明らかに大統領選挙やトラバルとなりそうなトランプを意識した発言」(『NEWS AT 7:30』 4月18日)と解説した。

バイデン自身も、「私は中国に対して厳しい発言をしますが、前大統領はまったくそういうことはしませんでした」と語っているのだから意図は明らかだ。

ドナルド・トランプも、自分が当選したら「中国からのすべての輸入品に60%以上の関税を課すことを検討する」と米FOXニュースの番組で発言している。今回のバイデンの演説はトランプの関税効果を狙い打ちし、相殺する意味を込めたものだったのだ。

ただ一方、アメリカが「過剰生産問題」を問題視し、関税という「中国叩きの新たな棍棒」(CCTV『今日亜州』4月18日)を振り回し始めたことに対しては、米中関係や中国に与えるダメージ以上に、長期的に見ればアメリカ自身をかえって弱体化させてしまうのではないかとの懸念も指摘される。

そもそもトランプ政権下で発動された対中制裁関税を実際に負担したのはアメリカ消費者だという皮肉(ロイター通信 2019年8月4日「アングル:トランプ氏の対中関税、負担は米企業と消費者に」など)は、いまやよく知られた話だ。

さらに問題は、関税で保護された産業が競争力を高められるかといえば、そうではない点だ。CCTVの番組『今日亜州』(4月18日)でコメントした中国国際経済交流センター米欧研究部の張茉楠副部長は、アメリカが自動車、電子設備、新エネルギーなど50を超える項目に大規模な補助金を出していることを指摘した上で「アメリカの産業の競争力が高まったということはない」と断じる。

だが、政治はそうした論理で動いているのではないようだ。バイデンのピッツバーグの発言に先立ち中国を訪問したジャネット・イエレン米財務長官は、「中国の過剰生産能力は労働者を弱らせ、サプライチェーンの一極集中を招く」と警告。訪問中、何度も中国の電気自動車(EV)の問題に言及した。

EVやリチウム電池、ソーラーパネルや風力発電タービンをターゲットにした「政府の補助金」や「過剰生産」への疑惑という点では、欧州もアメリカと同様に中国に厳しい目を向けていて、中国はそうした動きに「保護主義」だと反発を強めている。

それにしても中国はいつのまに風力発電タービンのシェアで世界の60%を占めるまでに成長していたのだろうか。「いつのまにか」というのは中国を語る上で常に一つのキーワードだが、それは──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年4月21日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Below the Sky / shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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