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共済年金と厚生年金期間のある人が死亡した後、遺族年金はどうなるのか?

以前、公務員は共済年金という独特な年金形態をとっていました。しかし、平成27年に共済年金が厚生年金に統合されたことで、将来は厚生年金として支払われることになっています。今回の人気メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、このことにより少々ややこしくなっている、共済年金と厚生年金の期間がある人が亡くなった場合の遺族年金について、事例を用いて説明しています。

民間の厚年期間と公務員の共済期間がある人が亡くなった場合の遺族厚生年金

1.共済期間が厚生年金期間に統合された後。

平成27年10月に共済年金が厚生年金に統合され、過去の共済期間は原則として厚生年金としての期間となり、将来は厚生年金として支払う事になりました。

これを被用者年金一元化と言いますが、一元化されるまでは共済からの年金は退職共済年金、厚生年金からの年金は老齢厚生年金として名前は分かれていましたし、制度の仕組みも何かと異なるものでした。

どちらかというと共済年金のほうが恵まれている事が多く、昭和50年代ごろからその際に対して官民格差だ!なんとかしろ!という声が強くなり始めました。
昭和50年代は景気が悪くなり始めた時だったので、一般のサラリーマンが加入する厚生年金よりも随分と有利な事が多かった共済年金との差が目立ち始めるようになりました。

よって、昭和59年2月に被用者年金一元化が閣議決定されまして、それからようやく30年ほど経って厚生年金に統一される事になりました。

結構時間かかったんですね。

共済との違いは細かなのはいろいろありましたが、例えば遺族年金や障害年金では過去の保険料の未納があまり多いと請求すらできないという事がありますが、共済の場合は過去の保険料納付状況は不問でした。

また厚生年金は60歳から受給できるものでしたが、共済は55歳からというふうにいくつか合理的とはいえない差異がありました。

遺族年金に関しても、遺族厚生年金であれば本人死亡時に配偶者、子、父母、孫、祖父母までの順で最優先順位者が請求する権利を持つものでありました。

例えば第1順位者の配偶者と子が請求する権利があるとすれば、配偶者と子が受給権者となり、その下の順位者である父母、孫、祖父母は受給する権利は全くないというのが常識であります。

しかし共済からの遺族年金はもし、上の順位者の配偶者や子が例えば婚姻とか死亡してしまうと遺族年金が消滅します。

消滅したら普通はそれでもう終わりなんですが、下の順位者である父母、孫、祖父母がいるならその人たちが次は年金を受けるという「転給」という制度が共済にはありました。(この転給という制度は労災保険の遺族補償年金には存在しています)

このように共済と厚生年金には差があったので、平成27年10月の改正以降はその差をなくして、厚生年金のやり方に統一する事になりました。

あと、共済には独自の上乗せ給付として職域加算というのがあったのですがそれも官民格差だ!と言われてて、平成27年10月以降は廃止して、別の退職年金給付に移行しました。よって職域加算に関しては平成27年9月までの期間であれば計算して支給はしています。

まあ、職域加算は報酬比例の年金の約20%くらいの上乗せ給付でしたが、これに関しては厚生年金にも厚生年金基金やら企業年金が独自の上乗せ給付として機能していたりしたので、必ずしも共済が有利だったというわけではありませんけどね…

一元化以降は基本的に厚生年金の考え方で年金を支給すると考えてよくなりましたので、年金に関わる者としては面倒な違いが無くなってくれて良かったなと思ったりしました^^;

どうしても制度がバラバラだと複雑になって、受給者様にとってもますます理解しにくいものになってしまいますからね。

さて、そうなると過去の共済期間は厚生年金期間とみなして計算して、将来は老齢厚生年金として支給するのですが、今回は遺族年金に関して考えてみましょう。

遺族厚生年金を計算する時はもちろん過去の加入してきた厚生年金期間を使って計算しますが、一元化以降は共済期間も厚生年金とみなして計算として含みます。

一元化前は共済期間は省いて遺族厚生年金を計算していました。

例えば共済期間が5年あって、厚生年金期間が15年あって厚生年金加入中(日本年金機構)に死亡したら厚年15年の期間のみを使って遺族厚生年金を計算していました(25年に足りなければ最低保障期間25年で計算する。25年は300ヶ月)。

一元化以降は過去の共済期間5年も計算に含めて日本年金機構が全体の20年で計算をして遺族厚生年金を支給するようになりました(25年に足りなければ25年に直して計算する)。

わかりやすくなってめでたしめでたし…ではありますが、厚生年金計算は全体の給与記録を平均して算出するので、過去の低い給料まで含める事によって年金額が、従来のように過去の共済などの異なる記録は含めなかった場合に比べて遺族厚生年金が下がる場合も出てくる事もあります。

あと、上記の期間の場合で年金受給者だった人が亡くなった場合や、全体で25年以上の期間がある人が国民年金のみの加入中に亡くなった場合は共済期間5年分は共済組合が遺族厚生年金として支払って、15年分の厚生年金期間は日本年金機構が遺族厚生年金として支払うという事をしています。この場合は25年の最低保障はありません(実期間で支給)。

このように死亡日がいつなのかという事で支払い方に違いがありますが、簡単に事例として見てみましょう。

2.厚年加入中に死亡。

◯昭和42年8月4日生まれのA男さん(令和6年は57歳)

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20歳になる昭和62年8月から平成2年3月までの32ヶ月間は大学生だったので国民年金は強制加入ではなく任意加入でした。
任意加入しなかったのでこの期間はカラ期間となり、老齢の年金を貰うための年金受給資格期間最低10年の中に組み込むのみ(年金額には反映しない)。

平成2年4月からは地方公務員(一元化以降は第3号厚生年金被保険者という)として平成10年3月までの96ヶ月間加入しました。
この間の平均給与は28万円とします。

懲戒免職されて平成10年4月から平成22年9月までの150ヶ月間は国民年金未納。

平成22年10月から民間企業に就職して厚生年金(一元化以降は第1号厚生年金被保険者という)に加入して令和6年4月までの163ヶ月間働いていました。
この間の平均給与(賞与含む)は55万円とします。

令和6年4月30日に急病により死去(厚生年金資格は翌日の5月1日に喪失するので、遺族年金計算は前月の4月まで)。

死亡日時点の生計維持されていた遺族は配偶者である妻48歳と子20歳、17歳、13歳、6歳、そしてA男さんの母85歳でした。

遺族年金はいくら支払われるのでしょうか。


まず年金記録をまとめます。

・カラ期間→32ヶ月
・共済の厚年期間→96ヶ月
・民間の厚年期間→163ヶ月

全体の期間は291ヶ月なので全体としては25年ないのであれば、死亡日までの年金保険料納付状況で請求する権利があるかどうかを判断します(保険料納付要件という)。

死亡日の前々月までに被保険者期間があって、その期間の3分の1を超える未納がなければ大丈夫です。

全体は昭和62年8月から死亡日の前々月である令和6年2月までの439ヶ月の中で判断します。

なお、カラ期間は被保険者期間ではないので439ヶ月から32ヶ月間を省きますと、407ヶ月になります。

この中に未納期間が150ヶ月あるので、未納率は150ヶ月÷407ヶ月=36.85%>33.33%(3分の1)を超えているので満たしていません。

では遺族は請求不可なのかというと、死亡日の前々月までの1年間に未納がなければそれでもいいので(直1要件という)、そうすると満たします。

よって保険料納付要件はクリア。

死亡時点での遺族は配偶者と子になり、両者とも生計を維持されていたとします(死亡時に同居していて、配偶者の収入は850万円未満とします)。
85歳の母は第2順位者なので、配偶者と子が受給権者となる時点で母の権利は消滅。

ただし、「子」は18歳年度末未満の子もしくは、障害等級2級以上の子の場合は20歳までなので、障害の無い20歳の子は対象外。
よって「子」は3人となります。

なお、配偶者と子は同じ第1順位者として扱われますが、配偶者が国民年金からの遺族基礎年金を受給する場合は配偶者が優先して受給。

以下の年金は全て配偶者である妻が受給します。

・死亡日が民間の厚年期間中なので共済期間を含めて日本年金機構が全て支払う遺族厚生年金→(共済期間28万円×7.125÷1000×96ヶ月+厚年期間55万円×5.481÷1000×163ヶ月)÷(96ヶ月+163ヶ月)×300ヶ月(最低保障月数)÷4×3=(191,520円+491,372円)÷259ヶ月×300ヶ月÷4×3=593,245.9458…円≒593,246円(1円未満四捨五入)

・遺族基礎年金→816,000円(令和6年度定額)+子の加算234,800円×2人+78,300円(3人目以降。令和6年度価額)=1,363,900円

・遺族年金生活者支援給付金→月5,310円(年額63,720円)

給付金は前年所得が4,721,000円未満で、遺族基礎年金を受給できる場合に限る。

そうすると遺族年金総額は遺族厚生年金593,246円+遺族基礎年金1,363,900円+遺族年金生活者支援給付金63,720円=2,020,866円(月額168,405円)

3.子供が18歳年度末を迎えていくと。

妻48歳、年金法の子は17歳、13歳、6歳なので、1番下の子が18歳になるのは12年後とすれば妻は60歳ですね。(一番上の子は20歳なので年金法でいう子にならないので除外)

まず2番目の子が18歳年度末を迎えると、子供は残り2人になるので遺族基礎年金は1,363,900円ー子の加算78,300円=1,285,600円になります。

さらに3番目の子が18歳年度末を迎えると、1,285,600円ー子の加算234,800円=1,050,800円になります。

そして、一番下の子が18歳年度末を迎えると遺族基礎年金と遺族年金生活者支援給付金自体が消滅するので、この時に遺族厚生年金593,246円のみとなります。

ただし、A男さん死亡時に妻は40歳以上65歳未満だったので、中高齢寡婦加算612,000円(令和6年度定額)が加算されて、子が全ていなくなった後は遺族厚生年金総額は593,246円+中高齢寡婦加算612,000円=1,205,246円(月額100,437円)

この中高齢寡婦加算は厚年加入中の死亡の場合等の時や、全体の年金記録が25年以上あって厚年期間が20年以上ある人が死亡した場合に妻が40歳以上の時に加算されます。

なお、夫死亡時に妻が40歳未満だったとしても、40歳時点で遺族基礎年金を受給していたのであれば、遺族基礎年金消滅以降に中高齢寡婦加算が付きます。

この加算は妻が65歳になるまでなので、65歳以降は妻自身の老齢の年金と遺族厚生年金となります。

もし妻が65歳時点で老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金30万円あった場合は、遺族厚生年金593,246円から老齢厚生年金30万円が引かれて293,246円が遺族厚生年金として支給されます。

そうすると妻の65歳以降の年金総額は遺族厚生年金293,246円+老齢厚生年金30万円+老齢基礎年金70万円=1,293,246円(月額107,770円)

ーーーー
※注意
職域加算は共済加入期間中の死亡ではないので付きません。
もし死亡したのが共済加入中であったなら、平成27年9月までの期間で計算していました(300ヶ月に足りなければ300ヶ月で最低保障)。
ーーーー

このように、死亡したのが民間の厚生年金加入中の場合は過去の共済期間も含めて日本年金機構が遺族年金を全て支払います。共済加入中に死亡したら過去の民間の厚年期間も含めて、全て共済組合が遺族厚生年金を支払います。

ただし、遺族基礎年金は国民年金からの給付なのでこれは日本年金機構が支払います。(遺族年金請求は機構でも共済でも構わないですが、今回は年金事務所に行きますよね^^;)

次回は共済と厚年期間がある人で、全体で25年以上年金加入期間がある人が死亡した場合の年金事例。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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