ウクライナやガザは言うに及ばず、世界の各地で絶えない軍事衝突やくすぶり続ける紛争の火種。その背後に控えているのが米中2国であることも、また言わずもがなの事実です。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、米中覇権戦争の只中にあってアメリカ国民は中国に対してどのような感情を抱いているかに注目。そこから見えてくる米国民の「正しい理解力」を評価しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:アメリカ国民は中国のことをどう見ているのか?
民主主義は生き残れるのか。中国という「黒化勢力」のラスボス
全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。
現在世界では、「ウクライナ―ロシア戦争」「イスラエル―ハマス、イラン戦争」が起こっています。
しかし、ハマスの黒幕はイランであり、イランと事実上の同盟関係にあるのがロシアです(5月20日、イランのライシ大統領が乗っていたヘリが墜落し亡くなりました。6月28日に大統領選挙が実施されます。しかし、イランの「反米、反イスラエル」「親ロシア」路線に変化はないでしょう)。
そしてウクライナ戦争を利用して、ロシアを「事実上の属国」とすることに成功したのが中国です。さらに、国連安保理で拒否権を持つ常任理事国である中国とロシアは、北朝鮮を守っています。
こうして、中国、ロシア、北朝鮮、イランという枢軸が形成されているのです。これは、私が言う、いわゆる「黒化勢力」です(2022年に『黒化する世界─民主主義は生き残れるのか?』という本を出しています)。実際、「民主主義は生き残れるのか?」と心配な状況になってきました。
さて、この「黒化勢力」の枢軸の中でも、「中核的存在」「ラスボス」は、いうまでもなく、中国です。結局、2018年10月のペンス反中演説以降、世界で起こっている争いの本質は、米中覇権戦争なのです。
二正面作戦を恐れるアメリカは、資源のほとんどを対中国に集中させようとしました。ところが、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻してしまった。さらに、2023年10月、イスラエル―ハマス(黒幕イラン)戦争がはじまってしまった。それで、アメリカは、中国一国に集中することができなくなった。
それだけでなくアメリカは今、「ロシア―ウクライナ戦争」「イスラエル―イラン戦争」に加え、「台湾―中国戦争」「韓国―北朝鮮戦争」が勃発するのを恐れています。
アメリカは、「4正面作戦で勝つことはできない」という自覚があるので、欧州や日本に、「軍事費をどんどん上げろ!」と要求しているのです。要するに、「アメリカ一国で4正面作戦は無理だから、お前らも強くなって戦ってくれ!」と。
アメリカは、追い詰められています。
81%が中国を「最も好ましくない国」と考える米国民
さて、そんな状況にあるアメリカですが、米国民は、中国のことをどう見ているのでしょうか?『NEWSポストセブン』5月22日付。
米国の国際政治に関するシンクタンク「ピュー研究所」はこのほど、米中関係に関する世論調査を行った結果を発表し、米国民の81%が「中国は米国の最大のライバルであり、米国にとって最も好ましくない国」との見方を示していることが明らかになった。
アメリカ国民の81%は、「中国はアメリカ最大のライバルであり、アメリカにとって最も好ましくない国」と考えているそうです。
これ、どうなんでしょうか?たとえば、日本の対中観と比べると?
「笹川平和財団」の調査によると2023年度、中国に親しみを感じない人は51.3%、どちらかというと親しみを感じない人は19.8%、あわせて71.1%になっています。
一方アメリカの調査は、「アメリカにとって最も好ましくない国」と考える人が81%もいる。「アメリカ国民のほとんどの人が、かなり反中」と言えるでしょう。
ところで、アメリカ国民の対中観は、昔と今で異なるのでしょうか?
同研究所が2009年に行った同様の調査では、米国民の49%が「中国は米国にとって好ましい国」と答え、「最も好ましくない国」としたのは38%だった。この15年間で中国に否定的な数字が2倍以上に増えたことになる。
また、今回の調査で中国を好ましい国と答えたのはわずか16%で、2009年調査の3分の1にも及ばなかった。
(同上)
15年前、中国のことを「最も好ましくない国」と考えているアメリカ国民は、たったの38%だった。それが今では81%。15年で倍以上になっています。
なぜ、こんなことになったのでしょうか?いろいろあるでしょうが、一番の理由は、「中国がアメリカのリアルな脅威になった」ことでしょう。
思い出してみてください。2009年、中国のGDPは、まだ日本以下だったのです。ところが2010年、中国は、日本を抜きました。そして、2012年、「中国の夢」をスローガンに掲げるナショナリスト習近平がトップに立った。
2015年3月には「AIIB事件」が起こりました。この時、アメリカは、同盟国群、親米国群に「中国主導のAIIBには入るなよ!」と命令していました。ところが、イギリスが先陣を切ってアメリカを裏切り、それをフランス、イタリア、ドイツ、オーストラリア、イスラエル、韓国などが追ってAIIBに入ってしまったのです。アメリカの覇権は風前の灯でした。
そんな流れもあって、2018年のペンス反中演説から、米中覇権戦争がはじまったのです。世界は今、2009年からはじまった「米中二極時代」の「米中覇権戦争」の時代なのです。
アメリカ国民の81%が、「中国はアメリカ最大のライバルであり、アメリカにとって最も好ましくない国」と考えている。つまり、ロシア、イラン、北朝鮮は、「最大のライバルでも、最も好ましくない国でもない」と認識されているということでしょう。
アメリカ国民は、「真の脅威が誰なのか正しく理解している」と言えます。
米中覇権戦争が世界情勢の軸にある。そして、「ウクライナ―ロシア戦争」「イスラエル―ハマス、イラン戦争」「台湾―中国対立」「韓国―北朝鮮対立」は、「そこ(米中覇権戦争)から派生している問題」と考えると、世界の大局が見えてきます。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年5月22日号より一部抜粋)
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