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辛坊治郎氏が語る「親ガチャ」より怖い「才能ガチャ」の話。不細工で頭が悪い人生ハードモードに日本はどう向き合うのか

「子どもは親を選べず、どんな家に生まれるかで人生が決まってしまう」という意味の「親ガチャ」という言葉。今ではすっかり社会に定着し、テレビ番組でも「親ガチャ」の是非が議論されるほどですが、この風潮に疑問を呈するのは元読売テレビアナウンサーでジャーナリストの辛坊治郎さんです。辛坊さんいわく「親ガチャ」を否定し、「人生は個人の能力によって決まるべきだ」と考える人々も、「才能ガチャ」の残酷さにまでは気が回っていないというのです。どういうことなのでしょうか?(『辛坊治郎メールマガジン』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:辛坊治郎メールマガジン 第688号 5月24日発行「親ガチャ」

「親ガチャ」ブームは日本衰退の証?

「親ガチャ」という言葉が話題になって数年が経ちます。

語源が、何が出てくるか運次第のカプセルトイ「ガチャポン(バンダイ社の登録商標はガシャポン)」であることはここで書くまでもないですが、子供は生まれて来る親の経済力は選べない訳で、「生まれてきた家の事情が個人の運命を決める」という意味で、日本で広がりつつある不公平感を説明する単語として今でもよく使われます。

この言葉が流行り始めたのは、「日本は世界で最も成功した社会主義国家」「一億総中流」なんていう、高度成長期からバブルの時代に広がった日本人の意識を崩壊させるほどに格差が広がり、「親の経済力が子供の幸せ度を決める」という認識が広がる中で、「親ガチャ」という響きが多くの日本人の「腑に落ちた」からでしょう。

でもねえ、先週ここで書いたように、世界では「上流階級の仕事」「下層階級の仕事」というのが確かに存在していて、職業によって桁違いの待遇格差があるのが当たり前で、「タクシー運転手でも一流企業の部長でもそんなに待遇差がない日本」という国は、極めて特殊な状況にあると言えます。

これは世界を旅しているとよく分かります。

私が旅した国々の中で、例えば北欧のような成熟した福祉国家は職業による待遇差は小さいですが、途上国の格差はすさまじいです。

格差が極めて少なかった日本の格差が近年徐々に顕在化しつつあるのだとしたら、その意味でも日本は先進国から転落しつつあるということなのかもしれません。

「親ガチャ」よりも「個人の才能ガチャ」のほうがヤバい理由

さて、そんな日本で数年前に突如浮上したのが、「親ガチャ」なる言葉です。同じ文脈で、そのひとつ前の時代には、「東大の学生の親の平均年収は、日本の平均よりも大分高い。親の経済力が子供の学力に影響する」なんて大学教授の研究がマスコミでもてはやされたことがあります。

私はこの「学術研究」を横目で見ながら、「東大生の親の知能程度を勘案してデータを出さないと、こんな数字意味がない」と考えていました。東大生の親の平均収入が高いのは、親の知能が高いからで、子供の知能は親の収入じゃなくて、親の知能の影響の方が大きい可能性があります。

「そうじゃない」ということを証明するには、親の知能を一般国民の知能とそろえた サンプルを抽出した上で、収入との相関関係を調べないと学術データとは言えません。しかし、この件に関する限り「学術的に正しい」データは見たことがありません。

つまり先ほどの大学教授の「学術研究」なるものは、学問の名に値しない、政治的主張を目的にしたデータでしかない訳で、これをもてはやしたマスコミは異常だと思います。

実は「親ガチャ」という言葉にも同じ問題が潜んでいるのです。

日本社会が、例えばかつてのイギリスほどの階級社会であるなら、個人の能力よりも親の経済力や社会的地位が子供の人生で物を言いますから、まさに「親ガチャ」を問題視する必要が生じます。

しかし、私は2024年においても日本は、「親ガチャ」よりも「個人の才能ガチャ」の方が、個人の運命に深く関わっていると感じるのです。

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現代社会は「才能ガチャ>親ガチャ」になっている

実際、現代日本で社会・経済的にトップランキングに名を連ねる人の数名は、私が知る限り被差別地域の出身者です。

現代日本に被差別階級は無いことになっていますが、少なくとも私がテレビ局に入社した1980年代頃までは、住所地で人を差別する事典のようなものが大企業の人事部でひそかに所有されていて、被差別地域出身の人々や一部の外国籍の皆さんが結婚や就職で明らかな差別を受けるなんてことが横行していました。

だからこそ、そんな差別から逃れるために、自ら起業したり、才能を生かして芸能やスポーツ分野で成功する人が被差別地域出身者に多かったのかもしれません。

現代日本で、かつてのイギリスなどの階級社会では不可能だったことが、日本社会で実現できるのは喜ばしいことです。ちなみにイギリスの階級社会も徐々に変質しつつあり、インドにルーツを持つ人が首相になったのもその表れでしょう。

このあたりの議論は、つまるところ、「社会が目指すべきは結果の平等か、それとも機会の平等か」という古い論点に行き着きます。

残酷な事に、多くの人類社会では、「親ガチャ」以上に「才能ガチャ」の要素が大きいのです。

能力や容姿に恵まれなかった人は、不幸でもしかたないのか?

「才能」の中には、例えば「容姿」なども含まれます。それらの「才能」に恵まれるかどうかは運次第で、まさに「ガチャ」の世界です。

現代の日本社会は、かつてのイギリス社会などに比べて、「親ガチャ」よりも「才能ガチャ」の要素が、社会的、経済的地位を決めるのに重要な役割を果たしています。

「親ガチャ」論で特に問題視すべきは、その社会が「機会の平等が保証されない」場合です。

この議論は結局「結果の平等か、機会の平等か」という論点に行き着きます。「親ガチャ」の問題点が、「親の社会的・経済的力が子供の運命を決めること」だとするなら、逆に言えば、本人の才能次第で運命が決まる「才能ガチャ」の社会は許容されることになります

機会の平等だけ保証されれば、結果の平等は「本人次第」という訳です。しかしこれでは才能や容姿に恵まれなかった人の人生は暗いものになります

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「親ガチャ」論を囃し立てるマスコミの問題点

かつて共産主義が人類の理想に見えた時代がありました。

それは、実際の共産主義国家のたどった悲惨な結末とは裏腹に、共産主義社会が目指すものが「結果の平等」だと多くの人が認識したからです。

しかし「個々の才能」というファクターを考えずに「結果の平等」を強制する社会はうまくいかないことを人類は学んでしまいました。

ですが、見果てぬ人類の目標として、親の経済力はもちろん、個々の才能に関わらず、人類すべてが豊かに幸せに暮らすという夢を失ってはいけないとも思うのです。

「親ガチャ」の論点が、「親の経済力で人生が左右されるのは間違っている。個人の能力によって人生が決まるべきだ」という考え方なら、それは、結果における社会的格差を是認する議論につながってしまいます。

「親ガチャ」論って、一周回って共産主義思想誕生以前の思想に戻ってしまった印象を持つのです。

マスコミは、自ら囃し立てる「親ガチャ」論が本当に意味するものを理解しているのか?私には、流行語の背景に潜むマスコミの劣化がとても気になります。

(メルマガ『辛坊治郎メールマガジン』2024年5月24日号より一部抜粋。辛坊氏がテレビの裏話を語る「近況」や「週刊物欲情報」のコーナーなど全文はご登録の上、バックナンバーを購入してお楽しみください。初月無料です)

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