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落ち着き払う習近平。トランプ再登板という「巨大な変数」を前に中国が焦りを見せぬ2つの理由

2013年の国家主席就任以来、習近平氏が毎年行っているテレビ演説「新年賀詞」。2025年はトランプ氏が大統領に返り咲くとあって習主席の言葉に注目が集まりましたが、その内容は予想に反して落ち着いたものとなりました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、習近平氏に焦りがみられなかった背景を解説。さらに中国の目が日本から離れる当然の理由を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:2025年の賀詞、トランプ政権始動前の米中関係を習近平政権はどう見ているのか

目立ったのはある種の自信。習近平「新春賀詞」から読み取れるもの

昨年末の中国の習近平国家主席の新春賀詞(2025年版)は、随分落ち着いた内容だった。

不可測性が指摘され、閣僚候補にも対中強硬派をずらりと並べた第二次トランプ政権の発足を前に、中国の賀詞は警戒心と対抗心をむき出しにした内容になるかと予想された。しかし、世界は肩透かしを食ったようだ。

メディアが期待していた対台湾での強硬発言も封印された。習近平はまず、「両岸の同胞は家族同然です」と呼び掛け、続けて「誰も私たちの血のつながりや親しい絆を断ち切ることも、祖国統一という歴史の大勢を阻むこともできません」と述べただけにとどめた。明らかに昨年よりトーンを落とした内容となった。

この賀詞から「祖国統一は阻むことはできない」という一部分だけを抜き出し見出しにする。相変わらずの手法で煽るメディアもあって呆れたが、もはや日本のオールドメディアがどう報じても、中国が関心を示さないほど日本の存在感は落ちていることに気が付かないことが逆に惨めだ。

繰り返しになるが、全体を読めば明らかなように、賀詞は柔らかいメッセージに満ちていた。目立ったのは、中国と世界の連帯であり、ある種の自信だった。

かつて中国に付きまとった「いじめられっ子」的体質が薄まったことを意味していて、興味深い。大国として次の段階に移行しつつあることを思わせた。

そうした変化は、対米関係にも表れていた。

タリフマンを自称するドナルド・トランプつが大統領に返り咲くことで、まず懸念されるのは貿易摩擦とサプライチェーンの混乱だ。だが、その逆風に最前線で対処せざるを得ない中国の姿勢からは、焦慮があまり感じられないのだ。

トランプ新政権への警戒は賀詞のなかでは以下のように表現されている。

経済運営は目下、いくつかの新たな状況に直面し、外部環境の不確実性や新旧の力の転換という圧力にも直面しています。しかし、これらの問題は努力によって克服することができるでしょう。私たちは常に風雨の洗礼のなかで成長し、試練を経て力強く発展してきました。皆さん、自信を持ちましょう。

思い浮かぶのは半導体の供給を断たれたファーウェイの復活だ。

中国が従来、アメリカに対し発してきたメッセージのほとんどは、「米中の体制の違い」を認めないアメリカに対する不満だった。そのことは先々週の本メルマガでも触れた。アントニー・ブリンケン国務長官が王毅外相との会談を振り返り、「どの会議も王毅が、われわれの政策に文句を言うところから始まった」と述べたことを紹介した。

【関連】バイデン政権の「対中政策」は本当に成功したのか?2024年の中国外交を振り返る

その中国が、今回の賀詞では以下のように呼び掛けているのだ。

中国は、各国とともに友好協力の実践者となり、文明間の相互学習の推進者となり、人類運命共同体の構築に参加する者となることを願っています。共に世界の明るい未来を切り開いていきましょう。

要するに自ら進んで「文明間の相互学習の推進者」となるという。つまり歩み寄るというのだ。

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中国の目が日本から離れる当然の理由

もちろんアメリカとの違いを浮き彫りにするために、そうしたポジションを取ろうとしていることは否めない。

だが、その前提となるのは、中国がそうした姿勢を強調することで一定程度の手応えをつかんでいるという事実だ。

そのメインのターゲットはグローバル・サウスだ。

今回の賀詞では、中国は初めて明確にグローバル・サウスというワードを用いて、彼らとの協力に言及している。

具体的には以下の部分だ。

今日の世界では変化と混乱が交錯しています。このようななか、中国は責任ある大国として積極的にグローバルガバナンスの改革を推進し、グローバル・サウスとの団結と協力を深化させていきます。

中国がグローバル・サウスとの協力をより促進してゆくためには具体的なツールが不可欠だが、それは何かと問えば、言うまでもなく「一帯一路」だ。

日本や欧米のメディアでは「債務の罠」という一言で切り捨てられてしまう「一帯一路」だが、参加している国々の各政権の反応はメディアの報道とは逆に積極的だ。

直近では本メルマガでも紹介したペルーのチャンカイ港の開発がある。同港の開港式ではディナ・ボルアルテ大統領自が習近平と並んでオンライン参加をして盛り上げたが、それに加えて、隣国・チリの大統領までが習近平との会談の場でチャンカイ港に触れ、効果に期待を示したのだ。

中国がこれまでいかに欧米先進国との関係から、新興国とグローバル・サウスとの関係に重心を移してきたか。その変化は今回の賀詞からもはっきりと読み取れる。

賀詞のなかで習近平は、2024年の中国外交の大きな成果として、中国・アフリカ協力フォーラム北京サミットの成功を筆頭に、上海協力機構、BRICS、アジア太平洋経済協力(APEC)、そしてG20の五つの国際会議に言及した。

トランプの再登板という巨大な変数を前にしても中国がある程度落ち着いていられるのには、大きく分けて二つの理由がある。

1つは、米中間には基本的な合意があり、大統領が誰になっても揺るがない柱があると中国が信じていること。具体的には昨年11月、ペルーでの米中首脳会談で習近平が語った「四つの不変」である。四つとは、

  1. 中米関係の安定的かつ健全で持続可能な発展に尽力する中国の目標に変わりはない
  2. 相互尊重、平和共存、協力ウィンウィンに基づき中米関係を処理する原則に変わりはない
  3. 自らの主権、安全、発展の利益を断固として守る立場に変わりはない
  4. 中米人民の伝統的友情を継続したい願いに変わりはない

の4点を指す。

中国からの呼びかけだが、背景にはアメリカとの利害共有は可能だと、この時点で中国が確信したことがある。

そしてもう1つは欧米先進国から排除された場合のバッファーとしてのグローバル・サウスの存在だ。

中国にとって欧米との関係は依然重要で、直ちに新興国やグローバル・サウスがその代わりになるというわけではない。しかし、今後の世界経済の趨勢をみれば、彼らとの絆が心強いことは言うまでもない。

グローバル・サウスとの関係が良好である点は中国を落ち着かせる重要な要素となっている。

中国の目が日本から離れているのは当然だ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年1月5日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Kaliva / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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