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中島聡が石破総理に伝えたい大問題。日本の異常な「技術者冷遇」が失われた30年を生み出したと断言できる理由

ここ数十年の日本経済は、技術系エンジニアの価値を軽視しながら衰退を続けてきた。なぜわが国の大企業の社員たちは自らの手を動かさず、下請け・孫請けに開発を丸投げする存在になってしまったのか?このような状況で、日本がTeslaやBYDとまともに戦えるわけがないと指摘するのは、著名エンジニアの中島聡氏だ。(メルマガ『週刊 Life is beautiful』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

日本の政治家と官僚は、若き技術者の悲痛な声に耳を傾けよ

(2025/1/7号「私の目に止まった記事」より)
こちらは2018年のブログ記事ですが、ものすごく重要なことが書いてあるので、一般の人たちだけでなく、政治家・官僚たちにはじっくりと読んでもらいたいと思います。

新卒で入社したホンダを三年で退職しました さよなら大好きだったホンダ

もっとも重要な箇所は以下の文です。

私の所属していた場所ではホンダの社員は全く技術開発をおこなっていませんでした。ではどうやって先進安全や自動運転の機能開発をおこなっていたか?実態はサプライヤーと呼ばれる部品メーカーに技術開発を丸投げしておりました。ホンダのプロパー社員の仕事はサプライヤーの日程管理と部品の不具合が出た時にサプライヤーを叱責するということが主たる業務でした。

これは私が、NTTで働いていた時も、ソニーのエレキ事業部と仕事をしていた時も、トヨタ自動車向けにソフトウェアを開発していた時も感じたことですが、これこそが、日本企業のもの作り、特にソフトウェアの開発力が落ちた一番の原因であり、バブル崩壊後、いまだに続く「失われた30年」を作った一番の原因だと私は見ています。

日本の大企業の社員たちは、自らの手で技術開発を行わず、開発は下請け・孫請けに任せ、自分たちは、製品企画だとか、工程管理だけをするようになってしまったのです。

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その原因を作ったのが、「大企業は正社員を解雇してはいけない」という解雇規制です。

正社員を解雇できない会社においては、ソフトウェア・エンジニアのような「専門職」を正社員として抱えることには大きなリスクがあります。必要な専門職は時代によって変わるため、特定の職に特化した「職人」たちを正社員として抱えてしまうことは、「使い回しが効かない固定費」を増やすことになり、会社経営を難しくするからです。

そのため、NTT、ソニー、トヨタ自動車のような、本来技術で勝負するはずの企業は、理系の大学卒の人たちを大量に採用しながらも、彼らを専門職の職人として育てることはせず、「使い回しが効くゼネラリスト」として育てることに決め、職人の育成・雇用は下請け・孫請けの会社に任せるゼネコン・スタイルで製品の開発をするようになってしまったのです。

理系の大学卒の人たちを大企業に奪われてしまった下請け・孫請けの会社は、優秀な人材の採用が難しいだけでなく、社員教育にかけられるお金や時間も限られているため、人材が育たなくなり、徐々に日本の技術力は低下し始めました。

それに拍車をかけたのが、小泉政権時代の派遣法で、これにより、ソフトウェア・エンジニアのようにニーズに増減のある仕事は、下請け・孫請け会社が、さらに派遣会社から派遣してもらう体制になってしまいました。

結果として、理系の大学を卒業した人材は大企業に就職してゼネラリスト・管理職になり、実際にコードを書くのは、派遣会社で1~3ヶ月の研修期間を経て現場に配属された、大学でコンピュータ・サイエンスの勉強をしていない人たち(多くが文系、「みなし残業」付きの低賃金)、というとても歪んだ社会構造になってしまったのです。

解雇規制がある故に、日本は「技術系エンジニアの価値を軽視する社会」になってしまったのです。

一方、TeslaやGoolgeは、コンピュータ・サイエンスの修士号や博士号を持つ人たちを高給で雇い、彼らが自ら設計からコーディングまで行っているので、良いものができて当然なのです。

「end-to-endのニューラルネットで処理する自動運転ソフトウェア」のようなもの生み出せる人材は、世界に一握りしかいないのです。

ホンダに入社したエンジニアが、「こんな会社では働きたくない」と感じるのは当然のことで、こんな状況のまま、日産と合併したところで、TeslaやBYDと戦えるわけがありません。

ホンダと日産は合わせて数万人の社員を抱えており、平均年齢は40歳を超えています。その大半が、管理職、もしくは、管理職候補と育てられたゼネラリストなのです。

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日本がTeslaやBYDとまともに戦うために必要なこと

TeslaやBYDとまともに戦うには、自ら技術者を抱えた、少数精鋭の筋肉質な会社に生まれ変わる必要がありますが、その時には、簡単には解雇できない数万人のゼネラリストたちが大きな「負債」となって、会社の足を引っ張ることになります。

一説によると、ホンダと日産の合併を指導しているのは経産省だそうです。

自動車の生産に乗り出したいホンハイは以前から日産の吸収合併を企んでいますが、それをされると、自動車生産のノウハウだけを吸い取られて、大量の社員(連結も合わせると十数万人)が路頭に迷うことになるからです。

「雇用を守るための合併」が、ホンダと日産にとって、そして、日本の自動車業界・社会全体にとって良いことだとは私には思えません。

日本の政治家・官僚たちには、ゼネラリストしか育てないホンダに失望して3年で退職したエンジニアからのメッセージをしっかりと受け取って欲しいと思います。

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(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年1月7日号「私の目に止まった記事」を一部抜粋・再構成したものです。「ピクシーダストの上場廃止」「Lineを活用した質問コーナー」など全文(約2万5000字)はメルマガをご購読のうえお楽しみください。初月無料です)

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