小泉政権下で進められた「構造改革」の影響については現在も評価が分かれていますが、特に教育分野では国立大学の独立行政法人化や奨学金制度の見直しが進められ、その後の研究環境や学生生活に長期的な悪影響をもたらしたと指摘する声も多くあります。そんな改革の「諸悪の根源」と言われているのが、竹中平蔵氏です。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、当時の小泉内閣の政策のうち大学教育と奨学金制度に焦点を当て、その深刻な影響について暴露しています。
竹中平蔵の構造改革とは何だったのか?vol.1
●大学教育も壊す
このメルマガでは、竹中平蔵氏が小泉政権時代に行なった悪政について、いろいろ取り上げてきました。
竹中平蔵氏は、小泉政権時代に経済財政担当大臣、総務大臣、金融大臣を歴任するなど、小泉政権の経済政策を一手に引き受けていた人物です。
小泉内閣の行なった数々の悪政のほとんどは、彼の意向に沿ったものです。
その数々の悪政のうち、このメルマガで触れてこなかった分野の悪政について、今回から数回に分けてご紹介していきたいと思います。
今回は大学教育についての悪政です。
小泉内閣は、教育関連、特に国立大学においても大きな改悪を行ないました。
具体的に言えば、国立大学を独立行政法人化したのです。
これまで国立大学というのは、国が運営のすべてを責任もって管理していました。当然、経費も国が出していました。が、独立行政法人化した場合、原則として各大学が自弁しなければなりません。国は運営費交付金という形で補助はしますが、その交付金以上の補填は受けられないのです。
この大学の独立行政法人化の最大の目的は、予算削減でした。
独立行政法人化したことにより、国は国立大学の経費について運営費交付金以上の責任を持たなくてよくなったのです。
また運営費交付金にしても、年々下げられました。
独立行政法人化初年度の2004年には1兆2415億円だったのが、小泉内閣終了直後の2007年には1兆2043億円にまで下げられています。この運営費交付金が下げられるという傾向はその後も続き、2024年には1兆784億円にまで下がっています。
この20年間で、GDPは10%以上も上昇しているにもかかわらず、大学への予算は13%も下げられているのです。
その結果、大学は授業料を引き上げざるを得ませんでした。小泉政権の発足から現在までの約20年間で、国公立大学が約8%、私立大学が約16%も授業料が値上げされています。
この間、国民の平均賃金は下がり続けており、つまりは学生や親たちの負担だけが増えたのです。
この記事の著者・大村大次郎さんを応援しよう
また竹中平蔵氏は、東京大学の民営化まで主張していました。
大学では企業と連携して研究費を助成してもらったり、大学の研究によって大きな収益を得たりすることもあります。
そういう「金になる研究」をもっとやれ、大学はそれで運営費を賄っていけ、ということです。
が、この大学に過度に収益性を求めるというのは、国家として大きな危険性があります。
大学での研究というのは、必ずしも企業と連携できるものばかりではありません。
企業というのは、すぐに収益が出る研究、そういう可能性のある研究にしかなかなかお金を出そうとしません。
そのため大学が企業に頼ると、大学はすぐに収益になる研究ばかりをすることになります。
つまりは、目先の利益になることばかりを考えることになるのです。
大学というのは、本来、企業がなかなかやらないような、基礎的な研究、収益に結び付く可能性は低いけれど人類の進歩に役立つような研究をする場所です。
この分野をおろそかにすると、科学技術の根本の部分が退化してしまいます。
そういう研究に対しては、国がお金を出すのは、近代国家として当然のことです。
国が大学の研究費を絞るようになった影響は、すでに現在、出始めています。
日本の大学の研究機関としての能力も弱体化しており、大学の注目論文数ランキングでは、小泉政権までは日本は世界で4位だったのが、現在は13位前後にまで後退しています。
また企業と大学が連携することによる弊害もあります。
大学は、企業の意向を汲んだ論文ばかりを発表するようになるのです。
たとえば製薬会社にとって都合の悪い、薬の副作用の研究などはなかなかされないようになります。実際に、そういうことは起きているのです。
この記事の著者・大村大次郎さんを応援しよう
●日本の学生を奨学金地獄に堕とす
親の給料が上がらないのに、大学の授業料だけが値上がりしたため、学生たちは厳しい経済生活を強いられるようになりました。
奨学金に救いを求める者も激増します。奨学金は苦学生たちにとっては最後の頼みの綱です。
が、こともあろうに、小泉内閣はこの奨学金にも改悪を加えたのです。
昨今、クローズアップされた社会問題として学生の奨学金ローンがあります。
この学費ローン問題も、小泉内閣が導火線となっているのです。
奨学金ローン問題というのは、「日本の学生の多くが有利子の奨学金を利用しており、これが大きな負担になっている」というものです。
この「有利子の奨学金」というのは、奨学金とは名ばかりで、実際はローンと変わらないのであす。どんな状況であろうと必ず返済をしなければならないし、返済しなければ法的処置を講じられます。実質的には借金と同じです。
この奨学金ローン問題の発端は、小泉内閣が行なった奨学金の改悪が発端となっています。
小泉内閣は奨学金を取り扱っていた政府機関である日本育英会を2004年に独立行政法人化し「日本学生機構」としたのです。
前にも述べましたように、独立行政法人というのは、政府の庇護から離れ原則として独立運営しなければならないのです。国は、一定の補助はしますがそれ以上の面倒は見ないということです。
そのため、日本学生機構は、返還無しや無利子の奨学金を絞り、有利子の奨学金を激増させることになりました。
小泉内閣初年度の有利子奨学生は33万人だったのですが、小泉内閣最終年の2006年には58万人にまで達しています。この流れはそのまま続き、2013年には100万人以上にまで増加しているのです。たった10年ちょっとの間に3倍近くに膨れ上がっているのです。
また小泉内閣は、最終年の2006年には有利子奨学金の利息の上限を3%以上にするという鬼のような決定を行なっています。それまでは、奨学金の利息は3%の上限が定められていたのですが、それを廃止したのです。
この上限3%の廃止により、民間金融機関の参入をもくろんでいたわけです。
日本は低金利時代が続いているので、奨学金の利息が3%を超えることはありませんでしたが、場合によっては日本の学生たちは3%を超える高い利率で借金を背負わされる可能性もあったのです。
彼らは大学卒業時には、数百万円の借金を抱えていることになります。
しかも、小泉内閣当時は就職難でそう簡単には就職できませんでした。なので、就職もできないままに、借金だけが残っている、という卒業生も多々おり、これは大学の間で大きな問題となっていたのです。
この奨学金ローン問題は、昨今、国会でもたびたび取り上げられました。
そのため返還不要の奨学金や無利子貸し付けを増やしました。また少子化の影響などもあり、現在は有利子奨学生の数は60万人程度まで減っています。しかし、今でも学生たちの大きな負担になっていることは間違いないのです。
日本は少子化が進んでいて、就学人口も非常に減っています。その少ないはずの就学世代にさえ、まともに教育を受けさせられていないのです。
そしてその流れをつくったのは、竹中平蔵氏の構造改革なのです。
この記事の著者・大村大次郎さんを応援しよう
image by: World Economic ForumCopyrigh World Economic Forum / Photo by Natalie Behring, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons