「文科省いじめ重大事態のガイドライン」にも明記されている、いじめ再調査の基準。3つのうち1つでも満たしていれば自治体の長は「再調査を行う必要があると考えられる」とも記されていますが、応じない首長が存在するのも事実です。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、いじめ再調査委員会設置の現状を詳しく紹介。その上で、被害者を救えない「いじめ防止対策推進法」の改正を強く求めています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:指導死問題_大阪清風
いじめの再調査委員会が成るのはごく一握り
再調査委員会で「いじめが認定」されたというニュースは、事例を挙げればキリがない。
私も複数件の事案で、「新証拠」や「第三者委員会委員の不適格性」を調べて、不可思議な結果となっているいじめ第三者委員会の調査結果を覆したことがあるが、証拠類を集めるだけでも大変な調査であるのに、それ以上に高いハードルがある。
根拠法は「できる」だけ
いじめ問題で自治体の長、例えば東京都の場合は都知事が再調査を行うと仮定した場合の根拠法は、「いじめ防止対策推進法第30条から32条」になる。
これを多くの専門家は「30条調査」と呼ぶが、根拠となる条文は「前項の規定による報告(重大事態いじめに関する第三者委員会の報告)を受けた都道府県知事は、当該報告に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のため必要があると認めるときは、附属機関を設けて調査を行う等の方法により、第二十八条第一項の規定による調査の結果について調査を行うことができる」というものだ。
つまり、「しなければならない」ではなく「できる」だから、別段、地方自治体の長が「やらない」と言えばそれまでになるのだ。ちなみに罰則はないから、守らなくても罰を与えられることはないのだ。
一般的な首長であれば、再調査の基準を満たす問題があれば、再調査に応じるが、様々な政治的な柵や教育問題に全く興味がないなどの首長は、まず、断る理由を探すものだ。
事実として、再調査に応じない自治体も多いし、これもニュースになっているものもある。
つまり、再調査が成るというのはごく一握りの条件が揃ったケースのみであり、この条件には「運」のような不確かなものも入るという具合なわけだ。
この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ
再調査の基準
再調査の基準は、「文科省いじめ重大事態のガイドライン」に明記されている。理解しやすいように3つのうちいずれかがあれば、再調査が必要だと考えられると思ってもらえばいいだろう。
- 調査を取りまとめた後、調査結果に影響を及ぼし得る新しい重要な事実が判明したと地方公共団体の長等が判断した場合
- 事前に対象児童生徒・保護者と確認した調査事項又は調査中に新しい重要な事実が判明した事項について、地方公共団体に長等が十分な調査が尽くされていないと判断した場合
- 調査組織の構成について、地方公共団体の長等が明らかに公平性・中立性が確保されていないと判断し、かつ、事前に対象児童生徒・保護者に説明していないなどにより対象児童生徒・保護者が調査組織の構成に納得していない場合
私が携った再調査や検証委員会設置のケースでは、第三者委員会がガイドライン違反のみならずいじめ法違反を繰り返して行い、被害側に極めて失礼な態度や不規則発言を繰り返し行い不信感を持たせたり、調査自体が「ありき」の調査で、新証言のみならず既存証言や証拠があっても委員長の求める答えに影響するものは無視するなど到底調査とは言えないもの、調査委員が調査対象となる学校や加害者などとそもそも交流があり利害関係がある場合だ。
例えば、遺書があり、いじめについての事が書いてある状況で、憔悴し悲しんでいるご遺族を前にして、「で?どうしたいの?いじめがあったとして、お金が欲しいの?死人は蘇らないよ」と実際に発言した某大学教授などがいたり、一度も顔をあわせず、意見も聞かずに結果を出した調査委員会もあり、調査とは到底言えない杜撰な結果を恰も調べました体で首長に報告されたケースもある。
こうした場合、地元マスメディア報道がしっかりと報じてくれることで、「さすがにマズイ」となって、首長は再調査に応じるようだが、地元マスメディア報道もコントロールしてくるような自治体になると、もはや手のつけようがないのだ。
いわゆる、時代劇「水戸黄門」に出てくる傍若無人な御代官様が令和の現代にリアルにいるような地方自治体も確かにあるわけだ。しかし、水戸黄門は実際に令和にはいないのだ。
こうなってくると、他のメディアにプレスリリースしたり、文科省などに指導を要請したり様々な対応をしていくが、それでも応じないという首長は確かにいるわけで、結果として被害側はやむなく裁判を起こすということになるわけだ。
再調査委員会で実態がひっくり返るケースはほぼ100%
実際に再調査委員会があり、事態がひっくり返るケースは100%に近い。そもそも高いハードルがある中で、ごく一握りのご遺族や被害側が求めて認められ、再調査を行うわけだから、そうあって欲しいということもあるが。
見方を変えれば、教育委員会などが設置する第三者委員会がきちんとした調査をしていない数と再調査委員会の数は同数に限りなく近いのだという結論になるのではないだろうか。
それだけではない。そもそもハードルが高いことやあまりに誠意のない対応を受けて、やっても無意味、他の事に時間と労力をそそいだ方が有意義だと考え、対策を捨てた人も相当数いるのではないだろうか。いわゆる教育行政や組織の対応に絶望し、まず切り外そうと捨てるわけだ。この被害側が捨てたことを、不満がなくなったと喜ぶ教育関係者も多いようだが、捨てられたのはその場面での人であり、組織であることを忘れてはならない。
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制度設計、法改正は不可欠
いじめ防止対策推進法は平成25年にできた。本来は3年で改正するはずであり、いつまで経ってもされず、元文科大臣であった馳浩氏のいじめ法改正ひっくり返し事件(座長試案)などがあり、10年を契機に改正しようという機運が流れ、2025年を迎えてしまった。
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その間、私はきちんと罰則を設け、加害者自体の処罰や隠ぺい工作をしたものが仮に公務員であっても処罰できるような、より厳しい改正を求めて動いてきたが、教育側勢力の様々な圧力や妨害に遭ってきた。ある省庁に関しては出禁処分的な扱いを受けたり、有識者のサミットでも大人の事情で出席できないなどの嫌がらせも受けてきた。悪意しかない不当な噂を流され、未だにそれを信じて意味不明な罵倒を浴びせてくる輩もいる。
弱者側に立つと、罰を受けるというよくある処分だ。
法改正を抜きに何らかの制度を設けても、現状何の改善もないように、文科省やこども家庭庁が、いじめ対策として国費を使い、いじめ調査アドバイザーやいじめマイスター等の各種制度を設けて、制度設計をしてなんとか対応しようとしても、上手く機能していないという声ばかりが私の耳には入ってきている。
本丸である法改正に着手しなければ、現状は何ら変わることはなく、実態がドンドン明るみに出るだけなのだ。某大手新聞社の記者さんは、私にこう言った。「びっくりするくらいダメな人たちだから、突けば突くほどネタが出てくるのが教育委員会だし、世間の関心が高いいじめ問題だからね」と。今後もカッコウのネタになり、多く報じられることだろう。
私はこのいじめ問題に関わりもってから、およそ21年経つ。着手当時はぴちぴちの若者であった私も今や中年オヤジである。日常の激務から体のあちこちがポンコツになってきている。日々、あまりに酷い被害を目にし、相談を受け、亡くなったこどもの遺影に手を合わせるということをしていると、気が付かぬ間に精神がズタボロになり、突然、声が出なくなったりもする。自己分析をすれば、精神的にも肉体的にも限界を超えたところにいるのだろう。
だからこそ、2025年の今年は、いじめ法改正となるようにその礎だけでも作れればと思っている。ぜひとも、読者の皆様には、無理のない出来ることでご協力頂ければと思う。
編集後記
世の中アップデートされています。アップデートの速度は年々上がっているのではないでしょうか。こうした点、どうも立法はついていけていないと思うのです。国民から搾取するような立法のアップデートは驚くほど速いのに、守る立法となると途端に停まったり、流れたりするように感じます。気のせいでしょうか…。
それはさておき、いじめ法改正など、こどもたちに関係する法律のアップデートは、今日からでも明日からでも早いに越したことはないと思います。
2025年、令和も7年となっての年初の所信表明となってしまいましたが、今年こそは、その礎くらいはなんとか作れたらと思います。
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