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石破首相がキレた「農水省と族議員のウソ」コメ高騰の戦犯は明白も、小泉進次郎農水大臣に「減反廃止」の大ナタを振るえるかは未知数?

昨今のコメ価格急騰の原因について、農水省や族議員たちは「“コメは足りている”ものの流通経路で“目詰まり”を起こしている」と口を揃えて説明する。だがこれは大ウソだ。現実にはコメの供給量が少なすぎるために米価が高騰しているのだから。減反政策廃止論者の石破首相は当然これに気づいているが、脇を固める農水族議員や官僚に対策を拒まれている状況だという。元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:打つ手は“進次郎”だけ?・・・悩める減反廃止論者・石破首相

米価高騰の原因は「流通の目詰まり」としてきた農水省のウソ

異常に急騰したまま一向に下がらないコメ価格。当初、その原因について農水省は、卸売業者が在庫を抱え込んだことにより「流通の目詰まり」が起きていると説明していたが、そんなことではなさそうだ。

石破首相は5月12日の衆院予算委員会で、こう語った。

「コメの生産が随分と落ちてきて、農家の数も減って、農地も減ってきた」「今回の色々な状況というのは、もちろん目詰まりを起こしているということもあるが、コメの生産がそもそも少なくなってしまったのではないかということを議論していかねばならないと思っている」

農水省はあくまで「コメは足りている」と主張するが、この点、石破首相のほうが正直だ。そもそも足りていないから、備蓄米をこれまで3回の入札で計31万トンも放出したにもかかわらず、価格が下がらないのである。

お粗末な失言問題で更迭された江藤拓・前農水大臣が「どこかで米がスタック(滞留)している」と弁明していたのは、農水省の言いなりである証拠にすぎない。

減反廃止論者の石破首相は、農水族議員らに包囲されている

農水族の一人である石破首相は、農水省の説明にウソがあることを見抜いていたのだろう。当初から備蓄米を活用すべきという考えを持っていた。

むろん、農水省にその気はさらさらなかった。米価が下がって農協(JA)が反発するのを恐れるからだ。結局、備蓄米に手をつけたのは、農水省の判断ではなく、官邸の意向が強かったからにほかならない。

石破首相はかねてより「農政ムラの構造改革」に言及してきた数少ない政治家の一人だ。麻生内閣の農水相だったころ減反政策の見直しなど抜本的な農政改革に手をつけようとしたことがあったが、政権交代で立ち消えになった。

その石破首相にとって厄介なのは、自民党内での権力基盤が弱く、政権運営のかなめとして森山裕幹事長に頼らざるを得ないことだ。森山幹事長は安倍政権で農水相をつとめ、自民党農水族のドンとさえ称される。まさに「農政ムラ」をとりしきる人物だ。

また、政策面で最も信頼を置いている小野寺五典政調会長も党の農業基本政策検討委員長として農業関係者や農水省との関わりが深く、米価高騰問題に関してテレビ番組で「コメは足りている。流通に目詰まりがある」と繰り返している。

さらに、やや影が薄いとはいえ、林芳正官房長官が安倍政権で2回にわたり農水大臣をつとめた経験があることも、農水省にとって好都合であろう。(次ページに続く)

「減反を廃止しコメを安くせよ」石破首相の号令を無視する農水官僚の面従腹背

参院選に政権の浮沈がかかる石破首相としては、なんとかして投票日までにコメ騒動を落ち着かせなければならないが、農水省と農水族議員のガードが固く、思い切った対策を打てないのが実情だ。

2月28日、首相官邸の総理執務室には、石破首相と農水省の渡辺毅次官らの姿があった。減反廃止をめぐり、石破首相は「いつまでも減反を続けるべきではない。生産性を上げて、農家が自由にコメをつくれるようにすれば、米価は安くなる」と主張した。
渡辺次官は、生産性の向上については「しっかり取り組みます」と述べたものの、減反廃止には難色を示し続けた。(2025年3月9日・朝日新聞)

業を煮やした石破首相は小野寺政調会長を呼びつけ、党で対策を立てるよう指示したというが、そこには森山幹事長、坂本哲志国対委員長ら大物農水族に向けた当てつけのような面があったとも考えられる。

キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は備蓄米放出について「将来的に国が買い戻す条件付きでJAなどの集荷業者に販売するとなっている。放出してもいずれ市場から引き揚げるのであれば、コメの供給量は増えない。これでは米価を引き下げる効果はなく、国民は高いコメを買い続けることになる」と指摘する。

要するにコメの供給量が少なすぎるからこのような現象が起きるのだ。

国が買い戻す条件付きで備蓄米を放出するという制度は、コメの流通を一定量以下に調整して価格を維持する「減反政策」によるものだ。(次ページに続く)

減反を完全にやめるまで“令和の米騒動”は収束しない

1970年前後、日本人の食生活は「パン、肉、乳製品」などへの転換が進み、コメの消費量が減少。農業は重大な転機を迎えていた。

にもかかわらずコメは作られ続け、余剰在庫が増加。政府がコメを高値で買い取る「食管制度」によって、生産過剰すなわち財政負担の増大という問題が発生した。

そこで農林省(当時)と自民党農政族が主導して「生産調整」を始めた。「米が余れば価格が下がり、農家が困る」。「作りすぎないようにしよう」。この減反政策は長らく農家の所得安定に寄与したが、一方で耕作放棄地が全国で拡大、高齢化と担い手不足を招き、今なおその呪縛が続く。

2018年度から減反の「義務化」が廃止されたものの、補助金制度の形で「実質的な減反」は継続している。

今回の米価高騰は、需要の高まりというより、供給側の意図的な生産縮小という“構造的欠陥”に根差したものだ。コメ不足を防ぐには「減反」を完全に廃止するほかない。自民党内で数少ない減反廃止論者である石破首相は今こそ、その政策を実行するチャンスである。

だからといって、なんら対策を講じずに「減反」をやめれば、コメの価格が下がり、農家は立ち行かなくなる。そこで必要になるのは農家への所得補償だ。減反政策を完全に廃止し、米価の自由市場化によって生じる農家の減収分を政府が戸別に直接補償する制度への転換は、政策的には十分に可能なはずである。

「戸別所得補償」というと、民主党政権を思い出す。しかし、それは減反政策で米価を維持したうえ所得補償を上乗せするものだった。あくまで「減反」を完全にやめることが肝要だ。

だが、そういう動きを見せると、たちまち騒ぎ始めるのが農協組織と農水族議員だ。「減反」にともなう「作付け管理」や、「補助金の申請・実務」を牛耳ることによる“影響力”を農協が失えば、急速な弱体化につながる。

それは、農協の集票力や資金力をあてにしている農水族議員と、天下り先を確保したい農水省にとって不都合なことだろう。(次ページに続く)

石破首相の同志、小泉進次郎・新農水相も「丸め込まれる」恐れ

事実、農水族議員の大物たちにまわりを固められ、石破首相は身動きとれない状況だった。そこに起きたのが、江藤・前農水相の失言問題だ。

いったん続投を認めたものの、批判がおさまらないため一夜にして更迭へと方針転換。局面打開策として、農政改革の同志、小泉進次郎氏を新しい農水大臣に起用した。

一人だと農水族の壁を打ち破る勇気はないが、二人ならできるということか。だが、その小泉氏にしても威勢のいい発言のわりに腰砕けとなることが多い。党農林部会長だった時と同じように、老獪な森山幹事長に手もなく丸め込まれそうな気がしないでもない。

それにしても、石破首相に小泉起用のチャンスを提供した江藤氏の発言は酷かった。

「私もコメは買ったことありません。支援者の方々がたくさんくださるんで」。

全く呆れるほかないが、典型的な農水族議員の本音でもあろう。コメ価格の高騰に対処すべき総責任者だったにもかかわらず、消費者の実感に寄り添おうとしない。「支援者がくださる」という言葉から、農水族議員としての長年の習性が骨の髄まで染み込んでいることがうかがえる。

米価高騰は、単なる一過性の物価問題ではない。長年放置されてきた農政の“矛盾”が、表面化しただけのこと。この国の食料安全保障を確立するには、政策の大転換が求められるが、自民党政権のままでは永久にできそうもない。その意味で、参院選は有権者にとっても正念場といえる。

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