和歌山・南紀白浜「アドベンチャーワールド」のジャイアントパンダ4頭が、中国へ帰ることになった。これはただの「契約期限切れ」ではない。「自民親中派のドン」と呼ばれ、和歌山を「パンダの聖地」にした地元の大物政治家、二階俊博氏の政界引退と密接に関連している。チャイナ・コネクションをフル活用し権勢をふるった二階氏の功罪、中国「パンダ外交」の真の狙いについて元全国紙社会部記者の新 恭氏が解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:白浜からパンダが消える──二階俊博と「パンダ外交」の終焉
二階俊博氏と共に去りゆく中国のパンダたち
ゴールデンウィークの人出でにぎわう南紀白浜。白砂のビーチと温泉に癒されるこの町には、もう一つ、「パンダの聖地」としての魅力がある。しかし残念なことに、今ここで暮らしている4頭すべてのジャイアントパンダが中国へ帰ることになった。
地元では「パンダロス」の声が早くも広がっているが、どうも単なる契約期限切れというだけではないようだ。
この“異例のパンダ外交”を陰で支えてきた人物が、昨年の衆議院選にも出ず、静かに政界を去ろうとしている。地元選出の大物政治家、二階俊博氏だ。
中国との太いパイプを持ち、王毅・外相とも個人的な信頼関係を築いてきた二階氏。かつては習近平主席と何度も面会を重ね、「日本政界随一のチャイナ・コネクション」とまで称された。
白浜町のアドベンチャーワールドにパンダがやってきたのは1994年。以来、レンタル契約に基づき、17頭のパンダがここで誕生した。パンダの繁殖は難しく、世界的に見ても異例の成功であり、日中間の“非公式外交”の象徴だった。
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二階氏と習近平主席の「個人的な」信頼関係
昨年秋に二階氏が訪中した際も、「アドベンチャーワールドにいるパンダはすべてメス。オスのパンダを派遣してほしい」と要請したとされ、王毅外相はこれに前向きな姿勢を見せたという。それだけに、今回の「全頭返還」には、すんなり納得できない。
園側は「ジャイアントパンダ保護共同プロジェクトの契約期間が満了するため」と説明する。しかし、あまりにもタイミングが良すぎるのだ。二階俊博という“架け橋”が政界を去る。その影響力の喪失を、中国が冷静に見極めた結果と考えるべきではないか。
二階俊博と習近平の間には隣国の首脳同士という間柄を超えた信頼関係が構築されている。林幹雄は思う。 〈今や「二階─習近平ルート」と呼ぶ人もいるくらいだ。外務省や経産省には真似できない独自の外交チャンネル。これを党人派の二階さんが一つ一つ積み上げてきた意義はとてつもなく大きい〉
(大下英治著「二階俊博伝」より)
中国は往々にして、個々の政治家との信頼関係を重視する。日中間のパンダ外交は国家間ではなく、「人」と「人」の間に築かれたものだった。そのキーパーソンが引退するとなれば、特別待遇を見直すのは当然の流れかもしれない。(次ページに続く)