AI技術の急速な進化により、大きく変わり始めた戦争のあり方。そんな中、人類が長年築いてきた「核抑止」の前提そのものを揺るがしかねない新たな危険性が高まっています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、AIの軍事利用がもたらす戦争そのものの変質について解説。さらにAIと核兵器が結びつくことで、人間による「最後の抑止」が機能しなくなる事態に強い懸念を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:核兵器を巡る大国間の綱引きと、その背後で静かに進む新しい兵器による戦争のかたち
AIは万能なのか。核兵器を巡る大国間の綱引きと背後で静かに進む「新しい兵器」による戦争
【11分23秒】と聞かれて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
UAEのシンクタンク“アル・ハブトゥール研究センター”の分析によると、これは2月28日にアメリカとイスラエル軍がイランの最高指導者だったアリー・ハメネイ師ら要人の殺害にあたり、場所の特定(捕捉)から攻撃完了(殺害完了)までに要した時間とのことです。
軍事部門では標的の補足から攻撃完了までの一連のプロセスを【キルチェーン】と呼びますが、このキルチェーンに要する時間が短縮されるほど、戦争における進行スピードが高まり、戦闘のサイクルが短縮されると言われています。
言い換えると一つの戦争にかかる時間が短くなることを意味しますが、現在、この戦争および作戦の遂行を短縮するために大きな役割を果たしているのが人工知能(AI)です。
先のハメネイ師らの殺害においては、これまで328名の専門分析官が100日以上かけて行う衛星情報などの統合・分析作業を、AIはわずか90分で完了させたとのことですが、それを可能にしたのが、米国のパランティア・テクノロジーズやアンソロピックなどが提供するデータ統合と分析のAI技術です。
すでにAIは軍事部門に深く入り込み、実戦においても広く使われています。私は以前、イスラエル・テルアビブを訪れた際、イスラエル軍の作戦室に案内され、イスラエル軍が実際にAIを用いてテロリスト(殺害対象)と一般人を分別して、攻撃する様子見る機会がありました。
先に明言しておきますが、それは実戦の作戦実行時ではなく、軍のシミュレーションへの立会いでしたが、その際、何千人とも思われる画面上に映し出されたガザの人々の顔認証が行われ、攻撃対象とされた人に模擬攻撃が加えられるまでに要した時間は、わずか12秒間でした。
一応、最後のボタンを押す(攻撃の最終的な承認を行う)のは人間ですが、果たしてAIは人の生死を決めることができるほど万能といえるでしょうか?実際にガザへの作戦にこのAIによる遠隔殺人兵器が投入され、多くの一般市民を巻き添えにしました。
AIは決して万能ではありません。その証に2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃時に、イラン南部の小学校が爆撃され、児童を含む多くの民間人が殺害されましたが、その攻撃目標をデータから策定し、爆撃機に指示を出したのはAIを含む半自動化システムであったことが米軍による報告から分かっています。
「AIが指示したターゲットへの爆撃を行うにあたり、最後に爆弾を投下したパイロットは自ら確認した上で攻撃に及んだのか?」
「人間による最後の確認のためのシステムは確立されていたか?」
「攻撃に実施に当たり、現場の誰かが何らかの疑問を抱くことは無かったのか?」
「AIが分析に用いたデータは本当に最新のもの、かつ正しいデータだったのか?」
いろいろな疑問が湧いてきます。
ちなみに最後の問いについては、分析の際、イラク戦争時のデータが自動学習のデータに紛れ込んでいたことと、古いデータが入っていたこと、そして米軍独自のデータ収集と分析結果ではなく、イスラエルによる分析結果がAIに与えられ、標的の設定に用いられていたことなどが分かっているため、大きな瑕疵が存在していたことが分かります。この結果、誤った指示がAIから与えられたのではないかと考えられています。
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