2025年春に卒業した大学生の就職率は98%という高い数字でした。しかし、その実感は学生にはないようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、学生たちの働く意志を置き去りにして大人の都合でシューカツをさせているという現実を明らかにしています。
ファッション化する“シューカツ”
厚労省によると、2025年春に卒業した大学生の4月1日時点の就職率が98.0%で、過去2番目に高かったことがわかりました。
98%……かなりの就職率です。過去2番目といっても、過去最高だった昨年とはわずか0.1%差ですから、ほぼほぼ過去最高です。
「内定」をもらうハードルが高く、あたかも「その人間の存在価値」を測るモノサシのごとく「内定」という言葉が使われていた時代の異常さを思いだすと、本当に良かったとつくづく思います。
ところが、です。
なんと「就職先を安易に決めてしまったと感じる」学生が4割超に上るとか。
いったいこれはどういうことなのでしょうか? まったくもってわけがわかりません。
そもそも日本中どこもかしこも「人手不足」ですし、企業は「優秀な若者」に来てもらうために、「新入社員対策」に必死です。
就職後の賃金もあれよあれよと上昇し、8割超の企業が25年春入社の初任給の引き上げを実施しています。
平均上昇額は高校卒で11,641円、大学卒12,919円、大学院卒修士14,340円。就職人気企業ランキング文系1位の伊藤忠商事の初任給は32万5000円ですし、理系1位のソニーグループにいたっては35万3000円です。
しかも、企業側は「やめられては困る!」ので、育休・有給休暇フル取得当たり前転勤なしは当たり前、あの手この手で新卒サポート&ケアに手を尽くしている。なのに「安易に決めてしまった」とは……言葉がありません。
安易に決めた人は安易にやめる。退職代行サービスなんてものもありますから。私たちの世代には想像もつかないほど、「退職」のハードルは低くなりました。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
一方で、これまでの「シューカツ」の歴史を振り返れば、来るべきしてその時が来ただけ、なのかもしれません。
私の取材メモを振り返ると「シューカツ」という言葉が一般的に使われだしたのは2010年頃です。お見合いが「婚活」になったことで「結婚相手を探す活動」が軽くなってしまったように、就職活動も「シューカツ」になり、「就職先を探す活動」も軽くなりました。
「数打ちゃ当たる」とばかりに学生はエントリーシートを出しまくり、企業側も「数打ちゃ当たる」とエントリーする学生を必死で集めまくりました。
さらに大学側は「キャリア教育」という名のもと、やれ自己分析だ、それ他己分析だ、ほれコミュニケーション能力だと「即戦力教育」に明け暮れました。
すべては「大人たちが大人たちのため」に作り上げた、学生を置き去りにした奇妙なシステムです。
本来、キャリア教育とは「キャリアレディネス」の向上を目的に行われるのに。学生がおいてけぼりにされているのです。
自分自身のキャリアに対する欲求と興味を開発し、発見する自分自身の能力と才能を開発し、発見するキャリア選択をできるだけ広くできるような学業成績を収めるキャリアについて学ぶための、現実的役割モデルを見つける
これらの課題に学生が主体的に取り組み、一つひとつ達成していくことで学生のキャリアレディネスは高まります。そして、これらの経験の全てが会社組織への適応に役立つのです。
インターンはそのためにあるのに、日本ではインターンは内定をゲットするための手段に成り下がりました。
欧米では、学生は「自分を採用してもらうため」に学業に精を出します。学生は「キャリアレディネス」を高めるために、インターンを複数回経験します。
そのすべてが「未来の仲間」を育てるためであり、「学生」が社会の一員として、自立し、協働し、「働くことで幸せになる」ための準備でもあります。
かたや日本はどうでしょうか?
社会人になるための準備もないままに会社員になり、短期間で独り立ちさせられるのですから、うまくいくわけがありません
いい加減、大人たちのために大人たちが作り上げた利益誘導社会の中の「キャリア教育」をやめ、うまく働ける若者を作るために、企業側もきちんと汗をかいて欲しいです。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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