「AIで自動運転」が目新しい言葉ではなくなった今、中国の自動車業界では原点ともいえる安全機能AEB(自動緊急ブレーキ)が再注目されています。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では、ファーウェイが発表したPVから、あえてルールベースのAEBが強調されるようになった背景を読み解いています。
ファーウェイ、AEB作動実録PVを発表、AIよりも命を守る機能
ファーウェイは2025年6月26日、スマートカーソリューション「乾崑」ADSにおいて、AEB(自動緊急ブレーキ)に関するPVを発表した。
AEBは中国でも義務付けられている先進運転支援(ADAS)のルールベース機能。最近、理想(Lixiang)、小鵬(Xpeng)も相次いで自社のAEB機能に関するPVを発表している。
今までは、エンドtoエンド(E2E)型のAIによる自動運転技術が華やかに語られてきたが、ここにきて各社がこぞって従来ADASのAEBをPRする背景とは何か?
ファーウェイの今回のPV内容から考えてみたい。
累計200万回の衝突回避
このPVは1分ほどの短いものだが、各社が搭載する「乾崑」ADS車両で実際にAEBが発動した際のシチュエーションが10件程度使用されている。
この点、LixiangやXpengのAEBのPVがあくまでも自社試験の意味合いが強いものだったのと比べ、差別化が図られている。
その上でファーウェイは、実際の交通環境で累計200万回以上のAEB作動によって衝突事故を回避してきたとする。「乾崑」ADSの性能の高さを標榜する。
リアルな中国交通環境
街中の飛び出し、交差点の信号無視、夜間の視認困難な状況──。
映し出されるのは、決して理想化されたテストコースではない。「中国の日常の道路」であり、「実際に起きた危機」そのものだ。
それらの映像には、「乾崑」ADSの内部UIを通じて可視化された赤枠アラートや対象物の追跡表示がそのまま含まれており、単に止まったという事実だけでなく、「AIが何を見て、どの瞬間に、なぜ止まったのか」が可視化されている点が大きな特徴だ。
つまり、ルールベースで義務付けられているAEBも、ファーウェイはすでにAI連携を見据えていることになる。
AIをあえて封印
かつてのファーウェイは、マップレス運転や自動運転レベル4準拠の自律走行といった最先端技術を積極的にアピールしてきた。
しかしこの動画は、あえて技術スペックを語らない。代わりに前面に出されたのは、「200万回、止まったという事実」である。
そのメッセージには、現在の市場状況における強い意志がにじむ。
すなわち、「人間のように運転できる」AIよりも、「人間以上に危険を察知し、止まれる」AIこそが、今求められているのだと。
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ファーウェイADSのAEB
ファーウェイ「乾崑」ADSのAEBは、フロントカメラ・レーダー・Lidarを組み合わせた三重冗長構成と、E2Eとルールベースを併存させた判断ロジックで構成されている。
例えば、児童の飛び出しや電動バイクの割込みといった予測困難な事象にも、機械学習ベースの予測に加えて、ルールによる瞬間的なブレーキ制御が強化されている。
映像内には、投稿者のWeiboのIDが明記されている。
ファーウェイは、ユーザーがSNS上に投稿したAEB体験動画をもとに、個別に許可を得て公式プロモーション映像として再編集していると思われる。
「止まらない」事故多発
2025年に入り、3月末にはシャオミ「SU7」が高速道路上で自動運転と過信したことによると思われる悲惨な事故を起こした。
その後もシャオミ車は、不規則な状況でやむを得ない事情もあった可能性も高いが、自転車等含む16台の玉突き事故を起こしている。
いずれもシャオミに明確な責任があるものではないが、中国では極めてインパクト大きく報じられた。
それにより、いわゆるスマートドライビングという呼称の使用が制限され、「アシスト」を必ず打ち出さなければならなくなった。
危険な時に本当に止まる
そうした背景のもと、今の中国では華やかな“AI自動運転”ではなく、「危険なときに本当に止まれるか」という原点に立ち返る、ルールベースな安全機能に注目が集まった。
「AIがどれだけ進化しても、止まれなければ意味がない」──。
そんなユーザー心理の変化を受けて、各社は相次いでAEB性能の強化と実績の“見える化”を始めたのだろう。
AI一辺倒ではなく、必要な時に作動する命を守る機能、そのPRこそが今、中国ユーザーに求められている、とも言える。
ファーウェイの今回のPVはその傾向を可視化したものとして興味深い。
出典: https://weibo.com/7348572943/PydPmFSFF?pagetype=homefeed
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