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なぜ中国とインドは“急接近”したのか?「トランプ関税」と「米国の印露貿易への牽制」が背中を押した皮肉

世界の主要メディアでも大きく報じられた、習近平国家主席のチベット自治区訪問。中国中央政府と同自治区との間には「微妙な関係」が存在することは周知の事実ですが、習主席がこの地を訪れた背景にはどのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、その裏側に中印関係の改善があると指摘。さらに両国の接近を後押しした要因を読み解いています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:国家主席のチベット訪問を可能にした中国とインドの接近

中国とインドが急接近。習近平のチベット訪問を可能にした遠因

8月21日、習近平国家主席が西蔵(チベット)自治区の拉薩(ラサ)市を訪れた。西蔵自治区成立60周年に合わせ、ポタラ宮広場での60周年祝賀大会に出席するためだ。

同行した王滬寧中共中央政治局常務委員(全国政協主席、中央代表団団長)は演説のなかで、「西蔵は全国と共に貧困脱却の難関攻略戦に勝利し、小康社会を全面的に完成させ、経済・社会発展において歴史的成果を収めた」と、人々の生活水準の向上に自信をのぞかせた。

統計によれば、2019年末にはチベット自治区に74あった貧困県、62万8,000人が貧困を脱し、1人当たりの純収入は15年の1,499元から9,328元へと急増したという。

私は、今年6月にチベット自治区に入りニンティ(林芝)とラサを訪れたが、街の様子で目についたのは、至る所でインフラ事業が進められ、建設機械がせわしく動いていてるという風景だった。

それは中央政府がチベットの発展を躍起になって実現しようとしているような印象を残したが、現状ではそれは単なる「支援」ではなくなっているようだ。

7月には、国有資産・中央企業(中央政府直属の国有企業)16社がチベット自治区の75件のプロジェクトに計3,175億3,700万元(約6兆3,507億円)を投資する発表している。

驚いたのは今年1月に発表された各省・自治区・直轄市の同年の国内総生産(GDP)目標値だ。そのなかでチベット自治区は「7%以上、目標は8%の達成」という目標を掲げたのだ。言うまでもなく全国最高水準の目標だ。

習近平主席がチベットに降り立った背景には、こうした発展の成果にそれなりの自信を持っていることがあるのだろうが、理由はそれだけではない。

チベットの裏側にあるインドとの関係が改善されたことが、その遠因として挙げられるからだ。

中国とインドの接近という傾向は、2024年のインドの総選挙から明らかになり、同年10月のロシアのカザンでの習主席とインドのナレンドラ・モディ首相との会談で確定的な流れが出来上がった。

後は、両国がどのようにこれまでのしこりを解いてゆくかだが、その意味で大きな進展となったのが今月18日からの王毅外相のインド訪問だった。

王外相は同地でスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相、そしてドヴァル国家安全保障担当補佐官と会談。最終的に10項目の合意に達したからだ。

中国とインドの間にはそもそも国境未画定という根深い問題が存在する。

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インドを「アメリカ以上の中国排除」に突き動かした軍事衝突

2020年のコロナ禍のなかでは、この国境付近で中印両軍が衝突し互いに犠牲者を出した。

インドの反発は凄まじく、対中強硬政策を進めていたアメリカ以上に積極的に中国排除に動いた。その結果、両国の交流は大きなダメージを被った。

わかりやすいエピソードがある。私が中国で知り合ったインドの学者との別れ際に連絡先を交換しようとしたときのことだ。「ウィチャット」の画面を開くと、相手が悲しそうに首を振って「インドではウィチャットは禁止だ」と語ったのだ。また、別れた地方都市からインドに帰るその学者に、「どこを経由して帰るのか」と訊ねると、「スリランカだ」と答えたのだ。

当然のように北京や上海が経由地だと予測していた私は面食らったが、そんな私に彼は、「インドと中国の間に直行便はないんだよ」と苦笑したのだった。

日本人にしてみれば中国から日本に戻るのに、フィリピンを経由しなければならないというのと同じくらいの話だ。

そんな両国が今回の王毅外相の訪印で、10項目の合意に達したという。

その中身は『人民日報』から抜粋してみると以下のようになる。

皮肉にも中印接近はアメリカの対印関税とインド・ロシア貿易をけん制するトランプ政権によって背中を押されている。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年8月24日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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