人気コンサルタントの永江一石さんは読書家としても有名ですが、メルマガ読者の方から「おすすめの本を教えてください」と質問されました。永江さんは、自身のメルマガ『永江一石の「何でも質問&何でも回答」メルマガ』の中で、絶対に外せないというノンフィクション本2冊をご紹介しています。
わたしがおすすめするノンフィクション作品
Question
永江さん、いつも有益な情報をありがとうございます。以前ブログでご紹介されていた『ポーツマスの旗』は、日露戦争の講和会議に臨んだ小村寿太郎の苦悩と、その裏側にある歴史の重みが深く心に響く作品で、私のお気に入りの一冊となっています。永江さんが紹介される本は、いつも心揺さぶられるような良書が多く、とても興味深く感じています。
読書家でいらっしゃる永江さんが、最近読まれたノンフィクションの中で、特に「これは!」と思われた一冊があれば、ぜひご紹介いただけないでしょうか。永江さんの鋭い視点から選ばれた、新たな一冊との出会いを楽しみにしております。
永江さんからの回答
ノンフィクション縛りでいうと、過去5年ほどの間に読んだ中で「これは絶対に外せない!」という2冊があるのでご紹介します。
まず1冊目は『サカナとヤクザ』です。著者が日本の魚業界にヤクザがどこまで食い込んでいるかを綿密にレポートした本なんです。
先日、中国人がアワビを密漁して捕まったニュースが流れた時、コメントで「外国人けしからん!」などと書かれていましたが、実は本当の問題を隠しているんです。中国人がちょっとアワビを捕るのなんて、暴力団の密漁ビジネスに比べたら可愛いものです。ヤクザの密漁はものすごい金額が動いており、暴力団の重要な資金源になっているんです。
わたしが昔いまはもうないヤ○セマリーン部の関係者から聞いた話なのですが、北海道には新聞にも出たことがある、有名な密漁を専門に行う漁村があるそうです。そこでは200馬力くらいのエンジンを3台も搭載した超高速艇を作っているとか。日本のメーカーは売ってくれないので、こっそりヤ○セに来て、1台何百万もするエンジンを買っていく。巡視艇が追いつかないくらいの化け物
ボートですよ。
それで夜中に北海道の海岸に現れて、ナマコやアワビを根こそぎ持っていく。見つかっても時速80キロくらいで逃げるので、まず捕まらない。その村に行くと豪邸が立ち並んでいて、近所の漁業組合の人たちも周知の事実だったとのことでした。
さらに衝撃的なのは、この密漁品が築地市場に堂々と流れていることです、築地で売られている高級魚の多くが、実は密漁したものなんです。安い魚なんて儲からないから、狙うのは当然高級品です。アワビ、うなぎ、ウニ、ナマコなどにはものすごく反社が絡んでるんです。
昔は借金のかたにマグロ船に押し込むなんて話をよく聞きましたよね。ヤクザは儲かるところにしかいないので、北海道が特に多いです。作者は相当な覚悟で潜入取材までやったのだと思います。この本を読むと、普段何気なく食べている高級魚の裏側が見えて、ショックを受けると思いますよ。
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2冊目は、吉村昭さんの『羆嵐』です。
今ちょうど熊のニュースが多い中で、「熊を殺すなんて可哀想」と役所にクレームを入れてくる人がいますが、その人たちにはまずこの本を読んでから意見を言ってくれと言いたいですね。
舞台は大正時代の北海道。開拓のために東北から移住してきた人たちの村が、巨大なヒグマに襲われた実話をもとにして書かれています。最初は後家さんが行方不明になり、男と駆け落ちしたんじゃないかなんて噂が流れていたところ、その人の大量の髪の毛が入った熊のフンが見つかって、ようやく事態の深刻さが分かるところから始まります。
問題は、東北出身の人たちがヒグマのことを全く知らなかったことです。東北の熊といえばツキノワグマで、せいぜい体重50キロ、身長は1メートル程度。おじいちゃんが空手で撃退したとか、柴犬が追い払ったなんて話も頷けます。
でもヒグマは全く別物です。体重300キロ、牛だって食べちゃう化け物です。人の味を覚えたヒグマなんて、家の柱をなぎ倒して侵入してくるので人間では絶対に敵いません。それを知らない村人たちは、最初は「久々に熊肉が食える!」なんて喜んでしまう。村田銃という単発の銃を持って、みんなで熊退治をしようとする。。
でも、いざヒグマが現れると、みんな腰を抜かして銃も暴発させてしまいます。1発撃って弾を込め直している間に、時速何十キロでトラックみたいに突っ込んでくるヒグマに襲われたらもうおしまいです。
野生動物って、腕が飛んでも平気で襲ってきます。人間なら失血死するような怪我でも関係ない。だから即死させないとダメなのですが、普通の猟銃じゃ無理。熊狩り用のマグナム弾を使って、体内で炸裂させないと倒せません。
軍隊の銃は国際法でフルメタル・ジャケット弾を使うことになっています。これは体を貫通するように作られていて、残虐性を抑えるためなのですが、熊相手には効果が薄い。なので最後は機関銃とかでないと対処できません。
わたしが実際に現地に行った時、「こんなところで……」と思うくらい、本当に山深いところでした。そこで夜中、真っ暗闇の中で巨大なヒグマに襲われるなんて想像したら、震え上がりますよね。人の味を覚えた熊は、次から次へと襲ってくるんです。人間って捕りやすい獲物なので、村が1つ全滅したケースもあるくらい。
この2冊はどちらもノンフィクションの傑作です。『サカナとヤクザ』は現代日本の隠された闇を、『熊嵐』は自然の脅威と人間の無力さを、それぞれ圧倒的なリアリティで描いています。読後、きっと世の中の見方が少し変わると思いますよ。ノンフィクションならこの2冊は絶対に外せないので、ぜひ手にとってみてください。
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