7月から9月まで放送されていた刑事ドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』で初めて耳にした方も多いと思われる、「SSBC」なる組織名。その実力は私たちの想像をはるかに超えるものであるようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著名エンジニアの中島聡さんが、彼らの驚異的な捜査能力を紹介。その上で、警察が国民をリアルタイムで監視できる社会の是非を問うています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:監視社会と治安
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
日本警察もすでに「顔認識システム」導入済み。監視社会と治安
先週、世田谷区の路上で女性が切り付けられて死亡した事件で、警視庁が翌日に羽田空港で容疑者を逮捕したという報道がありました。
【参照】羽田空港で身柄確保の韓国籍30歳、警視庁が殺人容疑で逮捕…世田谷の路上で40歳女性切られ死亡
私の知り合いの間で「SSBCが活躍したに違いない」という話が話題になっていたので、少し調べてみました。
SSBCは、「捜査支援分析センター」(Sousa Sien Bunseki Center)の略称で、Wikipediaの記事によると「2009年に警視庁刑事部に設置された犯罪の広域化や電子化に対応した即応部隊であり、電子機器の解析や捜査支援システムから得られた捜査情報の分析を行う部署」だそうです。
SSBCの重要な役割の一つは防犯カメラの画像解析、電子機器の解析を主とする「分析捜査支援」で、その技術を駆使して、事件後の犯人の足取りをつかみ、羽田空港から海外に逃亡しようとしていたところを逮捕したとみられています。
最新のAIの技術を使えば、探すべき犯人の特徴さえはっきりしていれば、駅などに設置されたセキュリティカメラに映った大量の映像の中から犯人らしき人物をそれなりに高い確率で特定することは可能です。
このケースで言えば、犯行現場のセキュリティカメラに映っていた映像の中から犯人らしき人物を特定するところまでは、警察が事件現場近辺を走り回ってセキュリティカメラに映った映像を集めるという、足を使った捜査が必要です。
しかし、一度「犯人らしき人物」を特定してしまえば、後は駅や空港に設置したセキュリティカメラからオンラインで映像データを吸い上げて処理すれば、(多少のノイズは入るとしても)犯人の足取りを掴むことが可能になります。
凶悪犯の逮捕に繋がったことは喜ばしい話ですが、こんな風に、警察が国民をほぼリアルタイムで監視する仕組みができてしまっていることに関しては、「どこまでの監視社会を容認するかどうか」という観点からの理解と議論が重要だと私は思います。
道路上のカメラで、自動車のナンバーを自動的に読み取る「Nシステム」が導入された時には「国民全体の動向を把握する監視システムとして機能している」という懸念の声が聞こえましたが、SSBCの顔認識システムはそれどころの話ではありません。
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多少の監視社会も悪くないのではと思えてしまう米国の現状
米国でこんなシステムを導入しようとすると、「米国を監視国家にしてはいけない」「ジョージ・オーウェルの1984年が描いた監視社会だ」「犯罪も犯していない一般市民の監視は憲法違反だ」という猛反対の声が上がることは明らかです。
米国は「権力者に必要以上の力を与えることは良くない」というビジョンの元に作られた国なので、この手の話にとても敏感なのです(銃規制ができないのも同じ理由です)。
ちなみに、中国は日本よりもはるか先を走る監視社会になっていると言われますが、結果として、治安が良くなって良かったと感じている人も少なくないという情報もあります。
2014年から本格的な運用が始まった「社会信用システム」が、各所に設置された監視カメラと連動して、市民の日常行動(列に割り込む、ゴミを捨てるなどの軽微な行為)までその人の評価に加えるようになった結果、日々の行動が、銀行からのローン、就職、子供の入学にまで影響を与えるようになってしまったのです。
米国では、コロナ禍以降、西海岸の主要都市(シアトル、サンフランシスコ、ポートランド)の治安が大きく悪くなりました。移民やホームレスに寛容な州知事や市長が、警察予算のカットなどを行ったことが原因ですが、こんな状況を目の当たりにしていると、多少の監視社会も悪くないのではないかと思えてしまいます。
● こうして監視社会は始まった
● Nシステムの実態を追って
● 監視社会=暗黒」の図式で中国を語る日本、重要な視点が抜け落ちている
● 中国生活で感じたこと#2 (治安とプライバシー、距離感)
● AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?
● China’s social credit systems are highly popular – for now
(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年9月9日号の一部抜粋です。「メルマガの画像とCloudflare」「Google ナノバナナ」や「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナー(今週は12名の質問に回答)などメルマガ全文はご購読の上お楽しみください。初月無料です ※メルマガ全体 約1.6万字)
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