もはや常識のように語られ信じ続けられてきた、「ブルーベリーは目に効く」という通説。しかしその「元ネタ」はブルーベリーではなくニンジンで、さらにそれが「とある国」が流したプロパガンダだったことをご存知でしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、そんな「噂の真相」を徹底調査。「壮大なデマ」の出どころと、その背後にあった思惑を紹介しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭のトンデモ見聞録・第373回「健康の俗説と商売~ブルーベリー編」
「ブルーベリーは目にいい」は本当か。健康の俗説と商売
25年近く前、社会人になって間もない頃のこと。知人から「尊敬する先輩が、大きなイベントに関わっているから一緒に行かない?」と誘われたことがあった。内容を聞いても「とにかくすごいビッグイベントらしい」としかわからなかったが、ほかにも何人か誘っているというので、付き合いで参加することにした。
会場は横浜アリーナ、何万という老若男女が最寄り駅周辺にあふれかえっていた。人の波に合わせて歩いていくと、やがてゲートが「会員の方」「非会員の方」という2股に分かれている。
「会員?私たちは非会員……だよね?」など不安を覚えながら進んでいくと、スタンド席に案内された。アリーナ中央のステージには、金色の大きな箱が置いてある。
しばらくすると会場が暗転して、超大音量で映画「地獄の黙示録」の挿入曲、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れはじめた。金色の箱にはスポットライトが当たり、レーザービームによってますます存在感を示しはじめる。わくわくした。
やがて、箱のまわりに白いスモークがもくもくと立ち込め、楽曲が最高潮に達するあたりで、箱がパカーンと2つに割れた。
おおおっというどよめきとともに会場の視線を一心に集め、箱の中からライトを浴びてきらきら輝く──紫色の背広に身を包んだ正体不明のおっさんが姿を現した。
「え、誰なん?」呆気にとられたが、アリーナ席は凄まじい盛り上がりで、おっさんは拍手喝采の大歓声に包まれながら、両手を振ってステージ上を四方八方へ歩き回る。
「みなさん、ブルーベリー、飲んでますかーーーーー!!」
「いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「みなさんご一緒に……ベリー、ベリー、ブルーベリー!!」
「べりぃ、べりぃ、ぶるーべりいぃ!!」
なんですかこれは。ロックのライブなのか、新興宗教の集会なのか。判別不能の熱狂が巻き起こり、初っ端から完全に取り残されてしまう。呆然と眺めていると、はじまったのは、紫色のおっさんが経営する会社の商品、ブルーベリーのサプリメントを大絶賛する会であった。
ブルーベリーにはいかに素晴らしい効能があるか、この数年でどれほどの売り上げを達成しているのか、これからどれほどのブームになるのかなどの演説があり、アリーナ席の観客はテンションアゲ♂アゲ♂、紫色のおっさんとのコール&レスポンスで盛り上がっている。
最初は意味がわからなかったが、どうやら、アリーナ席に座っているのは「会員」の人たちで、ブルーベリーのサプリメントを愛用しているだけでなく、友人知人を介して販売するマルチ商法にも寄与しているらしかった。
次から次へとサプリメントの愛用者が登壇し、「疲労から解放されて家庭内が穏やかになった」「目がよくなった」「このサプリメントで人生が変わった」というような体験談が披露される。
さらには、「失明した目に光を感じるようになった」「母の痴呆が治った」「がんが治った」などなど“奇跡体験”を語りながら、涙を流してサプリメントに感謝する老人たちも登場。
脳内に残り続けた「ブルーベリーは目にいい」という主張
典型的な誇張と思い込みの連発としか感じられないのだが、ダメ押しするかのように、著名なプロレスラーの親族が「元気ですかーーっ!」と登場して、ブルーベリーを褒めたたえるので、会場はものすごい高揚感に包まれていた。
効能が称えられたあとは、販売面で大貢献している「会員」らが次々と登場。「平凡だった自分がいかにビッグになれたか」を語りつくしていた。
「とにかくすごいビッグイベント」という勧誘に騙されて、横浜アリーナまでのこのこ来てしまった私たち「非会員」には、完全なる無の表情の人あり、疲労感で失笑している人あり、とりあえずパラパラと拍手してみる人あり、のめり込んで聞いている人あり、反応はいろいろだった。
その後、ゲートを抜けて会場を出るまでに何度か勧誘攻勢を受けた気はするが、うんざりし切っていたこと以外はあまり記憶にない。私を誘った知人とは、それ以来、縁が切れた。
このイベントで聞いた話は、すべて誇張証言かウソだったとわかっているのだが、ただ「ブルーベリーは目にいい」という点だけは、1点の真実のように思えて脳内に残り続け、その後の人生で、ブルーベリーに対する好感度を高めることになった。
実際、少しの渋みとつぶつぶ感のある甘酸っぱい味が好きだし、濃い紫色をした小さな果実は、見た目も希少なものに感じて魅力的だ。ジャムと言えば、圧倒的にブルーベリー派である。
さらに、「ブルーベリーは目にいい」をアピールするサプリメントは、現在まで複数の健康食品会社から販売されており、スーパーやドラッグストアに行けば、当たり前のように売られている。
「ブルーベリーは目にいい」という話は、多くの人が一度は聞いたことのあるレベルにまで知られているだろう。
「ブルーベリーが目にいい伝説」に登場する「猫目のカニンガム」
現在、流通しているブルーベリーの解説は、次のようなものだ。
ブルーベリーに含まれるポリフェノールの一種「アントシアニン」には強い抗酸化作用があり、血流を促進し、目の筋肉の緊張をほぐす効果、眼病予防効果が期待される。アントシアニンは、網膜の光受容タンパク質「ロドプシン」の合成を助ける働きがある。
ビタミンAも豊富に含んでおり、目を乾燥から守り、薄暗い場所に目が慣れやすくなる効果も期待できる。
科学用語を使って、それらしく説明されているのだが、以前は、次のような説がよく添えられていた。
第二次世界大戦中、高い勝率をおさめていたイギリス空軍に、ジョン・カニンガムという夜間戦闘機のパイロットがいた。彼は、ビルベリー(ブルーベリーの仲間)のジャムを毎日食べていたことで、夜目が効くようになり、敵の飛行機を見逃さない大活躍をおさめ、「猫目のカニンガム」とまで呼ばれるようになった。
イギリス空軍ではなく、アメリカ空軍とされたケースもあるようだが、大体このような夜間パイロットの話がきっかけで、ブルーベリーの効能が注目されるようになった──とされている。
ところが、この話の原典にあたろうとすると、「猫目のカニンガム」という話そのものが、完全なデマだったという事実に突き当たるのである。
そもそも「ブルーベリー」ではなく「ニンジン」という衝撃
イギリス空軍が、夜間の空中戦を得意としていたのは事実らしいが、当時は、ビルベリー(ブルーベリー)ではなく、「ニンジンの効能」であるとされていた。
過去の戦争では、ビタミンAを含む食材を他国に供出して枯渇させたことで、国内の子供に眼病が多発した国が複数あり、経験則からも「ビタミンAは目に重要」とわかっていた。ニンジンには、ビタミンAの前駆体であるカロテンが豊富に含まれており、「たくさん食べれば夜目が強くなる」という説につながったのだ。
当時のイギリス軍部は、ポスターを制作して、「ニンジンを食え」と推進している。
灯火管制によって町は真っ暗、そのために一般市民にも「ニンジンは目にいい」が広められていた。
イギリスだけでなく、当時は、世界的に「ビタミンAを大量摂取すれば夜間視力が向上する」という説が信じられていて、日本軍も夜間防空用として「み号剤」という肝油由来のビタミン剤を服用していた。
イギリス政府のウソだった「ニンジンで夜間視力向上」説
ところが、世界を席巻した「ニンジンで夜間視力向上」という話、実は、イギリス政府が広めたデマだった。ビタミンAが重要であるのに変わりはないが、だからと言って、パイロットがニンジンを大量に食べたという事実はなかったのだ。
実は、ドイツの攻撃で食糧輸入が激減したイギリスでは、深刻な食糧不足に直面していた。そこで目を付けたのが、栽培が簡単で、保存がきくニンジンだったのである。
それまで家畜の飼料でしかなかったニンジンを人々に食べさせるために、「ニンジンを死ぬほど食べているから、わが空軍のパイロットは夜間空襲でも成功したのだ」というデマを流し、プロパガンダポスターを制作。
エースパイロットだったカニンガムを「猫目のカニンガム」として祭り上げ、「ドクター・キャロット」というキャラクターを作って活躍させたほか、「Dig for Victory(勝利のために耕せ)」というキャンペーンを張って、庭や公園、空き地を耕してニンジンを栽培させる国民運動を起こした。
実際には、ニンジンをたくさん食べても夜目がきくようにはならない。ただ、ビタミンA不足は、鳥目(夜盲症)を引き起こす原因になる。それに、国民の栄養状態改善のためにはニンジンにすがるしかない。完全なウソではないが、壮大なデマなのだ。
これによって、ニンジンは家畜の飼料から、国民を救う英雄となった。
だが、そこまでしてニンジン1を盛り上げまくった裏側には、重大な秘密が隠されていた。
そもそもイギリス空軍が夜間戦に強かったのは、パイロットの夜目ではなく、当時最新鋭だった航空用レーダーや、赤色照明を他国に先駆けて搭載していたからだった。当然、そのことをドイツに悟られてはならない。
「ニンジンは目にいい」は、戦争に勝つための重要な撹乱作戦でもあったのだ。
ニンジンをブルーベリーにすり替えた戦後ニッポン
このような事情で、戦中・戦後まもなくは「ニンジンは目にいい」が一般的に広まっていたはずなのだが、日本では、いつの間にか「猫目のカニンガム伝説」はそのままに、肝心の食材がすり替わって、「ブルーベリーは目にいい」という話に代わってしまう。
日本のブルーベリーの歴史を紐解くと――(メルマガ『小林よしのりライジング』2025年9月16日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)
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