日韓のみならず「当事国以外」のメディアでも報じられた、韓国の特別検察による旧統一教会の総裁・韓鶴子氏への逮捕状請求。日本では教団解散への手続きが着々と進んでいますが、事態は今後どのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』では長く同教団と対峙してきた有田さんが、現時点までの日韓両国における事実関係を整理し解説。さらに“統一教会包囲網”がこれまで以上に狭まる可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:統一教会総本山の激震と日本の教団解散へ(上) 韓鶴子総裁へ逮捕状請求の衝撃と日本教団の行方(下)
旧統一教会の総裁に逮捕状請求。日本人信者からの献金の行方、日韓両国での政治関与疑惑、進む教団解散の流れ
9月15日、韓国の特別検察によって統一教会の韓鶴子総裁の召喚が行われる。韓総裁は文鮮明教祖(2012年に92歳で逝去)の妻だ。
これまで検察から召喚があったものの、健康上の理由(心臓疾患)で拒否、病院に入ったものの、退院後に再び11日を指定して呼び出しが行われた。特別検察は逮捕状の請求に言及。それに対して韓鶴子側は、15日を指定、検察がそれを認めたという経過だ。
韓鶴子総裁が召喚を受けても逮捕の可能性は消えていない。日本でも政治問題になってきた統一教会にとって、1954年の創立以来71年にして最大の危機である。何が起きているのか。
韓国検察(ソウル南部地検)は、尹錫悦前大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)氏が旧統一教会の元幹部から高級ブランドバッグやダイヤモンドネックレス(総額約850万円相当)を受け取った疑惑を捜査してきた。これが教団のメコン川での事業支援や大統領就任式参加への便宜供与の見返りだった可能性を指摘、関係者の捜査を続けてきた。韓鶴子総裁は、この金品授受の首謀者として出国禁止処分を受け、参考人聴取の対象になっていた。
韓国からの情報では非公開を条件にすでに事情聴取が行われたという。検察は総裁の立件可能性も排除せず、11日午前から世界平和統一家庭連合世界本部の5つの地区や天宙平和連合の事務所、統一教会青坡洞事務所など7か所の家宅捜索を行なった。
教団ナンバー2ですでに逮捕、起訴された尹英鎬(ユンヨンホ)氏が金建希氏に贈り物を渡したのは「すべて総裁の指示」と供述しており、教団ぐるみの関与が追及されている。
尹前大統領夫妻の疑惑を担当する特別検察チームが発足したのは2025年7月だ。統一教会本部(京畿道加平郡の天正宮に韓鶴子総裁の住居があり、研修施設も多く日本の信者たちも定期的に訪問している)をすでに家宅捜索。そのとき韓総裁は検察官を怒鳴ったことなども伝えられている。
特別検察は総裁の部屋にあった金庫から韓国ウォン、ドル、日本円の現金や貴金属を大量に発見した。ここから日本人信者の献金が不正に使われた疑いが浮上してきた。
文鮮明時代から漁業や射撃などの「趣味産業」を事業化してきた教団だ。カジノも教祖の趣味で、韓鶴子総裁もしばしばラスベガスでカジノに興じてきたことは『週刊文春』がしばしば報じてきた。2008年から2011年に韓鶴子総裁ら教団幹部12人がラスベガスのカジノで約600億ウォン(約64億円)を費やした疑惑だ。日本人信者が12億円を運んだとの証言もある(石井謙一郎〈『「週刊文春」vs統一教会の30年』参照)。日本人信者からの献金をカジノ資金として使用したのではないか。
公訴時効は15年。尹前政権の側近である権性東(「国民の声」)議員が警察の捜査情報を教団に漏らし、捜査を中断させた可能性も捜査対象になっている。政治資金法違反と請託の疑いもある。教団が尹錫悦大統領選支援のため1億ウォンを提供した疑いだ。韓国で進んでいる統一教会への捜査は、日本の統一教会問題にも波及する可能性がある。
押収された韓鶴子総裁からの多数の「指示メール」
韓国の特別検察官は18日、請託禁止法違反などの容疑で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の韓鶴子総裁(82)の逮捕状を請求した。裁判所は22日に逮捕状発付の可否を決める本人を呼び出して審査を実施する。
韓国の前大統領夫人へのネックレスなどの供与など尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領夫妻への政治工作、与党だった「国民の力」の権性東議員への金銭授受疑惑など、統一教会総本山の韓鶴子総裁への捜査が進展している。
教団のナンバー2だった尹英鎬(ユン・ヨンホ)前世界本部長の逮捕に続いて、教団に便宜を計ってきたと見られる権性東(クオン・ソンドン)議員も逮捕された。
特別検察の3度の事情聴取を拒否していた韓鶴子総裁は、9月18日朝10時についに出頭、休憩をふくめて9時間半も検察庁舎に滞在した。総裁は容疑を全面否認。そのため検察は逮捕状を請求、容疑を否認しているため身柄が拘束され、起訴される流れがありうる。
韓鶴子総裁は、統一教会の文鮮明教祖の2番目の妻として17歳のときに結婚。文との間に14人の子どもがいる。2人は教団内で「真(まこと)の御父母様」と呼ばれてきた。
2012年9月に文鮮明教祖が92歳で亡くなると、教団は大きく3つに分裂。韓鶴子総裁は、自分は祖母、母、自分の3代にわたって女性の系譜をひき、生まれたときから「天の独生女」であり、結婚することで、文鮮明教祖の原罪を拭ったと主張。
教団のそれまでの教えをくつがえす内容だが、古参信者たちは「おかしい」と思いながら、宗教ゆえに、求心力を保っている。韓国と日本の教団は韓鶴子総裁が支配、いまに至っている。
韓国の捜査の行方が逮捕なのか在宅起訴なのか。本稿執筆時点では不明だ。しかし特別検察は前大統領夫人への供与、国会議員への贈与などの原資が何かを解明していくことになる。
尹英鎬(ユン・ヨンホ)前世界本部長はトラック2台分の教団資料を持ち出したという。韓鶴子総裁からの多数の指示メールも押収された。
核心は日本の信者の献金などからどれだけの送金が韓国本部になされていたかである。韓鶴子総裁が文鮮明教祖と同じようにラスベガスでカジノに興じていたことはよく知られている。日本人信者たちが現金12億円をラスベガスに運んだと『週刊文春』は報じた。
資金の流れはこれまでに内部資料の流出などでその一端が明らかになっていた。1975年7月に文鮮明教祖が送金命令を発し、10年間に約2,000億円が送られたという元幹部の証言もある。安倍晋三銃撃事件以降は送金がとまったとされるが実態は不明だ。
韓鶴子総裁と教団への捜査がこの問題に鋭いメスを入れる可能性がある。それは日韓の長い教団関係の実態解明に結びついていく。韓国の教団本部は、7月18日に家宅捜索が行われたことについて7月24日になって声明を発表、不当だと次のように糾弾した。
2025年7月18日、世界平和統一家庭連合(統一教会)を対象に、「キム・ゴンヒとミョン・テギュン・ゴンジン法師に関連する国政介入および違法な選挙介入事件等の真相究明のための特別検察官チーム」が実施した家宅捜索に対し、家庭連合本部と世界194カ国の1,000万信徒は強い遺憾の意を表明するものです。
韓鶴子総裁への検察捜査へのコメントは9月19日現在で出されていない。22日の司法判断の結果を踏まえて見解を出すのだろう。
止まらぬ解散の流れ。それでも当局の不当を訴える信者の哀れ
9月3日10時半から12時まで、文部科学省6階の第2講堂で「指定宗教法人の清算に係る指針検討会(第3回)」が開催された。そこで「指針案」(A4版9ページ)がまとめられた。10月5日までパブリックコメントが求められ、そのうえで大臣が「指針」を決定する。これで東京高裁が統一教会の解散を決定すれば、この指針に基づいて清算手続きが進んでいくことになる。おそらく10月から11月が予想される。
10月28日には安倍晋三銃撃事件で山上徹也被告の第1回公判が奈良地裁で開かれ、2026年1月ごろに判決言い渡しが行われる方向だ。いま教団信者たちは全国で解散は不当だとする集会を開いている。国会前や東京高裁前をはじめとして街頭でも行動を続けている。
しかし解散の流れは変わらない。70年の歴史でさまざまな社会問題を起こしてきた統一教会。韓国でも日本でも組織の激震が続く。
(本記事は有料メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2025年9月12日・19日号の一部抜粋です。旧統一教会や北朝鮮拉致問題を長きに渡り追い続けてきた有田さんだからこそ知りうる「内部情報」満載の記事をお読みになりたい方は、初月無料の定期購読にご登録の上お楽しみください。このほか、1ヶ月単位でバックナンバーもご購入いただけます)
【関連】カルト教団相手でも暴挙は暴挙。自民が支持率UPのため参院選前に「統一教会顧問弁護士でっち上げ逮捕」画策の無法
【関連】トランプが旧統一教会とベッタリ癒着これだけの動かぬ証拠。すでに石破首相へ「解散命令の取り消し」を指示済みか?
【関連】【精神科医・和田秀樹】「旧統一教会の“日本弱体化計画”は今も続いている」国民の学力低下、バカの増加が霊感商法より怖い理由
この記事の著者・有田芳生さんのメルマガ
初月無料購読ですぐ読める! 9月配信済みバックナンバー
- 韓鶴子総裁へ逮捕状請求の衝撃と日本教団の行方(下)/有田芳生の「酔醒漫録」第132号(9/19)
- 統一教会総本山の激震と日本の教団解散へ(上)/有田芳生の「酔醒漫録」第131号(9/12)
- 参政党の「スパイ防止法」その源流を暴く(下)/有田芳生の「酔醒漫録」第130号(9/5)
- 【お知らせ】第130号は土曜日に配信します。/有田芳生の「酔醒漫録」(9/5)
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
※ 初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
- 参政党の「スパイ防止法」その源流を暴く(中)/有田芳生の「酔醒漫録」第129号(8/22)
- 参政党の「スパイ防止法」その源流を暴く(上)/有田芳生の「酔醒漫録」第128号(8/15)
- 北朝鮮に連絡事務所を置く構想への無理解/有田芳生の「酔醒漫録」第127号(8/8)
- トランプ大統領の10月訪朝計画は実現するか/有田芳生の「酔醒漫録」第126号(8/1)
- 参院選選挙が示す「新しい冬の時代」/有田芳生の「酔醒漫録」第125号(7/25)
- クルドの土地を歩いて日本の入管調査のウソを知った(下)/有田芳生の「酔醒漫録」第124号(7/18)
- クルド問題の平和的解決への国際会議ーその意義(上)/有田芳生の「酔醒漫録」第123号(7/11)
- 日本共産党は再生できるか(下)/有田芳生の「酔醒漫録」第122号(7/4)
- 日本共産党は再生できるか(中)/有田芳生の「酔醒漫録」第121号(6/27)
- 日本共産党は再生できるか(上)/有田芳生の「酔醒漫録」第120号(6/20)
- 北朝鮮はなぜ日本政府を相手にしなくなったのか/有田芳生の「酔醒漫録」第119号(6/13)
- 北朝鮮拉致問題で隠された真相/有田芳生の「酔醒漫録」第118号(6/6)
image by: Unification Church Hungary, CC0 1.0, via Wikimedia Commons