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高市早苗の戦略にしてやられた“首相候補”。玉木雄一郎の人気が一気に急落した「決断力のなさ」だけではない理由

トランプ大統領との初会談を成功裏にこなし、若年層からの支持率も上々な高市新首相。一方で、一時は野党連合の「首相候補」と目されながらもいざという場面で腰が引け、結果的に何一つ成果を得られなかった国民民主党の玉木雄一郎代表。一体何がこの明暗を分けたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、高市氏による“野党政策パクリ”とも言うべき戦略を詳しく分析するとともに、玉木氏の人気急落の原因を考察。その上で、安倍政治の再来を思わせる高市政権の「危うい手法」に対する懸念を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市式「政策パクリ」戦略で影が薄くなった国民・玉木代表

高市式「政策パクリ」戦略に轟沈。有権者に見放された玉木雄一郎の憂鬱

並みいるオッサン政治家たちを前に、「高市早苗 奈良の女です 大和の国で育ちました」と仁義を切り、笑顔を一転、ニラミをきかして「ここで一発、自民党に 背骨を入れ直します」と啖呵を切る。

その愛嬌、度胸、凄み。芝居じみてはいるが、かっこいい。高市首相が率いる新政権の支持率は、歴代にくらべてダントツというわけにはいかないが、高い方の部類に入る。30歳までの若い男性に人気だという理由もわからぬではない。頼りになるオバサマ、という感じがするのだろう。

中国の圧迫にどう立ち向かうのか。ロシアや北朝鮮にもなめられている。弱い日本を強い日本に変えてほしい。そんな空気が充満しているこの時代に、高市氏はマッチしているのかもしれない。

かつて政治は、新聞とテレビがつくる世界だった。いまは違う。X(旧Twitter)やYouTube、TikTok上で切り取られた言葉が、世論を動かす。

「毅然と中国に立ち向かう首相」

「男に負けないリーダー」

そんな短いフレーズが、バズを生み、共感を広げる。高市氏は、その構造を理解している。一言の強さ、笑顔の力、怒りの使い方。それらを計算しながら、“戦う女”を演じている。

脚光を浴びる高市首相の陰にかくれてしまったのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。若い男性を中心に熱烈な支持を集めていたが、政党支持率が急激に落下しているところをみると、いっせいに波が引きはじめた感がある。

一度は総理をうかがう立場にいたのに腰が定まらず、日本維新の会の連立入りですべて水の泡になってしまった。いざというときの「決断力のなさ」。見ていて情けなかった。だが、それだけではない。高市氏の戦略に、してやられたのだ。

高市氏の政治手法は安倍晋三元首相にならっている。経済政策を前面に打ち出して一般受けをねらいつつ、保守思想の色濃い政策を進めていく。物価高対策に最優先で取り組むと所信表明演説で言明したのもそのためだ。

そのさい、自民党が公約した給付金については「国民の皆様の御理解が得られなかったことから、実施しません」とあっさりひっこめた。代わりに提示したのが、国民民主党など野党が主張してきた政策である。

「ガソリン税の暫定税率については今国会での廃止法案の成立を期します。軽油引取税の暫定税率も、早期の廃止を目指します」

「いわゆる103万円の壁については、今年の年末調整では160万円まで対応することといたしますが、基礎控除を物価に連動した形で更に引き上げる税制措置について、真摯に議論を進めます」

ガソリンの暫定税率廃止は、石破政権下で与野党がほぼ合意に達していた。それを引き継ぐだけのことだ。「年収103万円の壁」についても、新しい要素は一つもない。石破政権においてすでに、年収200万円以下という条件付きで160万円に引き上げられることになっていた。むろん所得制限なしに178万円に引き上げるよう求めてきた国民民主党は「これでは低所得者対策にすぎない。中間層も入る形で引き上げるべきだ」と不満を隠していない。

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高市首相が逆手に取った国民民主党の「ためらい」

それでも高市首相は、石破政権ができなかったことでも自分ならやれるというイメージを演説の基調とした。野党の政策を全面的に受け入れるかのような姿勢は、とりわけ国民民主党には痛手となった。

国民民主の看板政策「年収103万円の壁」は、財源がないとして反対する財務省の言いなりになった自民党が渋っていたからこそ、評判を高める方向に働いた。党勢の拡大期にある国民民主が、高市政権からの連立ラブコールに応じるのをためらったのは、そうしたポジションを捨てたくないからでもあった。

高市首相はそれを逆手にとった。自民税調の“ラスボス”といわれた宮沢洋一会長を交代させ、財務省をねじ伏せてでも人々の生活を救う姿勢を示した。一見、国民民主の味方のような素振りではあるが、国民民主の看板政策と“同一化”することによって、その存在を打ち消してしまったともいえる。政権入りに二の足を踏む相手に対し、「そっちがやらないのならこっちがやる」と政策のパクリを正当化した面もあるだろう。

高市首相は国民民主や参政党に流れた自民党支持者を取り戻す使命を帯びている。そのための政策“一体化”戦略が、昨今の政党支持率を見る限り、成功しているようだ。

ご祝儀相場もあるとはいえ、予想を超える高市人気は、自民党内に「早期衆院解散」への期待感を広げている。支持率が高いままなら解散総選挙を打って、単独過半数を狙いたいだろう。少数与党でなくなれば、連立相手の維新にも強気に対処できる。だがそのために、大枚の税金を使ってたびたび選挙をやられては、国民はたまったもんじゃない。

それにやっぱり、教育勅語を信奉する高市氏の思想信条は大いに気になるところだ。安倍元首相が教育基本法を改正し「父母は子の教育に第一義的責任を有する」としたことについて、GHQによって破壊された教育勅語の精神を復活させる第一歩として評価するという趣旨の記述が高市氏の著作物などに散見される。

教育勅語は、天皇を中心とした国家への絶対忠誠を国民に求める文書だ。「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ」などの文言は、戦時動員の精神的根拠とされた。首相になった今、現行憲法と相容れない教育勅語について高市氏はどう考えるのだろうか。

国家運営はバランスが肝心である。力と力が均衡しているからこそ世界は破滅を免れている。富める国、強い国、世界のリーダーとなる国にしたい。政治を志す者なら誰しもそう思うだろう。

高市氏が恩知らずの中国を警戒し、親日国である台湾との友好を重視する気持ちはよくわかる。スパイの暗躍を防止し、防衛力を強化し、経済安保に力を入れるその政策も理解できる。

ただ、軍部が天皇の統帥権を振りかざして暴走し、国粋主義に国全体が浮かれ、政治が無力化した過去の日本の歴史を振り返ると、民主主義の健全性というものは決して失ってはならないと思う。

高市氏は「穏健保守」を自称するが、戦後の歴史認識を「自虐史観」と批判し、周辺国への強硬論を唱えてきたのは事実だ。強いリーダーを求める世論は、しばしば“異論を許さない空気”を生み出す。それは民主主義にとって危険な兆候である。強さを信じるあまり、寛容さを失えば、「強い日本」は「狭い日本」へと変わってしまう。

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第二次安倍政権とそっくりな「高市官邸」の布陣

高市首相が保守層を引きつけているのは、「安倍政治への回帰」が感じられるからであろう。官邸の布陣は第二次安倍政権とそっくりだ。筆頭首相秘書官に前経済産業次官の飯田祐二氏、事務担当の官房副長官に露木康浩・前警察庁長官をあてた。安倍元首相も筆頭首相秘書官に経産省出身の今井尚哉氏、事務の官房副長官に杉田和博氏というコワモテの側近を置き、長期にわたり強権支配を続けた。

しかし、「一強」だった安倍元首相を真似たからといって、同じようにできるとは限らない。要求の多い維新との「少数与党」であるうえ、キングメーカー・麻生太郎氏がにらみをきかしているのだ。

来日したトランプ米大統領に笑顔をふりまき、高市外交は順調な滑り出しをしたように見える。「シンゾー」の思い出話もあり、トランプ氏は終始、上機嫌だったようだ。日米が「蜜月関係」になるのはいいことに違いない。だがこの調子では、さらなる日本側の経済的な負担増を覚悟しておかねばならないかも…。

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image by: 国民民主党公式サイト

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