MAG2 NEWS MENU

結局ダメージを受けるのは米国。イラン戦争の一時停戦ならずとも中国のイメージに傷がつかないこれだけの理由

パキスタンで行われた停戦交渉も不発に終わり、見通しの立たない状況が続くイラン戦争。軍事衝突の長期化も懸念される中、その裏側では各国の思惑が複雑に絡み合い、水面下で「外交戦」も展開されているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、中国が交渉実現に向け果たした役割と中東でのプレゼンス拡大の実態を解説。さらに行き詰まりを見せるトランプ政権の実情と、中国が同地域で獲得した信頼や影響力の意味について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:米・イランの一時停戦の裏側で動いた中国が中東で獲得したもの

米・イランの一時停戦の裏側で動いた中国が中東で獲得したもの

アメリカとイランがパキスタンで行った4月11日の交渉は世界の期待とは裏腹に折衷点を見いだすことはできなかった。

思い返せば4月7日夜、アメリカのドナルド・トランプ大統領は自らのソーシャルメディアで、イランがホルムズ海峡の航行を認めれば、2週間の停戦が実現すると発表した。

エネルギーを中東地域に依存する国々は停戦という言葉の響きに喜び、株式市場も大きく値を上げた。

しかし、トランプ大統領の発信に反応した国や人々は間もなく、この地域の問題の根深さや合意に絡むアメリカとイスラエル、そしてイランが抱える複雑な思惑が容易には一致しない現実を思い知ることとなった。

一時停戦の提案はアメリカがイラン攻撃で撃ち尽くしたパトリオットミサイルやトマホークミサイルの補充をするための時間稼ぎとイラン側は警戒する。

だがトランプ大統領は国内の支持層の離反やインフレへの懸念を意識して停戦には前向きだとも伝えられる。

そのトランプ大統領は今回イランが停戦交渉に応じた背景に「中国の働きかけがあった」との認識を示している。中国の仲介については、交渉の前面に立ったパキスタンのメディアやアメリカのメディアも伝えている。

米『ニューヨーク・タイムズ』は記事「36時間の混乱:イランにおける停戦への駆け引き」の中で、パキスタン、トルコ、エジプト、カタールなどもイランに接触したが、「最終的には中国が行き詰まりを打破した」と報じている。

つまり中国が最後の一押しをしたというのだ。

ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官も「米中両国の高官レベルで様々な対話が行われた」と認めた上で「大統領は習近平国家主席を深く尊敬しており、素晴らしい実務関係を築いている。数週間以内となった訪中を楽しみにしている」(香港のテレビ『TVB』)と語ったという。

2月28日にアメリカとイスラエルがイランを攻撃すると、中国はすかさずアメリカとイスラエルの行為を「国際法違反」だと強く非難した。国際法上、他国への武力行使が認められるのは「自衛権の行使」または「安保理による認可」がある場合に限られるが、今回の攻撃がいずれにも該当しない「一方的な武力行使」だという立場だからだ。

そのためイラン戦争における中国の立ち位置は、アメリカやイスラエルと敵対する立場だと考えられがちだ。そのためイランへの攻撃があたかも中国へのダメージでもあるかのような解説も横行した。

だが今回の停戦に向けた立ち回りこそ、本来の中国のポジションといえるだろう。

日本では、「イランを守れなかったことで、中国が大きなダメージを負った」などという的外れな解説がまかり通っているようだが、それであればトランプ大統領が中国に感謝することはない。

いずれにせよ注目は、中国の動きが奏功したことだ。この交渉の裏側には、J・D・バンス副大統領も認めているようにトランプ大統領の焦りがあった。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

そもそもこの戦争は『ニューヨーク・タイムズ』の記事「トランプはいかにしてアメリカを対イラン戦争へと導いたのか」にあるように、イスラエルの提案にアメリカが乗せられたのが真相のようだ。

そして米情報機関の高官らが「現実離れしている」と首を傾げ、マルコ・ルビオ国務長官も「デタラメ」と吐き捨てたイスラエルの計画は、当初の見込み通りには進まず、短期決着も政権転換も起きなかったのだ。

この時点でトランプ政権は完全に出口を見失ってしまったのである。

トランプ大統領は「どんな形でもいいから、勝ったように見えるディールを今すぐ持ってこい」とホワイトハウスで叫んだとも伝えられている。

中国が仲介外交をフル稼働させたのは、そうした行き詰まりの裏側でのことだ。

2月28日以降、王毅(中国共産党中央政治局委員兼外交部部長)は16ヶ国の外相や要人との間で20回にわたる電話会談を行い、さらに4度にわたる対面での会談をこなしたとされる。中国中東問題特使も中東地域を飛び回った。

そして最終的に中国とパキスタンとの間で「5項目のイニシアティブ」を共同で発表するに至ったのだ。

今回の一時停戦への働きかけで、中国は中東地域におけるプレゼンスの拡大と信頼の獲得に成功したと考えられている。

その理由の一つは、言うまでもなく同地域に平和をもたらそうとした努力への信頼だが、それだけではない。具体的には「イランに対して説得の言葉を持つ国」としての存在感だ。

またアラブの実力国としてのエジプトとの風通しの良いコミュニケーションだ。3月25日に王毅氏はエジプトのバドル・アブデルアーティー外相と電話会談を行い、直後に中国は「平和への一筋の曙光が見えてきた」と発信している。

そして見落とせないのはサウジアラビア及び湾岸諸国との関係だ。

いずれの国もアメリカとの関係が強いことで知られるが、今回はそれゆえに米軍基地を国内に抱えるデメリットを痛感することとなった。アメリカとの関係は重要だが、対米関係の強化がかえって自国を脅威にさらすという「巻き込まれ」が可視化されてしまったからだ。

今回の一時停戦が崩れれば、アメリカにはダメージとなるが、一貫して平和回復の姿勢を示し続けた中国のイメージが傷つくことはない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年4月12日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Below the Sky / Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け