中東やウクライナをはじめ、世界各地で頻発する軍事衝突。その背景には、単なる安全保障や資源争奪にとどまらない「回避しがたい衝動」が存在しているという見方もあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、「レコンギスタ」という概念を軸に3大国をはじめとする主要国家の行動原理を分析。その上で中東情勢の混迷や各国の思惑、さらに今後の国際秩序の行方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:失地回復を目指すそれぞれの思惑がぶつかり合う国際情勢
なぜ大国は戦争を引き起こすのか。失地回復を目指すそれぞれの思惑がぶつかり合う国際情勢
【レコンギスタ】
訳すると「失地回復」となりますが、これは元々、中世のヨーロッパで、イスラム教徒に占領された南欧イベリア半島の奪還を目指すキリスト教徒の失地回復運動を指し、政治学などでは「既存の態勢や秩序を打破し、過去の栄光を取り戻そうとする場合」にも用いられます。
今週、Multilateral Mediation Initiativeの仲間と現在の国際情勢について話した際、メンバーの一人が「今、世界で起きている様々な戦争や紛争は、レコンギスタを目的に行われているのではないか」という大きな問いを発したことと、たまたま手に取った本(川北省吾 著『新書 世界現代史-なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』)においてもレコンギスタ(本の中ではレコンキスタと表記)を軸に現在の大国の行動を読み解く試みがなされていたことから、今週号の一つの軸としてレコンギスタというコンセプトを据えて、私なりの見解をお話ししてみたいと思います。
このメルマガではアメリカ・ロシア・中国を3大国として扱ってきましたが、まずはレコンギスタとこの3大国の行動について見てみます。
ロシアについては、プーチン大統領が掲げる“大ロシア帝国の再興”に基づく一連の動きがこのレコンギスタに当たります。
2000年から25年以上にわたり大統領・首相の座にあり、ロシアの実質的な“独裁者”となったプーチン大統領は、就任当初は欧米諸国と友好的な姿勢を取ることで、NATOの東進を食い止め、新しい時代を作っていくことを目指していたようですが、ロシアがソビエト連邦崩壊のショックから立ち直ろうと苦慮している間に、欧米諸国は“ロシアとの約束”を違えて、東欧諸国およびバルト三国をNATOに吸収し、実質的に東進を図ってロシアにプレッシャーをかける行動に出ました。
それを受けて“欧米諸国はあてにならない”と確信したプーチン大統領は、欧米諸国に奪われた旧ソ連領を取り戻すべく、まさに失地回復のための戦いに挑むようになります。それが2014年のクリミア半島の併合から、現在のロシア・ウクライナ戦争に繋がる系譜であり、また南オセチアやチェチェン共和国への侵攻、バルト三国を裏切り者と定義してプレッシャーをかけ続ける方針に繋がっていると考えられます。
そこにコロナ禍のロックダウン時に誰にも会わない孤独な時間が重なり、その間にロシア帝国時代の統治や思想にどっぷりと浸かったことが、今、堅持する大ロシア帝国の復興・再興という認識に繋がったと言われています。
今、大ロシア帝国に足りない部分こそが、プーチン大統領にとっての失地であり、それを取り戻すための一連の戦いで現在進行形なのが、ロシア・ウクライナ戦争といえます。
またそれは旧ソ連が誇示し、その崩壊によって失われた(奪われた)世界的な覇権という“失地”も回復しようとしています。中東地域、アフリカ、中南米地域へ影響力を拡げようとしているのも、その一環と考えることができます。
ロシア版レコンギスタが成功するかどうかは分かりませんが、混乱する国際情勢の中で着々と進められ、周辺国と欧州各国の安全を脅かしていることは確かです。
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習近平の「中華民族の偉大な復興」とトランプの「MAGAの追求」
次に中国にとってのレコンギスタですが、これは一言で言えば、習近平国家主席のモットーにもなっている「中華民族の偉大な復興」をバックボーンとして持っています。
その対象はもちろん台湾の併合による大中華帝国の統一ですが、それに付随する形で独自の勢力圏の再確立というレコンギスタで、南シナ海への影響力の拡大と、地域のライバルと目される日本や韓国への圧力の増大に繋がっていると考えられます。
歴史上、100年周期で中国における王朝は崩壊し、新たな統治体制が構築されることを繰り返すとされていますが、中華人民共和国建国100周年を迎える2049年までに、押しも押されもせぬ王朝を確立することが、習近平国家主席が掲げる中華民族の偉大なる復興であり、“初めて”100年越えの王朝を築き上げたいという野望がひしめいています。
そのためには、これまでに奪われ、失われた土地や領土などを取り戻すことが必須と考えられており、その象徴的な対象こそが台湾というわけです。
中ロによるレコンギスタが活発化した一因と考えられるのが、旧ソ連崩壊後唯一の超大国になったアメリカの外交・安全保障面での大きな方針転換といえますが、それは、クリントン政権時代から始まり、オバマ政権下で「アメリカは世界の警察官であることを止める」方針が明確に示され、実際にシリアにおいて化学兵器が用いられた際にアメリカが何もしなかったことを受けて、中ロは「何か大胆な行動を取っても、アメリカは介入しない」という確信を抱き、その後、野心の爆発が起きたと思われます(ロシアにとってのクリミア半島とウクライナ、中国に取っての南シナ海の実効支配がこれにあたります)。
この現状を受け、トランプ大統領のアメリカが目指すレコンギスタがMake America Great Again(MAGA)の追求です。
MAGAはよくアメリカ国内の雇用の確保や生産の回帰といった経済面での覇権の回復と捉えられていますが、私はこれとは別に国際的なMAGAがあると見ており、これこそがアメリカにとっておレコンギスタではないかと考えます。
ではグローバルな舞台におけるMAGAの実現とは何かですが、これは一言で言えば“世界覇権の回復”となります。今年年始のベネズエラに対する奇襲作戦と石油権益の掌握(強奪)を成功させることで、OPECプラスが握ってきたエネルギー価格のコントロールを著しく弱め、原油価格を一種の経済的な武器として用いることで、再び世界経済の覇権国家に回帰したいという思惑が強まりました。
そして2月末のイランへの大規模攻撃の実施において、そのエネルギー市場、特に原油・天然ガス市場の価格決定力という大きな力の掌握をコンプリートする算段でしたが、イランの予想をはるかに上回る反撃と報復に晒され、今、自ら開けてしまったパンドラの箱のふたを閉じる術を失っている状況です。
ただこの世界エネルギー市場の掌握という世界的覇権の回復目標は取り下げておらず、それが今、ホルムズ海峡のコントロールを巡るイランとの争いに発展しているのが、現在進行形の紛争の一つの側面です。
ちなみにイランがホルムズ海峡の支配をするのは、国際海洋法違反となりますが、アメリカが軍艦を派遣してホルムズ海峡を封鎖し、国際的な船舶の通航を妨げているのも、また立派な国際海洋法違反といえ、力を持つ国が強引に国際的な法の支配のルールを曲げている典型的な例だと思われます。
一応、きれいごととしては「悪いことをしても、アメリカが問題解決に打って出て来なくなったと思わせる状況を打破し、再び世界のパワーハウスへ回帰する」というレコンギスタが挙げられますが、明らかにイスラエルに肩入れして、イスラエルによる非人道的行為を黙認しながら、反イスラエル勢力をこき下ろし、武力と経済力で脅す行為をアメリカが繰り返す限り、アメリカの覇権国としてのクレディビリティは永遠に失われることになると考えますが、それにトランプ大統領も政権幹部も、そしてアメリカ国民も気づいているかは不明です。
2千年にもわたるイスラエルの「レコンギスタの歴史」
では他の国々・地域はどうでしょうか?
レコンギスタといえば、まず思い浮かぶのが“イスラエル”ではないかと思います。出エジプトに端を発する“国を持たない”流浪の民の2,000年にわたる歴史は、まさにレコンギスタの歴史と言え、1948年に欧米の助けを受けて神に与えられし土地における神の国“イスラエル”の建国に至ります。
イスラエルにとってこの国はまさに生存のアイデンティティともいえ、その存続と生存を脅かすものに対して、非常に激しい攻撃性(防衛反応ともいう)を示すのが特徴です。
長い年月をかけて失われたユダヤ人の国家を回復したのがイスラエルであり、イスラエルの極右勢力や正統派ユダヤ教徒曰く、「今もまだイスラエルは失地回復の真っ只中におり、まだその仕事を完遂できていない」という考えが色濃く影響しているようです。
ゆえに、ハマス掃討を理由にしたガザ地区への攻撃と占拠、ユダヤ人入植地の拡大を通じて進めるヨルダン川西岸地区の実効支配も、そして聖地エルサレムのユダヤ化(イスラム教やキリスト教の聖地でもあるが)を進める理由に失地回復が用いられ、生存の脅威の除去という目的と共に、失地回復を理由としたレバノンやシリアへの侵攻も正当化されているように感じます。
対イラン攻撃が国民に支持され、ハマス掃討作戦やヒズボラ掃討作戦などが、イスラエル国民の間で一定の支持を集める背景には、ユダヤ特有の思考と認識が存在するのではないかと、深く話を聞くごとに意識するようになってきています。正しいかどうかは、分かりませんが。
ではイランはどうでしょうか?あえてレコンギスタ的な見方をするならば、ペルシャ帝国への慕情(世界強国への復帰を切望する)でしょうか。
1978年のイスラム革命によって、パーレビ王朝は打倒され、その後、宗教指導者による統治が行われていますが、今回の米との和平協議に際してペゼシュキアン大統領が触れたように“ペルシャ帝国・文化への親しみと誇り”は今も国民の間に根強く意識されているようです。
現在の宗教指導体制に賛成か反対かは別として、イランの皆さんに広く支持され、共有されているのが、ペルシャ人としての誇りだと言われています。
アメリカおよび欧州への対峙がもしペルシャへの回帰というレコンギスタなのだとすれば、反欧米の言動も理解できます。
ただ、調停・仲介の際に触れる現在のイランは、アラブ諸国との“イスラム”をベースとしたつながりの強化という方針も取っており、周辺国に攻撃は加え非難は浴びているものの、イスラムの連携が、宗派を超えて図られているように感じます。
レコンギスタ的にいうと、かつてのペルシャ帝国とアラブの人たちの連携の再興を目指しているのでしょうか?
トルコについては、オスマン・トルコ帝国の精神と誇りは、ペルシャ帝国のものと同じかと考えられ、首相時代のエルドアン大統領を指して“アラブの父“と呼んでいたように、アラブの父としての立場への復権という、一種のレコンギスタが図られているのではないかと考えています。
また、経済的なスランプを機に勢いが衰えたトルコも、半ば強引すぎると非難されるエルドアン大統領の戦略を通じて国際社会におけるパワーハウスへの回帰という、国際舞台における失地回復を図っているのではないかと考えます。
ロシアのプーチン大統領が欧米に裏切られて路線変更を行ったように、エルドアン大統領のトルコもまたEU加盟を夢見つつも欧州各国に冷遇されたいきさつをベースに欧州との対峙に打って出て、様々な政策フロントで欧州に圧力をかけて、欲しいものを手に入れるという究極の交渉術を発揮しています。
独自のスタンスを確立しつつ、アジアと欧州とアラブの核に位置するという地政学的な利点もフルに活用し、今ではウクライナ問題、イラン情勢、アラブとの対話、中央アジアのトルコ系連合の強化などの中心に位置し、確実に失地回復を進めているように見えます。
今後、緊張が高まる国際情勢下で、戦争の連鎖・ドミノ倒しを防ぎ、第3次世界大戦を未然に防ぐには、トルコの役割は決して無視できません。
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「仲介役」でレコンギスタを果たしていると言えるパキスタン
今回、アメリカとイランの和平協議の仲介を申し出たパキスタンにとってのレコンギスタはどうでしょうか?
2001年のアメリカ同時多発テロとWar on Terrorの際に、アフガニスタンを隣国に持ち、イスラム教国であり、かつ世界屈指の情報機関を持つ国としてクローズアップされ、一時期はパワーハウスに準じるサークルに入っていましたが、その後のインドとの対峙や経済的・政治的なスランプとスキャンダルを経て、すっかり鳴りを潜めていたのがパキスタンですが、今回、仲介を通じて、再び国際舞台の中心へ躍り出て、“かつての栄光よ、再び”とばかりに失地回復に乗り出し、隣国インドに対する激しい対抗心を再燃させているように見えます。
先週末の第1回目の協議(イスラマバード)は、21時間にわたるやり取りを経ても合意を引き出せませんでしたが(そしてパキスタンに大きな経済的なコストももたらしましたが)、確実に外交の表舞台にカムバックし、2回目の協議を前に、トルコ・カタール・サウジアラビア王国との協議を急ぎ、仲介におけるバックボーンの強化に乗り出しています。
ただ、アメリカがイスラエル絡みの仲介には向かないのと同じく、非常に反イスラエル色が濃いパキスタンも仲介には向かないと思われ、1回目の協議が物別れに終わってから、シャリフ首相が「イランをイスラエルが核で攻撃するようなことがあれば、パキスタンの核兵器がイスラエルを破壊する」という発言を行い(中国も同様の発言を行った)、予てより、「ガザにおけるイスラエルの行いはジェノサイドで、その後、レバノンで行う無差別攻撃もまた罪を重ねる行為」と非難し、「中東地域における戦争の拡大と激化の元凶はイスラエルで、イスラエルが和平のディール・ブレイカーだ」と非難しています。
仲介の可否・是非はちょっと考えないといけませんが、国際社会へのカムバックという観点からは、レコンギスタを果たしていると言えます。
ではかつてのパワーハウスである欧州はどうでしょうか?
第2次世界大戦まで保っていたと思わるかつての輝きはなく、アメリカの超大国としての台頭と、ロシアをまた敵に回した(味方にできなかった)ことで、国際社会においての覇権・影響力を失ったといえます。
グループとして集えば力を発揮できると考えて、紆余曲折の末、欧州連合(EU)として統合したものの、外交・安全保障政策はまだ各加盟国に握られている中途半端な統合であるため、影響力の回復には至っておらず、口先だけの元大国の集いに過ぎない状況になっています(私は欧州のことは大好きですが…とても残念な状況を眺めて嘆いています)。
ゆえに欧州各国としては、かつての威光と影響力を取り戻したいと願っており、これまではアメリカの威を借るキツネに過ぎなかったが、トランプのアメリカとのTrans-Atlantic関係にヒビが入ったことで、アメリカに頼らない独自の防衛と安全保障体制の構築を、やっと模索し始め、今週には“USなしのNATO”についても議論の机上に上がってきていますが、レコンギスタ起こりの地とはいえ、欧州の復権は、単独では望めないと考えています。
レコンギスタの実現のために、欧州は自らの力を強化するのに加え、“どの大国と組むか、それともすべてと等距離の付き合いをするか”を検討しなくてはなりませんが、欧州、特にフランスが夢見るかつてのように国際情勢を左右し得るパワーハウスへの回帰はないと考えています。“欧州”として立っていられれば成功なのかもしれません。
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レコンギスタのためイスラエル孤立の方策を練るアラブ諸国
では今回、見事に巻き込まれてしまったアラブ諸国はどうでしょうか?
かつて欧米にしてやられ、人工的な対立構造と国境によって分断されたアラブ・イスラム社会を再度一つの大きな塊として再興したいというのが、レコンギスタではないかと思います。
その達成のためには、イスラエルは邪魔であり、倒さないといけない存在ではあるものの、今や地域における一強となり、欧米のバックアップを盾にするイスラエルを打ち負かすことは容易ではなく、欧米、特にアメリカの影響力を削いで、イスラエルを孤立させる方策を練っているようです。
その動きが、中国の仲介によるイランとの和解だったのですが、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃の激化の煽りを受けて、自国も攻撃に晒される状況下で反イスラエルのGrand Coalitionをイランやトルコを交えて組織するのが難しくなっており、アラブのレコンギスタの達成はまだ見えてきません。
ただ、基礎は着実に固められており、それがサウジアラビア王国やカタールのアメリカ離れの加速です。カタールは今回のイラン情勢を受け、域内の空軍基地の返還をアメリカに求めた最初のアラブ諸国になりましたが、それに近くサウジアラビア王国も続くとのことで、アメリカとイスラエルの呪縛から離れようとする動きが加速しています。その成否は分かりませんが、何か大きな変動が起きているのは確かです。
米国とイスラエルによるイラン攻撃の前に、サウジアラビア王国をはじめ、複数のアラブ諸国が核保有国であるパキスタンと相互防衛協定を締結していますので、もしかしたら米軍の跡地にパキスタンがやってくるのかなあと想像してしまいます。
最近、イラン情勢に対する動きが活発化しているため、戦況が完全に動かなくなってしまったロシア・ウクライナの当事者ウクライナはどうでしょうか?
ウクライナが独立国となったのは、1991年に旧ソ連が解体された混乱の中での動きで、長年国家を持たないスラブ民族でロシア帝国の一部というステータスからの解放が気になっており、やっと手に入れた独立を死守したいと願い、独立で手に入れたいかなる失地も取り戻さないと、民族的・国家的なアイデンティティがもたないと考えており、イスラエルと同じく、生存・存続のための戦いを繰り広げているのが、現在の戦争です。
ちょっと強引な描写であるため、賛否両論あるかと思いますが、今まさにロシアによるウクライナの再組織化・再編入という企てを通じ、東部を失った状態になっていますが、ロシアによる侵略への対抗を通じて、失地を取り戻すレコンギスタの真っ最中といえます。
戦況は停滞し、圧倒的に有利なロシアの戦力を前に押されているのは現実ですが、欧米からの支援が細り、かつ頼みのアメリカが支援をイスラエルに差し向けている窮状にも関わらず、何とかロシアからの強大な圧力に抗しています。
ただウクライナが持ちこたえるのは時間の問題とされ、自前のドローンや防空システムの著しい発展はあるものの、戦争を続けるための支援が途切れる状況ではかなり苦しいのが実情ではないかと見ています。
イラン情勢が早期に解決しない場合、知らないうちにウクライナがロシアに吸収され、ロシアのレコンギスタの一部になっているという状況も、もう妄想ではないような感じになってきています。
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しばらく落ち着くことはないと考えられるイラン戦争
では、イラン情勢が早期に解決する見込みはあるのかについて見てみたいと思います。
結論から申し上げますと、そのカギを握るのは、アメリカでもイランでもなく、イスラエルの出方です。
アメリカとイランの間で協議された和平条件の中に“イスラエルによるレバノンへの攻撃停止”が入っているか否かという議論がありますが、いろいろな情報によると、当初、米・イラン間で協議した際には、レバノンへの攻撃条項は含まれていたという証言が多くありますが、それに横やりを入れ、イスラマバードでの米・イランの協議直前にレバノンへの大規模攻撃を実施して、止める意思がないことを示して、イスラマバードでの協議前に和平交渉を失敗させることに成功したと言えます。
その後もイスラエルはヒズボラ掃討を正当化してレバノンを攻撃していますが、それは明らかなAct of aggressionであり、イスラエルの領土的な野心の現れと捉えられており、トランプ政権もそれを重々承知していますが、トランプ政権にとっては手を付けてしまったイランとの戦争を終えるには、イスラエルの協力が不可欠であることから、ズルズルと黙認することになっているようです。
一応、トランプ大統領からの要請(命令)を受けて、イスラエルとレバノン両国の駐米大使がワシントンDCで直接協議をし、そこにルビオ国務長官やイッサ駐レバノン米大使、そしてウォルツ国連大使が同席して協議を行っているものの、イスラエルが突き付ける“ヒズボラの武装解除の徹底”は、レバノン政府にとっては国内の宗教対立を深め、1975年から1990年まで続いた泥沼の内戦の再発を誘発しかねないとの恐れから受け入れられない条件となるため、イスラエルはトランプ大統領のお膝元においてでさえ、対レバノン戦争および対イラン、ハマス戦争の完遂のための時間稼ぎに勤しんでいます。
結果として、イラン情勢を解決に導くための材料をアメリカ政府が見出すことが出来ず、かつイスラエルに矛を収めさせるための手段も見つからない状況が明らかになっていることから、仲介の労を担うパキスタンに最大限の敬意を表するものの、米(イスラエル)・イランの戦争が落ち着くことはしばらくないと考えています。
今回、レコンギスタという、いつもとは異なる視点から現在の国際情勢の裏側を描いてみました。
今週末も引き続き複数の紛争調停トラックが並行して走ることになりますが、しっかりと頑張りたいと思います。
今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年4月17日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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