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中国製AIを利用する米国企業が「急増」の衝撃。トランプ政権内で激化する“全面禁止”を巡る議論に欠けているモノ

激化の一途をたどる、アメリカと中国のAI開発における覇権争い。高性能かつ低コストの中国製AIモデルが急速に存在感を高める中、アメリカではその利用を巡って激しい議論が続いています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、中国製AIが米企業に浸透する背景と、トランプ政権内に広がる規制論争を分析。その上で、米中AI競争が迎えた「新たな局面」について詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ政権は警戒する中国製AIモデルの勢いを止めることができるのか

アメリカ企業が中国AIを続々導入。トランプ政権は、警戒する中国製AIモデルの勢いを止めることができるのか?

Deep seekショックの再現か──。

中国のAI新興企業である月之暗面(ムーンショットAI)が最近発表した「Kimi K3」。そして電子商取引最大手アリババグループがやはり最近リリースした「千問 3.8 Max」が高く評価されたことを受け、今ワシントンでは中国製AIモデルを利用するアメリカ企業に対し、それを禁じるべきか否かをめぐって侃々諤々の議論が起きている。

オーストラリアのテレビABCはニュース番組の中で、〈トランプ大統領のテクノロジー担当顧問(マイケル・クラツィオス氏)が「いわゆる『蒸留』(知識を移し替える方法)を使ってアンソロピックのAIモデルを違法に再構築している」と非難した〉ことを伝えた後で、〈アメリカは中国製モデルの全面的禁止を検討しています〉と結んだ。

アメリカが中国製AIモデルの禁止を急ぐ背景には、すでに多くのアメリカ企業が中国製AIを積極的に使い始めているという現実があるからだ。

いつのまに、というのが読者にとっても正直な感想ではないだろうか。アメリカの公共放送PBSが『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記者を招いた放送の中で、キャスターが「すでにアメリカの企業が中国製AIをつかっているとは知りませんでした」と語ったのも頷ける。

米CNBCは7月7日の記事、「オープンAIやアンソロピックのコストが高騰する中、中国のAIモデルがアメリカの企業の間で頭角を現している」で、今春から中国のAIモデルを使うようになったアメリカ企業が急増し、ピーク時には45%を超えたとも報じている。

民泊大手のAirbnb(エアビーアンドビー)が中国製AIを取り入れたことも業界に衝撃を与えた。アメリカではないが、ドイツのシーメンスも中国製AIを使っていると報じられた。

たたでさえ「中国製」に対する警戒心が強いアメリカで、そのど真ん中ともいうべきAIで中国製が広がるのはなぜだろうか。

答えの一つは、CNBCも見出しで指摘しているように「コスト」の問題が挙げられる。もちろん、その前提として中国製AIモデルの性能の高まりがある。

今回、「Kimi K3」のリリースに際しても、米テスラーのイーロン・マスク氏が即座にこれを称賛したとして大きな話題となった。

ビジネスの現場でAIを使用する機会が増えれば増えるほど、クローズドのAIモデルであるアメリカのAIを使う負担は重くなっていた。

それを考えれば同等のパフォーマンスが期待できる上に、オープンウェートモデルの中国製AIモデルを使えば、コストが〈60%から90%も安くなる〉(「CNBC」)となれば選択肢が広がっても不思議ではない。

ただ問題は米企業が莫大な資金を投じてAIモデルを完成させている点だ。その米企業がいとも簡単に中国に奪われたとなれば、容認できるはずはないということだ。

米下院国土安全保障委員会と下院中国共産党特別委員会は、すでに4月の段階で、中国製AIモデルを利用するアメリカの企業に対する合同調査を立ち上げている。

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3年前に設立されたばかりのムーンショットAIが大論争を起こす凄まじさ

一方では、先述した「蒸留」に関して中国モデルの不正を問う声もメディアを中心に高まってきている。

ただ後者に関しては、7月23日の『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が「世界のAI専門家、モーンショットの『Kimi K3』モデルに対する米国の『ディスティレーション(蒸留)』主張に反論」で、その根拠があいまいである点を報じている。

詳細な紹介は避けるが、中国側にもさしたる動揺は確認できない。

一方、規制をすべきか否かをめぐる議論はトランプ政権内で活発になっている。

それを詳しく報じているのは『ウォール・ストリート・ジャーナル』だ。タイトルは「米主要AI企業のトップら、中国製モデルに警鐘」である。

中国製AIモデルを規制すべきとする意見には2種類あり、一つは共産主義国家が進めるモデルの広がりに対する警戒であり、もう一つは〈高度なサイバーセキュリティー機能を備えたAIモデルが無料でダウンロードできるという〉ことへの有害性を問う声だ。

後者の代表はアンソロピックのダリオ・アモデイCEOである。

こうした意見に対してベンチャーキャピタリストでホワイトハウスのAI顧問も務めるデービッド・サックス氏は〈新たな法律や政策を利用して競合他社を妨害しようとする試み〉と、その主張を一蹴する。

また米政治誌『POLITICO』は、7月22日の記事「スタートアップ創業者ら、中国製オープンウェイトAIの遮断を行わないようトランプ氏に要請」の中で、〈200社近いシリコンバレー企業がトランプ政権に対し、中国製のオープンウェイトAIモデルへのアクセスを遮断しないよう強く求めた。さもなければ、次世代の米国スタートアップ企業に致命的な打撃を与えるリスクがあると訴えた〉と報じている。

また米『フォーチュン』誌も、「米政府が中国のAIにパニックに陥る中、ジェンセン・フアン氏はKimiのようなオープンソースモデルを『優れている』と評価し、禁止するのではなく受け入れるべきだと語る」というタイトルで、民間には規制に反対する声があることを伝えている。

いずれにせよ、たった3年前に設立されたムーンショットAIが、これほどの論争を巻き起こすのだから凄まじいというほかない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年7月26日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: gguy / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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